タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

文字の大きさ
81 / 94
第二章 女神の揺籃 イシュタルテア

宵の始まり

しおりを挟む
『ボンゼン・ブードー、隣接!』
 緊迫した声の放送が響く。
 夕陽に赤く染まる街に、サイレンが鳴り渡った。
 遠く、学園にのしかかるようにして、ボンゼン・ブードーの黒い巨体が姿を現す。
 うごめく千もの多腕に、牙の並ぶ口だけの頭部。
 その恐るべき姿はまだ、霞の向こうにあるかのようにおぼろげだった。
 まだこの世界へは入っていない。
 次元の隔壁の向こうだ。
 そこに俺の力がある。
 あの忌まわしい黒い巨体と、俺のあいだに力の通路が開けただけだ。
 力の流入は押しとどめている。
 こっちの準備を進めなければならない。
 俺は左腕を掲げて叫んだ。
「ペルチオーネッ!」
 鞘に入ったままの剣が瞬時に現れ、左手のなかに納まる。
 置いてきたときのまま、刃が少し引き抜かれた状態だった。
 それを完全に鞘へ戻す。
 同時にソードリング・ペルチオーネが出てきた。
 その姿が変わっていた。
 輝く黒と赤のドレスを着て、俺の隣へ跪いている。
 目には強烈なアイシャドウを引き、唇は妖しく紅い。
 不自然なほどにまばゆい金髪には、宝石で飾られた冠を置いていた。
 俺は見おろして、口を開く。
「綺麗になったなペルチオーネ。この夜にふさわしい」
 ペルチオーネは顔をあげた。
「マスター、あたち、このときを待ってた。世界を滅ぼすのって初めて。あたちの初めて、マスターにあげる……」
「クックックックッ、お互い初めて同士でもうまくいくだろう、本能に身を任せればな。ダンスを踊るにはまず音楽だ、見ていろ」
 ボンゼン・ブードーの巨体が、世界を貫く唸り声をあげた。
 太い腕の一本を前へ突きだす。
 その輪郭がはっきりし、色が濃くなった。
『ボンゼン・ブードー、侵入!』
 魔法塔のてっぺんから強烈な光条が放たれた。
 光はボンゼン・ブードーの腕を切り落とす。
 腕は落下しながら、無数の破片に散らばった。
 破片はうごめき、形を変えて学園内に降ってゆく。
 放送が指示を出す。
『スポーン侵攻! 多数! イシュタルテアの総員で迎撃!』
 サイレンの音色が変わった。
 学園と、退学者の街までが一気に目覚めた。
 騒ぎが広がり、騒音と光が飛び交う。
 音楽がかかりはじめたのだった。
 その光景に満足しながら、俺はトークタグを起動した。
「タネツケより全員へ。俺はいま郊外にいる。こっちにもスポーンが数体飛んできた。街を守る。みんなで来てくれ」
 マトイの声が答えた。
「でも、指示を仰がないと」
「そんなヒマはない。俺たちだけで手を打つんだ」
 そこへナムリッドの声が加わった。
「そうしてちょうだい! わたしは動けないけど、ミッションシップを一台手配するから!」
 ヒサメの声が言う。
「待ってろ、タネツケ! 無茶はするな!」
 アデーレの声も聞こえた。
「いまいくからな! ふんばれッ!」
 それで通話は切れた。
 まだ跪いたままのペルチオーネに言う。
「一緒に踊ってくれるってさ。かわいい姫たちが、フフフフフ……」
 ペルチオーネは無言で唇をなめる。
「いくぞ、ペルチオーネ」
「はい、マスター」
 俺はペルチオーネを引き抜いた。
 ソードリングの姿が消える。
 両手で夕闇の迫る空へ剣を突きあげ、俺は力のチャンネルを開放した。
「うぉおおおおおおおッ!!!」
『イヤァアアアアアアッ!!!』
 俺とペルチオーネは一緒に叫んだ。
 強大などす黒い力が、次元の壁を越えて一気に流れ込んでくる。
 放送が混乱した声で告げた。
『ボンゼン・ブードー、侵入! え、ど、どこなの!? これ!?』
 俺はそんなものに構わず、ペルチオーネに命じた。
「ペルチオーネェェェッ! 世界にぃー! 風穴を開けてやれぇぇぇいッ!!!」
『イヤァアアアアアッ!!!』
 ペルチオーネの先端から、うねる光の柱が伸びた。
 その光が空間を吹き飛ばすッ!
 藍色に染まった宵の空に、きらめく黒い球体が出現した。
 この世界の外へ通じる出入口だった。
 俺は剣を掲げたまま、声高に叫んだ。
「狭間に潜むものどもよ! 饗宴の卓を捧げる! 存分に飢えと乾きを満たせッ!」
 空間に開いた球体の出入口から、無数の異形が溢れでた。
 男をもとにしたもの、女をもとにしたもの、動物をもとにしたもの、車輪を持つもの。
 炎をまとうもの、電光をまとうもの、雲をまとうもの、竜巻をまとうもの。
 その群れはまさしく混沌で、姿形のバリエーションと数には際限がなかった。
