タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

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第一章 異世界のアルコータス

反魔法

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 朝食が終わり、トゥリーがやってくる。
 それからアルバの一日が回り始めた。
「今日は仕事が多いな。緊急出動がかからないといいが……」
 トゥリーはそう言って、巨大トリファクツ結晶を運び出した。
 馴染みの工場に引き渡し、特注装甲車の詳細をつめるという。
 午後までには、そこに団長も加わるそうだ。
 それまでは何をするかというと、ヒサメを補佐として報告書を仕上げるらしい。
 トゥリーやナムリッドじゃなくて、ヒサメというのが意外だった。
 でも、考えてみれば納得できる。
 トゥリーには団長が動けないときに、代理として働いてもらいたいだろう。
 それにヒサメの冷徹な物腰は、細かい書類を作成するさいにも頼りになりそうだった。
 普段はどのように待機時間である午前を過ごすのか、マトイに聞いてみた。
 まず、基本的には洗濯がある。
 掃除をしてもいい。
 これはみなが、それぞれやらねばならないことだ。
 もっと個人的にはどうか?
 団長は、作戦検討室にあった通信機で、周囲と連絡を取りあう。
 トゥリーは団長の言いつけで、外に出ることが多い。
 マトイは積極的に街中をパトロールし、顔馴染みに挨拶してまわる。
 ナムリッドは読書して過ごすという。
 ヒサメは武具調整室にこもって、自分好みの矢を作る。
 クラウパーはロシューの手伝いをよくした。
 特に買い物だ。
 アデーレはイリアンの仕事を手伝ったり、ふらっとパトロールに出たり。
 比較的に気まぐれだそうだ。
 戦いさえなければ、半分休みみたいな過ごし方だった。
 その反面、俺たちには休日が無かった。
 丸一日オフということは無い。
 そりゃそうだ。
 相手はモンスターだからな。
 さて、俺は午前をどう過ごすか……?
 それを考え始める間もなく、ナムリッドに声をかけられた。
「ねえ、タケツネ、ちょっと表に出ましょう。広い場所がいいから、街の外になるわ。ヒマなときにやっておきたいことがあるの」
 俺が返事をする前に、マトイが口を挟む。
「あっ、じゃあアタシも行く!」
「別にマトイが期待してるようなことはしないわよ?」
 マトイは顔を赤くして言った。
「そんなの、行ってみなきゃわからんないでしょっ?!」
 俺はまだなんの返事もしてないのだが……。
 アデーレが鎧を鳴らして、勢いよく立ち上がる。
 そして、何を言うでもなく、再びノロノロと腰を下ろす。
 何をしたいのかわからないが、コイツもヒマな口か……。

