タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

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第二章 女神の揺籃 イシュタルテア

3-C対アルバ部

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 夜の騒動はサリーの采配で治まった。
 だいたいみんな、腹を立てながら帰っていった。
 残されたのは壁に開いた大穴のみ。
  この穴についてもサリーが手配してくれた。
 ツナギを来た年上の女の人たちがやってきて、穴をシートで塞いでくれた。
 女の人たちはさらに、部屋の外に円筒形の装置を設置していった。
 ボンゼン・ブードーのスポーンが侵入したとき、学校の設備を修復した機械だ。
『遡行修復装置』というらしい。
 このままほっとけば穴が塞がってくれる、と説明を受けた。
 部屋の風通しがずいぶん良くなった夜だったが、俺は問題なく眠れた。
 朝が来ると、続く一日なんてあっというまだった。
 放課後にはアルバ部部員が総力をあげてサレニア、シフォラナと戦わなければならない。
 サレニアたちが勝ったほうがおいしいような気もするが、俺はアルバ部の部長。
 もちろんマトイたちの味方だ。
 とはいえ、対抗策を考える時間もない。
 カフェテリアでの昼食時、サレニアとシフォラナの攻撃能力と特徴を伝えることぐらいしかできなかった。
 俺だって、彼女たちの弱点なんてわからない。
 ただ、俺はシミュレーターでアデーレに負けている。
 2―Aの生徒といえども、3―Cの生徒に勝てる可能性はある。
 なにより数では優っていた。
 俺は戦いに参加できない。
 ナムリッドは中立的な立場での立会人に収まっていた。
 だが、シャルロッテはアルバ部として参加する。
 可能性としてはイクサもいた。
 一緒に食事しているんだから、イクサも味方になってくれると心強いんだが。
「デュフフフ……」
 イクサはどちら側とも明言せず、思わせぶりに笑うばかりだった。
 しかし、昼食も終わるころ、衝撃的な事実を突きつけられることになった。
 二人の女の子が俺たちのテーブルへやってきた。
 鬼っ子のモーサッドと、ネコ目のネサベルだ。
 モーサッドは俺たちを見おろして言った。「放課後が楽しみね。女の子はいたわりたいけど、はねっかえりはキチンとしつけるわ」
「どういうことだ……?」
 俺が顔をあげて聞くと、ネサベルが答えた。
「メンツのかかった戦いだ。サレニアとシフォラナのアホ二人だけに任せておくと思うか?」
 俺は息を呑んだ。
「まさか……!」
 ネサベルが首を傾げて答える。
「そういうことだ。3―C対アルバ部ってことだな」
 モーサッドがシャルロッテに声をかけた。
「あなたはこっち側についてもいいのよ、シャルロッテ?」
 シャルロッテは余裕の笑みを浮かべた。
「フフフフ、わたくしも燃えているのです。あなたがたと戦えると思うと」
「そ」
 モーサッドは角にかかった髪を振り払い、ネサベルとともに去った。
 ああ、なんてこった……。
 こっちはマトイ、ヒサメ、アデーレ、シャルロッテ。
 イリアンも参加するが、普通の銃じゃ戦力になるわけがない。
 四人で戦うと考えていい。
 向こうはサレニア、シフォラナ、モーサッドにネサベルの四人。
 数的優位さえなくなってしまった。
 部長として、頭を抱えるしかない……。
 マトイが唇を尖らせた。
「最初から数で勝とうなんて思ってないもん!」
 アデーレが怯えた声を出す。
「で、でも三年生が四人がかりだなんて。だ、だいじょうぶかなぁ……。あっ、すいませんごめんなさい弱気なこと言って……」
 ヒサメは落ち着いていた。
「勝っても負けてもいい経験になるだろ。ま、勝ちにいくけどな」
 イリアンはため息をついた。
「はぁー、こんなケンカみたいなこと、ロシューが知ったらなんて言うでしょう……」
 ペルチオーネが食べ物をもぐもぐ噛みながら言う。
「あたちを借りようなんて思わないでね。あたち、マスター以外に触れるのイヤだから」
 その手もだめか……。
 俺もイリアンにならってため息をついた。

