タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

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第一章 異世界のアルコータス

リターン

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 ゴトゴトと揺れている……。
 薄暗く、光量は穏やかだった。
 意識を取り戻したとき、俺は大の字に寝ていた。
 周囲を見回すと、隣には添い寝をするようにギルティープレジャー。
 右の足元には、黒髪ポニーテールのヒサメが座っていた。
 上からナムリッドが覗き込んでくる。
「気分はどう?」
 俺はろれつが回らず、うまく答えられなかった。
 目が覚めて、周囲への認識がはっきりしてくる。
 俺は小型トラックの荷台の上で寝ていた。
 マットが敷かれているため、寝心地は悪くなかった。
 それだけじゃない。
 俺の頭は、ナムリッドの伸ばした太ももの上にあったのだ。
 俺は慌てて身体を起こした。
「ありがとう、ナムリッド。寝心地良すぎて永眠するところだった」
 ナムリッドはくすりと微笑んだ。
「軽口が叩けるなら問題ないようね」
「腹が減ったよ。みんな吐いちゃったから」
「ロシューがきっとおいしいものを作って待ってるわ」
 外からクラクションが鳴らされた。
 トラックの後ろを走っている、マトイのバイクからだ。
 隣には、アデーレとクラウパーの装甲バイクも並走している。
 俺は無事な証に、マトイへ手を振った。
 マトイも振り返してくる。
 あっ?!
 いま、つられてアデーレも手を振りかけたぞっ!?
 向こうは無かったことにしたい様子で、ハンドルを握り直したけど。
 ナムリッドが言った。
「気を失ったあなたを、アデーレが背負って運んだのよ」
「ふーん。じゃ、貸し借り無しだな……」
 鎧を着ると傲岸不遜なアデーレが、俺を運ぶとは……。
 口では「貸し借り無し」と言ったものの、かなりな恩を売っちゃったかもしれない。
「ん?」
 俺は傍らに宝石が置かれていたことに気づく。
 ボーナスで貰った青い宝石、卵大のトリファクツ結晶だ。
 それを手に取ろうとして、もっとすごいものが目に入る。
 荷台の隅。
 黄色い巨大な宝石が車の振動で震えていた。
 大きさは育ったスイカほどもある。
 それを指さして、ナムリッドに聞いた。
「あれもトリファクツ結晶か……?」
「そうよ、あの巨人が蒸発したあとに残ったの」
 俺が貰った卵大の結晶でも家が買えるほどだという。
 スイカ大だったら……。
「どれくらいの価値になるんだ、アレ?」
 ナムリッドは口もとに人差し指を当て、考えながら答える。
「う~ん、そうね……、アルバの本部を中の備品ごと全部新しくして、今ある車両も買い換えられるくらい……かな? ギルティープレジャー並みの魔道剣をもう一本買うにはちょっと足りないかしら」
「大金持ちになるのは違いないか……」
「団長は車が買えるって喜んでたわ」
「車ってそんなに高いのか? 今までの感じから、そうは思えなかったけど」
「特注の装甲車なのよ。団長は多くのマナ・ファクツを扱えるから、もっと大きくて重い車も動かせるわ。もうずっと前に図面は引いてもらってたんだけど、製造となるととんでもない大金がかかるから……」
「ふーん、こりゃ団長にも恩を売れたかな……?」
「ふふっ、そうかもね」
「さて、腰を落ち着けるか……」
 俺は四つん這いになって、運転席との仕切りまで移動した。
 その仕切に背中を預けてあぐらになったとき、ヒサメが俺を見つめていたことに気づいた。
 いつから見ていたのだろう?
 ヒサメは、鋭く射抜くような、それでいて湿った視線を俺に向けていた。
 目と目が合う。
 ヒサメは静かな熱がこもった口調で言った。
「タネツケ……、おまえは強い男だ……確実にな……」
 ヒサメはなおも、まっすぐに俺を見つめる。
「へ、へへ……」
 俺は照れたふりをしながら頭をかき、ヒサメの視線から逃れた。
 再び、ちらっとヒサメの様子を伺う。
 今、ヒサメの目はナムリッドに向けられていた。
 ナムリッドを見ると。
 ナムリッドの目はヒサメに向けられていた。
 二人は無言で見つめ合っていた。
 いや……。
 無表情で睨み合っている!
 このほうが的確な表現だった。
 三者沈黙。
 車がゴトゴト揺れるばかり。
 怖い。
 俺はひとりごとっぽくつぶやいてみた。
「お昼ごはんは何かな~? 楽しみだな~」
 もちろん、この静寂を打ち破るような力はなかった……。

