タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

文字の大きさ
87 / 94
第二章 女神の揺籃 イシュタルテア

タイタスの薔薇 第二章完

しおりを挟む
 ボンゼン・ブードーは滅びたが、そのあとも夜は長かった。
 俺が喚び出してしまった多くの混沌、狭間のものたちと、マザー・アカバムの産みだした魔人たちも始末しなければならなかった。
 俺と花嫁たちは手分けしてことにあたり、その仕事が終わったのは朝が訪れる寸前だった。
 そして俺たちは、この世界へ初めて足を踏み入れた場所、サリーが迎えに来てくれた緑の丘へ集まっていた。
 この場所がアルコータスのある地球へ、物理的にいちばん近いからだった。
 みんなにはこれからのことをはっきり伝えていないが、俺たちはこれ以上イシュタルテアの住人と接触しないほうがいいだろうと考えていた。
 ボンゼン・ブードーを倒した感謝よりも恨みのほうが勝っているだろう。
 花嫁たちはすでに集合していた。
 俺は仕上げの見回りをしてきたので最後の到着だった。
 狭間のものや魔人を倒し、イシュタルテアの住人を助けていくに従って、花嫁たちのドレスから黒が抜け、白くなっていった。
 いまや全員、純白の花嫁衣装に身を包んでいる。
 俺がゆっくり着地すると、一瞬、安堵の静寂が訪れた。
 それから突然、春爛漫のように言葉の花が咲く。
 マトイは薬指の指輪と俺を交互にちらちら見やりながら、誰に言うでもなくまくしたてる。
「あーあー、とうとうタネツケとケッコンしちゃったぁー、あーあー、パパなんていうかなー、なー、なー、親衛隊のみんなはどんな顔するかなー、なー、なー」
 すごい速さでチラ見を繰り返すマトイ。
 ヒサメはまんざらでもない様子で、左手を俺に突きだしてきた。
「おまえ、これ、アルコータスなら違法だぞ、重婚なんて。ここではどうだかしらないが、面倒が起こったらおまえだけが素直にお縄頂戴するんだぞ?」
 シャルロッテは青白い肌を朱に染めて、片手を顔にあてている。
「落ちついてみると大変なことです。わたくし夜の一族でもなくなってしまったようですし、もう帰れる家もないかもしれませんし、こ、これは、きちんとセ、セキニンを取っていただかないとなりません」
 イクサは朝陽に指輪をかざしてニヤニヤしながら独り言をつぶやいていた。
「イヒヒヒ……、アタイがケッコン、ケッ、ケッコン……。ツマ……ヒトヅマ……、三食昼寝付き……、でゅ、でゅふふふふ……」
 鎧にドレス姿のアデーレが近づいてきて、左の拳を見せた。
「異存はない……。異存はないが……、この花嫁姿、クラウパーにも見せてやりたかった……。アイツはいまごろなにをしているのか……」
 俺は諭すように言った。
「帰るためにここへ集まったんだよ。これだけの力があって帰れないわけないだろ?」
「ほ、本当か!?」
「ああ」
 一同はかえってきょとんとしてしまった。
 間を置いてから黄色い歓声。
 反対する者はいない。
 はしゃいでいるみなを眺めながら、俺は一振りに戻っているペルチオーネを鞘に収める。
 ソードリング・ペルチオーネが出現した。
 ある程度予想していたことだったが、ペルチオーネは十歳児ほどの姿から、膨らむべきところがいくぶん膨らんだ十三、四歳くらいの姿に成長していた。
「あー、暴れまくるの楽しかったー」
 そう言いながら、前と同じ銀のワンピースに身を包み、手に持ったハンカチで悪そうなメイクを落としている。
 みんな集まってきて、ペルチオーネの変化について話し始めた。
 ペルチオーネは右腕を高くあげて、脇の下を俺に見せつけてくる。
「マスター、欲情しちゃう?」
「おまえどうせツルツルじゃん……」
 ペルチオーネはセクシーっぽいポーズを決めながら続けた。
「あたち、また女のレベルあがっちゃったー。ここにいる雑魚どもとの格差がこわーい。ヘイト集まっちゃうー」
 ヒサメとアデーレがいきり立った。
「誰が雑魚だ!」
「こわっぱめ!」
 争いに発展しそうな勢いになったとき、飛行モードのミッションシップがやってきた。
 中から降りてきたのは学園長。
 浮遊する担架に乗ったナムリッド。
 それにイリアンとノーデリアだった。
 操縦席を見ると傷だらけのモーサッドが座っていたが、俺たちのほうへは目を向けない。
 まだ両腕がないままで、学園長は静かに微笑んだ。
「この世界であなたがたを見送りたいという者はわたしだけのようです。それもしかたないでしょう」
 ナムリッドが担架から降りる。
「わぁー、みんなキレイ! わたしは帰ってからアルコータス式でいいから!」
 足はふらつき、目の下にはクマがあったものの、声は元気そうだった。
 俺はナムリッドに手を差し出す。
「ナムリッド、俺の手をとってくれ」
「なに?」
 手をつなぎしだい、回復の力を送り込んでやった。
「おほぉー!! なにこれしゅごぃいいいい!!!」
 すぐにナムリッドの血色が良くなる。
 手を離してから説明してやった。
「俺もいろいろ器用になってね。これも師匠あってのおかげ」
「上出来、上出来。教科書どうするの? 持っていくんでしょ?」
 ナムリッドは学園の教科書を三冊ほど持ってきていた。
 これが向こうでも機能すれば、世界が変わる。
 イリアンと連れ立って、ノーデリアが口を開いた。
「わたくしも連れて行っていただきましょうか。わたくし、良いことをしたというのに、あなたがたに関わってしまったせいでどうにも白眼視されているのを感じますわ!」
 それが事実かどうかはわからない。
 彼女なりの納得のさせかたかもしれなかった。
 そう言えば……。
 俺はイクサを振り返って尋ねる。
「おまえも一緒でいいのか、イクサ? 聞くの忘れてたけど」
 イクサはまだうっとりと指輪を見つめながら答える。
「アタイの世界もボンゼン・ブードーに滅ぼされてるから。行くとこないし、ヒヒヒ」
「じゃ、これで全員そろったな。あとは船と船頭だけだ」
 学園長に告げる。
「この世界の元素をもう少しもらいます」
 俺はペルチオーネを引き抜いて大地に突き立てた。
「元素抽出!」
 俺たちの足下に全員が立てる広さの床が生まれた。
 その他の機器も無から生まれるようにして俺たちを取り囲んでいく。
 生命維持装置、航行器、推進部……。
 俺のイメージでは次元間移動のできるカプセルみたいなものがやっとだったが……。
 そこへさらに何種類もの武装、装甲、優雅な居住施設など、俺の意図しないものが加わっていき、艦はどんどん大きくなっていった。
 俺は驚いて学園長の顔を見る。
 学園長は微笑んだまま言った。
「わたしからの手向けです。あなたがたはあちらへ戻られてもご多忙でしょうから。この艦を『タイタスの薔薇』と名付けさせてください」
「タイタスっていうのは……?」
「もはや姿形も定かには覚えていないのですが、わたしの知るたったひとりの男の名です。武勇に優れ、叡智と優しさを持った人だったはずです。その名をあなたに預けましょう」
「ありがとう学園長」
 次元航行艦が完成してみると、その形は確かに咲きほころんだ薔薇を思わせた。
 みんなひどく興奮して意見を交わしあっている。
 俺たちの下方、姿も見えないところから学園長が言った。
「船頭も来たようですよ」
 俺たちが見あげると、翼を開いた女神がひとり、急降下してくるところだった。
 それは俺を異世界へ飛ばした張本人、イシュタルテアの卒業生の一柱、ミスズだった。
 ベレー帽にメガネのミスズは空中で止まり、俺たちを見おろした。
「わたしはまだ巻き込まれて死ぬわけにはいかなかったので、避難していました。さあ帰りましょう。あちらもいろいろ大変です」
「あんたもいろいろ大変そうだな」
 いちおう労ってから、俺は艦のコンソールを操作した。
 薔薇の花弁が閉じていって蕾になる。
「『タイタスの薔薇』、発進!」
 推進部が働き、艦が上昇を始める。
 少し遅れてからミスズが急上昇して空の高みに昇っていった。
 俺たちはあれを追えばいいわけだ。
 イシュタルテアの大地から離れ、風化してゆくボンゼン・ブードーとマザー・アカバムの亡骸を越えた。
 学園長の姿も見えなくなったころ、周囲が闇に包まれる。
 見えるのは、輝きながら飛翔するミスズの後ろ姿だけだ。
 俺たちは次元間航行に入った。
 意識をもったまま次元間を移動するのは初めてだった。
 だからどれくらいの時間がかかるのかわからない。
 アルコータスのある地球へ戻っても、まず間違いなく戦いの日々が待っている。
 この次元間移動が、束の間の休息になるだろう……。
 
