タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

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第二章 女神の揺籃 イシュタルテア

軍師タネツケ

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「全員、俺の声が聞えるか? 聞こえたなら手をあげてくれ」
 街の廃墟、瓦礫のなかで、アルバ部全員がこっちを見て手をあげた。
 俺は右のスクリーンに視線を移す。
 サリーたち3―Cの連中は、誰一人反応していなかった。
「いいぞ、向こうは気づいてない! いいかみんな、正面から当たったら勝ち目はない。一人当たりの力も、集団としての経験も向こうのほうがずっと上だ」
 強化された弓を展開しながら、ヒサメが聞いてきた。
「それで、どうする?」
「いまのところ向こうは油断している。相手の一人に対して、こっちは全員で攻撃できるような状況を作る。それでも敵うかわからない。でも、それ以外にない。向こうが気づくまで、一人ずつ潰していく」
 右のスクリーンから、サレニアの声が聞こえた。
「お食事たーいむ。ウォオオオオッ!」
 すでに耳まで口が裂け、牙をむいた怪物に変身している。
 サレニアが駆け出した。
 このままでは画面から外れてしまう。
「くそ!」
 視点を変えられないかと、画面に映るサレニアに触ってみた。
 サブスクリーンが開いて、サレニアを中心とした画像が出る。
 ほっとしたが、安心する暇はない。
 俺は左右のスクリーンに映る全員の姿をタッチして、全員分のサブスクリーンを出した。
 走るサレニアの背景が勢いよく流れていく。
 俺は警告した。
「サレニアがまっすぐ突っ込んでくる! 一人なのは好都合だが、最強クラスのヤツだ。接近戦タイプだが、身体能力がずば抜けている。頑丈で素早い」
 シャルロッテが無表情に言った。
「サレニアさんですか。どうにか動きを止めないと、あっという間にボロボロにされてしまいますね」
「そうだ」
 俺は答えながら、全体画像を見回す。
 サレニアの表示がぐんぐんアルバ部へ接近していく。
 俺は素早く頭を回転させ、マトイに指示した。
「マトイ、おまえの銃はあらかじめ八発充填できるって言ってたな?」
「うん」
「八発ぜんぶ、ネット弾だ。攻撃はほかのメンバーに任せよう」
「りょ、りょーかい!」
「サレニアは素早い。普通に撃ったら避けられるぞ。射撃のタイミングはマトイに任せるからな」
「うん!」
 俺はさらに指示を飛ばした。
「みんなの右斜め前、十メートルほどのところに、壊れた噴水の広場がある。広場のなかは瓦礫が少なく、周囲には身を隠せる場所がある。そこでサレニアを迎え撃とう」
 ヒサメが言う。
「サレニアがそんな広場へ入ってくる保証はあるのか?」
 俺は決断した。
「イリアンを囮にする」
 イリアンがネコミミを震わせ、驚いた声を出す。
「え、わた、わたくしですか?」
「ああ。戦いに不慣れなイリアンがみんなとはぐれてうろうろしているっていう設定だ」
「わたくしそんなに間抜けじゃありません!」
「そこは名演技を頼むよ。サレニアは身体能力を驕って油断しているところがあるからな。きっと食いつく」
「ううーん、わかりましたぁ……」
「じゃ、配置についてくれ。サレニアはみんなから見て前方から接近している」
 アルバ部とイクサは指示に従って移動する。
 俺はさらにつけ加えた。
「サレニアは強力だ。でもここでアイツを倒せなければ、誰一人倒せず全滅する……」
 俺は右のスクリーンをチェックした。
 サリーたちは広く散開し、余裕の足取りで歩いてくる。
 アルバ部とはまだだいぶ距離があった。
 これならサレニアになにが起こっても、まず気づかれないだろう。
 マトイたちは、広場を取り巻く瓦礫のなかに身を潜めた。
 少ないチャンスをものにするため、意識を集中している。
 イリアンが広場に歩み出た。
 壊れた噴水のそばに立つ。
 イリアンは銃を抜き、おろおろした様子で周囲を見まわし始めた。
 いい演技だ。
 サレニアの表示が近づいてくる。
 その動きが止まった。
 広場の端に達しているはずだ。
 俺は見守った。
 グールの姿で、前かがみになったサレニアがゆっくり広場へ近づく。
 サレニアはわざと足音を立てて、イリアンの前へ姿を現した。
 振り返ったイリアンに、いたぶるような口調で言う。
「ぐふ、お嬢さん、はぐれちゃったの……?」
「ああっ!」
 イリアンが驚いたふりをして銃を構えた。
 サレニアは動揺しない。
「そんな豆鉄砲、なんの意味もないよ……、だいじょうぶ……」
 サレニアは牙を噛みあわせて、ガチガチと鳴らした。
 赤い瞳が輝く。
「ちゃんと……、ちゃんと味わって食べるからァァァッ!」
 サレニアがイリアンに向かって跳ぶ。