 ☆☆☆ 

 俺たちはアルバ本部に帰還した。
 俺は外されていた胸当てを再び身につけ、荷台から降りる。
 トークタグで連絡を入れておいたので、ロシューとイリアンが出迎えてくれた。
 ネコミミメイド、イリアンの微笑みが疲れを癒してくれる。
「タネツケさん、初めてのお仕事はいかがでした?」
「まあ、やることはやったよ」
「あら、よゆ~でいらっしゃいますね」
 イリアンはころころと笑った。
 そこへトゥリーが、例の巨大宝石を運んできてロシューに渡す。
「これが今日最大の収穫だ」
 途端にイリアンが青ざめる。
 このトリファクツ結晶を持っていたモンスターが、どれほどの大物だったか察しがつくのだろう。
 イリアンは声を震わせた。
「ほ、本当にみなさんご無事なんですか……?」
 トゥリーが親指で俺を指し示す。
「ああ、こいつのおかげでな。ケガ人はいない」
 イリアンが胸をなでおろす横で、ロシューが言った。
「頑張ったな、タネツケ。冷めてもおいしいものを用意しておいた。存分に食べてくれ」
「ちょうどはらぺこでね。楽しみだよ」
 全員が出入口前にそろった。
 残った小物の結晶の入った袋をイリアンに渡し、団長を先頭に中へ入っていく。
 食堂に着くと、ケチャップの匂いが鼻をくすぐった。
 テーブルの上には人数分の食事。
 こんもりと盛り上がったうす焼き玉子の下に、赤いものが覗いていた。
 これはッ!
 オムライスじゃないかッ!
 米が食えるなんてありがたい!
 俺は武器を外すのも忘れて、食卓につこうとした。
 その後ろを通りすぎて、みんなは階段に向かっていく。
 そばに居たマトイに聞く。
「ちょ、みんなどこ行くんだよ?」
「あ、タネツケは初めてだっけ。帰ってきたら、まず三階の武具調整室へ武器を置きに行くの。あとで手入れをしなきゃならないし、汚れてるでしょ?」
「ああ、そうか」
 この部屋の武器ラックを見れば、かけられているのはアデーレのランスだけだった。
 さんざん浴びた返り血や、こびりついたはずの肉片は、本体のモンスターが蒸発するのと一緒に消え失せている。
 でも土はついてるかもしれない。
 俺もマトイのあとをついて、三階へ上がっていった。
 作戦検討室を通りすぎて奥へ向かう。
 武具調整室はかなり広く、複雑な匂いが充満していた。
 油に金属、なにかわからない甘い匂い。
 四方が棚だらけで、備品が詰め込まれている。
 缶に入ったクリーム、木槌に砥石にグラインダー。
 細かい作業をするような工具の数々。
 火鉢もある。
 音叉のようなものは何に使うんだろう?
 部屋の片端ではアデーレとクラウパーが鎧を脱いでいる。
 トゥリーも部屋の隅で革鎧を取っていた。
 部屋の奥にはギルティープレジャー専用の台があった。
 メーターがいくつも付いていて、剣を横置きできる長さがある。
 ナムリッドの白いスタッフにも、専用の台があった。
 やはりメーターが付いているものだ。
 マトイとヒサメも、それぞれ自分用のスペースを持っているようだった。
「俺はどうするかな……?」
 このつぶやきに、クラウパーから声がかかった。
「俺の隣が空いてるぜ。どうせ胸当てを拭くぐらいしかしないだろ?」
「ああ、そうだな」
 クラウパーの鎧の下は、厚手のウェットスーツみたいなものだった。
 頭からすっぽりと全身を覆っている。
 俺はクラウパーの隣に移動して、聞いてみる。
「そんなの着て、よく戦闘できるな。暑いんじゃないか?」
 クラウパーは笑いながら答える。
「ホントになにも知らないな、おまえは。このスーツの中には冷却水が流れるネットがあるのさ。攻撃のショックを和らげて、熱がこもるのも防ぐ。フルプレートに無くてはならないものさ」
「ふーん」
「だから突き破られると、修繕費用がかなり高くつくんだけどな」
「そこへいくと俺は気楽なもんだ」
 ワンタッチ留め具を外して胸当てを脱ぐと、剣と一緒に床へ置いた。
 後ろからマトイの声がかかる。
「さ、下いこっ!」
 振り返ると、マトイとナムリッドが並んで立っていた。
 ナムリッドも言う。
「ずっとタケツネを膝枕してたから、わたしも疲れておなかぺこぺこ」
 背の低いマトイが、見上げるように青い瞳でナムリッドを睨みつける。
 対するナムリッドは余裕の表情で微笑み返す。
 複雑な人間模様を呈してきたこの場ッ!!!
 お、俺の取るべき道はッ!!!!
 俺の漢道のありかはッ!!!!
 俺は二人のあいだに割り込んで、マトイとナムリッド、両方の腰に腕を回した。
「食事は楽しく食べなきゃなっ!」
 マトイは頬を赤らめてつぶやく。
「ちょ、ちょっと調子に乗りすぎじゃない……?」
 ナムリッドは俺に流し目をくれた。
「ふ~ん、タケツネってそういう人だったんだぁ~?」
 二人ともまんざらでもない様子。
 勝ったッ!!!!
 これでいこうッ!!!!
 ハハハハハハッ!
 ハハハハハハッ!
 などと強がってみても。
 俺は内心、冷や汗をかいていた。
 イケるのか、これで……。
 


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