 さらばイシュタルテア。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの落ちこぼれ貴族、神々のエラーメッセージが読めるようになる~「神罰」のシステム権限で学園無双しつつ、本人だけはただのデバッグ作業だと

蒼月よる
ファンタジー
魔法(ナノマシン干渉)が使えず、名門アルマンド家の恥晒しとされた三男アッシュ。 実技試験に落ちて旧図書棟の掃除をさせられていた彼は、謎の遺物(管理デバイス)に触れたことで、世界の最高管理者権限(デバッガー権限)を手に入れてしまう。 「魔法」とは環境中の魔素を操作する事象。そして「神の奇跡」とは環境管理AIの気まぐれであるこの世界において。 アッシュの目には、相手の放つ魔法が単なる『不正なプロセスのエラーログ』として映り、頭の中で『YES(強制終了パッチ)』を選択するだけで完全に消去できるようになったのだ! 一切の詠唱も魔力発生も伴わずに、同級生の最大魔法をフッと消し去り、暴走する巨大魔物をワンボタンで光の粒子に還元するアッシュ。 本人はただ「うるさい警告文が出たからOKを押してデバッグ(人助け)しているだけ」のつもりなのだが……。 これは、エラーログを消しているだけの落ちこぼれ少年が、王都の至高魔法学園で「神の奇跡を下す聖者」として盛大に勘違いされながら成り上がっていく、痛快無双ファンタジー! この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...