☆☆☆

 放課後。
 俺達は武装して集まった。 
 体育館最上階のシミュレーター室だ。
 台座に載った透明な球体が中心にある。
 そのまわりには、ゆったりした一人がけソファが二十脚ほど。
 集まった出席者は大まかに別れて立っていた。
 左がアルバ部で、右が3―C。
 二手のまんなかに、俺、サリー、ナムリッドが立っていた。
 イクサもやってきていて、リキハを引き回してどっちつかずにうろうろしている。
 右手からサレニアが声をあげた。
「さっさと始めましょう。本来この時間を使うはずだった3―Bの方々が怒ってます」
 泰然自若とした様子で続ける。
「どうせ一分もかからないでしょうから」
 アルバ部のほうから軽い文句があがる。
 サリーはそれを無視して、ナムリッドに向き直った。
「じゃ、ナムリッド先生、確認をお願いします。フィールドは『廃墟となった近代市街』、時間無制限。3―C側は五名……」
 俺は口を挟んだ。
「ちょっと待て、そっちは四人だろ?」
「わたしを入れれば五人じゃない」
「なにっ? サリーも出るのか!」
「当然でしょ。ほぼ二年生で構成されたたった一部活に三年がなめられるわけにはいかないもの」
「まじかよ……」
「しょ、賞品なんか興味ないけどね、ぜんぜん。ぜんぜん興味ないよ」
 サリーの赤くなった顔から、一筋の鼻血が垂れる。
 困った。
 3―Cの最強は誰かといえば、サリーかサレニアだ。
 その二人とも向こうにそろってしまった。
 俺は淡い希望を込めて、イクサに聞く。
「イクサはどうするんだ? ここにいても戦いを見学できないぞ。そういう仕組だ」
「へぇー、そうん……? じゃ、アタイはこっちにつくわぁー」
 と、アルバ側へ行く。
 よし!
 アルバ側から『イクサちゃん先輩サイコー!』などと歓声があがった。
 黒いスーツのナムリッドが腕組みしながら口を開く。
「あらまあ、きれいに五対五に別れたわね。いいんじゃない? そのほうがみんなも結果にすっきりするでしょ」
 鼻にティッシュを詰めたサリーが、ナムリッドに言う。
「3―C側五名、アルバ部五名となりました」
「はーい、確認しました」
 ナムリッドが答えると、サリーは全員へ向かって言った。
「全員、着席!」
 アルバ側は勢いよく、3―C側は落ち着いた様子で席についた。
 サリーは球体の載った台座をいじってた。
 輝くスクリーンが何枚も、球体の前の空間に出現する。
 サリーが振り返って言う。
「タネツケくんはここに立ってれば、シミュレーター内での様子が見られるよ」
「そうか。じゃ、そうしよう」
 あまり気は進まないが。
 俺はなにも映っていないスクリーンの前に立ち、サリーもソファーに座った。
 俺の隣でナムリッドが声をあげる。
「みんな、準備できたわね。シミュレータースタートしますよ! 三、二、一、スタート!」
 座っている女の子たちがいっせいに意識を失い、周囲は静寂に包まれた。
 ナムリッドが肘で小突いてくる。
「もお、モテモテで憎らしいっ!」
「俺の存在なんて口実なだけだろ? みんな血の気が多いんだよ、かわいい見かけのわりに。のんきなもんだな、ナムリッドは」
「だってケガするわけでもないし。わたしはこういうのいいと思うけど。陰湿じゃなくてさっぱりしてるもの」
「そういう考え方もあるか」
「じゃ、わたし仕事があるから、勝負がついたらトークタグで呼んで。近くにはいるから」
 そう言ってナムリッドは部屋を出ようとした。
 その歩みが急にピタリと止まる。
 振り返って、妖しい微笑みを浮かべて言った。
「ね、いまここで、みんなが寝てる前でしちゃったら……、どんな気分がするかしら……?」
「こっちはそれどころじゃないよ! 仕事しろ!」
「はーいはい」
 今度こそナムリッドは出て行った。
 前に向き直ると、二つの大スクリーンに画像が映っていた。
 マトイたちのグループと、3―Cのメンバーが立っている。
 両者とも破壊された街の廃墟のなかで、まだかなり距離が離れている。
 全体的な様子は、一番上のスクリーンに表示されたマップとマーカーでわかる仕組みになってた。
 なにか操作できる要素はないかと、あちこち触ってみる。
 画像のなかのマトイに触ってみたら、その声が聞こえた。
「さーて、一泡吹かせてやりますかー」
 俺は次々に女の子たちを触れていき、全員の音声をオンにした。
 マトイが空を見あげる。
 視線は俺に向けられているみたいだった。
 そしてびっくりするようなことを言った。
「タネツケ、あそこで見てるんなら、応援してくれればいいのに」
「!」
 どうも俺の姿も見えているらしい。
 俺は他に操作できないか、スクリーンの周りを見回した。
 下に、○から波が広がっているようなマークがあった。
 まるでスピーカーの印だ。
 俺はそれを押して言ってみた。
「マトイ、もしかして聞えるか……?」
 マトイは目を丸くした。
「聞えるよ、タネツケ!」
 俺はサリーたちの様子に目を走らせた。
 こっちのスピーカーボタンは押していない。
 サリーは俺のほうを見ずに、指揮していた。
「適度に散開して、一気に片をつけちゃおうよ」
 サレニアが身を屈めて変身を始める。
「ふふふふふ、たーべちゃーうぞー」
 俺の声は聞こえていないようだった。
 俺は理解した。
 いま立っているここは、集団戦闘用の指揮官ブースだッ!!!
 サリーは俺を侮って、ここの機能が使えるとは思わなかったのだろう。
 ここからなら、サリーたちの様子は筒抜けで、マトイたちを有利に導くのも自在だ。
 俺はマトイたちに言った。
「ここからは相手が丸見えだ。勝てるかもしれないぞ、この戦い!」

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