☆☆☆  

 というわけで、俺たちは街の外壁の外に来ていた。
 農耕地もほど近い、緑の丘の上だ。
 俺たちは四人。
 俺、ナムリッド、マトイ、アデーレ。
 最初は、ナムリッドがトラックを運転して、俺と二人でここまで来るつもりだったらしい。
 しかし、アデーレもついてくることになったので、トラックは使わずに済んだ。
 マトイのバイクの後ろに俺が乗り、アデーレの後ろにはナムリッドが乗った。
 ナムリッドは空になった食用油の一斗缶を持ってきていた。
 用途は不明だ。
 左手に一斗缶を抱き、右手には白いスタッフを持っていたので、道中はちょっと大変そうだった。
 周囲にはのどかな風景が広がっているが、俺たちは全員、きちんと武装してきていた。
 外壁の外へ出るには、必要な身だしなみだった。
 バイクから降りると、ナムリッドは俺たちから離れた草の上に、一斗缶を置きに行った。
 戻ってきたところへ尋ねる。
「あんなものどうするんだ?」
「的は必要でしょ?」
 そう言ってから、ナムリッドは説明し始めた。
「わたし、昨日気になって調べたのよ、夜間図書館で。昔習ったことが頭をかすめたの。勘は当たったわ。『インクリーザー』が使えるなら……」
 赤い瞳が、凛と光って俺を見つめる。
「反魔法の『デクリーザー』も使えるはずよ!」
「反魔法ってことは、『インクリーザー』の逆に作用する魔法ってことか……?」
「そう!」
 そうは言われても、俺は教育の欠如を吐露するしかなかった。
「でも、やりかたなんてさっぱりわからないよ」
「そこはわたしが力になれると思う」
 ナムリッドは自信たっぷりだ。
 それから俺たちは、ちょっとした打ち合わせをして準備を整えた。
 俺とナムリッドは、缶のほうを向いて横に並び、手をつなぐ。
 ナムリッドの右手にはスタッフが握られ、左手は俺の右手をつかんでいた。
 マトイとアデーレは、腕を組んで後ろで見守っている。
 ナムリッドが言った。
「案ずるより産むが易し。行くわよ」
「ああ!」
「せーの……!」
 ナムリッドの合図に合わせて、
『通常魔法陣展開!』
 俺たち二人の足元に光と文字の輪が広がる。
 ゆっくりとした時の流れの中で、思考だけが素早く動く。
 俺は魔法の準備をしていった。
 ナムリッドに言われた通り、いつも通りに。
『ブルート・ファクツ収束』
 足元の魔法陣が金色の靄を集め、俺の身体へ流し込んでくる。
 力の奔流が、俺の背筋を這い上がってきた。
『魔力錬成』
『対象魔法構成』
 そこで、つながった右手から、ナムリッドの思考が飛び込んできた。
『構成魔法反転!』
 俺が組み立ててきた魔法の元が、くるくるとひっくり返る。
 内側と外側が入れ替わり、上下も逆になった。
 そこで俺は要領を得た。
『反転魔法構成!』
 ナムリッドの組み替えた魔法を、がっちり固定する。
 これで、この魔法は俺の新しい力になったはずだ。
『放出力量、限界突破!』
 俺は左手を缶に向ける。
「デクリーザー!」
 缶は「ぽふっ」と気の抜けた音を立て、ロケットのように空中高く跳ね上がった。
 成功だ!
 見上げると、缶は点にしか見えないほどの高度に達していた。
 それがゆっくりと、鋭い放物線を描いて落ちてくる。
「おおっ?!」
 見上げていたアデーレが、叫んで身をかわす。
 缶はアデーレの足元に落ちて弾み、変形した。
 アデーレがガントレットで指さしてくる。
「おまえ、わざとやったろう!」
「よくわかったな。さすが、勘のいいアデーレさまだ」
 アデーレは缶を踏みつぶして腕を組んだ。
「こんなもの、効きやしないけどな!」
 俺はまだ握っていたナムリッドの手を握り直して、礼を言った。
「ありがとう、ナムリッド! こいつは使えるよ!」
 ナムリッドは、少し疲れをにじませた顔で微笑んだ。
「わたしもいろいろ新しい経験ができて嬉しいわ」
 俺はあることを思いついた。
 試してみる価値はある。
 ナムリッドの手を離し、「ちょっと下がって見ていてくれ」と一同から離れる。
 緑の丘の彼方を見据えて、俺は走り始めた。
 走りながら、
『緊急魔法陣展開!』
 ゆっくりした時の流れの中で、魔力が高まっていく。
 速い精神と、遅い身体の動きを同調させるのが難しい。
 だが、やってできないことはなかった。
 俺は魔法を溜めに溜め、身体の動きが追いつくのを待った。
 足が地を蹴るのと同時に、魔法を放つ。
「デクリーザー!」
 俺の身体は宙を飛んだ。
 重力を軽減し、人間離れした高度と距離を。
 俺は放物線を描いて飛び、地面が迫ってくると再び緊急魔法陣を展開した。
 落下していく中で、タイミングを見てデクリーザーを放つ。
 魔力を絞るように、弱い力で着地できるように。
 俺は着地に成功した。
 ダメージは受けていない。
 俺は後ろを振り返って手を振る。
 ナムリッドたちは、三十メートルも向こうに居た。
 マトイは手に口を当て、アデーレは仁王立ち。
 ナムリッドは、スタッフを落としていた。
 どこかで見た光景だ。
 俺がナムリッドの魔力障壁を打ち破ったときだったか。
 そのときと同じように、みな呆然としていた。
 よし、帰りは全力を試してみよう。
 俺はダッシュをかけ、
『緊急魔法陣多重展開!』
 俺の関節すべてに赤い輪が回る。
 だが、一瞬で消えた。
 そのおかげで俺は足を挫きそうになった。
 立ち止まって考える。
 魔力を一気に高める多重展開は、通常展開同様、激しく動きながらは無理みたいだ。
 こんなこと、ナムリッドに訊けば前もってわかるはずだが、こっちはこっちで訊ねる言葉を知らないんだからしょうがない。
 それならもう一度、成功したことをおさらいしよう。
「デクリーザー!」
 俺は宙を飛んで戻った。
 彼女たちは、やんややんやの大喝采で迎えてくれた。
 ナムリッドはまだ若いけど、いい師匠になれる素養がある。
 いや、俺にとってはすでに素晴らしい師匠だろう……。
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