 方向転換の利かない空中ッ!
 撃つならここしかないッ!
 マトイに抜かりはなかった。
 光のネットが広がり、ジャンプしたサレニアを捕らえた。
「イケるわ!」
 マトイは走りだし、回り込みながらネットを連射する。
 サレニアは地面に転がると同時に、最初のネットを引き裂いていた。
「こんなものォォォッ!」
 だが、そこへ第二、第三のネットが重なっていく。
 マトイが動きの少ない的を外すわけがない。
 ネットは幾重にも厚みを増し、もがくサレニアの動きを封じた。
 ものの数秒で、サレニアは輝く繭と化してしまった。
 そこへ、空からアデーレが襲いかかる。
「くらえぇぇぇっ!」
 背中からブーストを噴射しての踏みつけ攻撃だった。
 サレニアはこれを察知したらしい。
 繭のまま転がって避ける。
 アデーレは敷石を砕き飛ばして着地した。
 しかし、サレニアの繭が転がった先には、避けようのない攻撃が待っていた。
 横殴りで襲い来る、イクサの鉄球が。
 鉄球がまともにヒットする。
 サレニアの繭が絶叫とともに空中へ舞った。
 空中にあっても、ヒサメの矢が攻撃を加える。
 サレニアの繭に三本、六本、九本と光の矢が刺さった。
 続いて、シャルロッテのきらめく爆雷が空中に広がる。
 一斉に爆発し、爆圧でサレニアを地面に叩きつけた。
 そこへさらに降るような爆雷、ヒサメの輝く矢、マトイの銃撃、アデーレのデーモンメイルからのエネルギービームが、怒涛のように浴びせられる。
 攻撃の勢いで濃い土埃が噴きあがり、一帯を覆い隠した。
 視界が利かなくなる。
 アルバ部の攻撃は止まった。
 サレニアが生きている場合に備えて、俺は声を出さない。
 固唾を呑んで見守った。
 イリアンの声があがった。
「風よ!」
 確か、そよ風を吹かせる魔法を習得したと言っていた。
 それだろう。
 ゆるやかな風が土埃を吹き晴らしていく。
 視界が戻ると、それが見えた。
 瓦礫のなか、黒い血だまりのうえに横たわったサレニアの繭が。
 繭は薄汚れてボロボロになっていた。
 見ているうちにも繭はへこみ、平らになってしまった。
 マトイが銃を操作して言う。
「ネット解除!」
 ネットは消滅し、なかにあるはずのサレニアの身体もなくなっていた。
 全体図から、サレニアの表示が消える。
 俺は叫んだ。
「表示が消えた! 倒したぞ、サレニアを!」
 スクリーンのなかで、みんなは勝どきをあげて飛び跳ねた。
 最強クラスのサレニアを無傷で倒せた!
 この手は使える!
 俺は現実のほうのサレニアに目を移す。
 サレニアはソファに座って、まだ安らかに意識を失っていた。
 シミュレーターのなかでは死んだが、すべての勝負がつかないと戻って来られないらしい。
 これなら、俺が指揮をしていることが知られずに済む。
 ヒサメが言った。
「この調子でいこう。タネツケ、指示を頼む」
「ああ、ちょっと待ってくれ……」
 俺はあごに手を当てて考える。
 弱いのはシフォラナだが、弱いだけに慎重に行動してくるだろう。
 実際に、シフォラナは仲間たちの中央あたりを、少し遅れて進んできていた。
 これでは集中攻撃を行うことができない。
 全体図を見ると、ネサベルが集まりの端で、ほかのメンバーからかなり離れていた。
 攻撃できるのはコイツしかいない。
 ドリフティング・ウェポン使いだが、どうせ勝負しなければならないんだし。
 俺は言った。
「次はネサベルだ。猫の目をしたショートヘアーの槍使い」
 マトイが聞いてきた。
「いまみたいな、うまい奇襲ができる?」
 ペルチオーネの声が頭に響く。
『ドリフティング・ウェポン使いを奇襲なんてできないよ、マスター。ソードリングに感知されちゃうもん』
 その通りだろう。
 俺はみんなに説明した。
「ネサベルの槍はドリフティング・ウェポンだ。ソードリングがいる。奇襲は通じない。今度はダメージゼロとはいかないぞ……」
 話しながら、みんなの能力を思い出して計算する。
 俺はシャルロッテに聞いてみた。
「シャルロッテ、この前怪物の動きを止めた触手、今日も使えるか?」
「はい、だいじょうぶです。でも、ネサベルさんのような素早い相手では簡単に避けられてしまうでしょう」
「あの触手、味方に使えば物理的な壁になるな?」
「あ、そうですね」
 これで作戦が決まった。
 俺は言った。
「ネサベルは得意技を使ってきたときが一番の弱点だ。俺は知っている。その強烈な一撃、危ない橋だが、防御力の高いアデーレに受けてもらう。シャルロッテの触手も盾に使って」
 アデーレが答えた。
「そういう真似はしたことないが、初体験というのもいいだろう。このデーモンメイルの防御力、試してみよう」
「頼んだぞ、アデーレ」
 勝ち続けるには、細心かつ大胆に行動しなければならない。
 
 
 
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