 狭間に潜むものどもは、入ってくると同時に、この世界を襲いはじめた。
 唸りをあげて炎を吹き、電光を飛ばし、爆発を引き起こす。
 退学者の街でそこかしこが弾け、火の手があがる。
 悲鳴と怒号が、ここまで聞こえた。
 ペルチオーネのうっとりした声が、頭に響く。
『すごい、きれい……。きれいよ、マスター……』
「フフフ、大地を残らず灰に変え、生けるもの血液一滴さえ残さん。滅びッ! 滅びッ! 滅びッ! フフフフ、ヒャヒャヒャヒャヒャッ!」
 自分の口から奇怪な笑い声が漏れるのを抑えきれない。
 強烈な喜びが、背筋を貫く。
 気を張っていないと、そのまま狂気に飲み込まれそうだった。
 燃える街を眺めていると、こっちへ向かってくるものが目に入った。
 混乱のなか、怪物たちを避けながら、飛行モードのミッションシップが近づいてくる。
 アルバ部の女たち、俺の姫たちだ。
 これからの絢爛たるダンスに備えて、俺も着替えなければならないだろう。
 ペルチオーネの切っ先を大地に突きたて、柄を握る。
「元素抽出、装甲化」
 ボンゼン・ブードーの力を使い、この世界の元素で俺に見合った鎧を作る。
 軽やかな音が響いた。
 俺の足元から、パールホワイトの装甲が形作られていく。
 すぐに俺の身体は、首まで鎧に包まれた。
 禍々しくも美しいシルエットを持つ装甲は、夜闇のなかで燐光を放つ。
 満足な出来だった。
 俺はそのままの姿勢で、みなを待ち構える。
 轟音が近づき、目の前にミッションシップが着地した。
 ハッチが開くと、武器を手にしたマトイ、アデーレ、ヒサメが飛び出してくる。
 イクサも続いた。
 最後には、操縦をしていたらしいシャルロッテが降りてくる。
 銃を握ったマトイが駆け寄ってきた。
「タネツケ、いったいなにが起こってるの!?」
 デーモンメイルに身を包んだアデーレが言う。
「どうしたんだ、その鎧?」
 弓を展開しながら、ヒサメが声を張る。
「グズグズするな! 指揮をとるなら早くしろ!」
 俺は同じ多次元接続の使い手であるイクサに目を向けて言った。
「イクサも来てくれたのか」
 イクサはなにも答えず、前髪の隙間から剣呑な目を向けてきた。
 リキハは姿を消している。
 なにかを感づいているかもしれない。
 シャルロッテが無表情に紅い瞳をきらめかせた。
「タネツケさん……、また変わったんですか……?」
 俺はそれに答えず、みんなに向けて言った。
「イリアンとナムリッドはいないのか?」
 ヒサメが眉根を寄せて答える。
「イリアンは力が足りないし、ナムリッドは学園での戦いに忙しい」
「そうか、それはかわいそうなことをしたな」
「どういう意味だ? さっぱりわからんぞ」
 俺は会話のつながりも考えずに言った。
「もうすぐ、イシュタルテアの卒業生たちがここに殺到するだろう。女神と呼ばれるほどの力をもった存在たちが」
 マトイが希望に目を輝かせた。
「ホント? 安心じゃない」
 俺は愉快な気分で言った。
「どうだろうな? たぶん、俺を倒しにくるんだろうと思うけどな。フフフフ……」
 アデーレとヒサメが口を開きかけたとき、イクサの身体がオーラとヘイローに包まれた。
「コイツは悪魔だ!」
 イクサが飛び退きながら、足を振るって鉄球を繰り出してくる。
 すべての可能世界を通して、無数の鉄球が俺に迫った。
「ぬおおおおおおッ!」
 俺はペルチオーネを振るって、おびただしい数の鉄球を弾く。
 可能性の世界のなかで、俺の一人が攻撃の膜を突き抜けた。
 そこに焦点を合わせる。
 俺はイクサの攻撃をかいくぐり、小さい身体に肉薄していた。
 このチャンスに、俺は素早く決定した。
 ただ、ペルチオーネを前に突きだす。
 瞬時の激しい攻防は終わり、ペルチオーネはイクサの胸を貫いて、背中へ抜けた。
 イクサの目が輝きを失う。
 死んだ。
 ペルチオーネを引き抜くと、イクサは力なく崩れ落ちる。
 ソードリング・リキハが半透明な姿を現して、嘆きの声をあげた。
 みなが息を飲んだ。
 沈黙のあと、非難が殺到する。
「なにしてんのよっ!」
「バカなことを!」
「早く手当しないと!」
 シャルロッテは冷静だった。
「みなさん、下がりましょう。これでは終わりません」
 みなが武器を構え、俺から距離をとる。
 ペルチオーネを振って、血の滴を払い落とすと、俺はみんなに笑顔を向けた。
 とっておきの、最高の笑顔を。
 俺は幸せに包まれながら、優しく囁く。
「俺に任せておけ。みんな、幸せにしてやる」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

処理中です...