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第三章 第一シーズン
帰郷
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輝く翼のミスズが、闇の空間で俺たちを導いていく。
次元間の旅は思っていたほど長くはなかった。
行く手に星が見えたと思ったら、それが一気に拡大し、俺たち、タイタスの薔薇は光に突入する。
次の瞬間には、なんの衝撃もなく、俺たちは太陽の輝く青空に包みこまれていた。
タイタスの薔薇の外で、ミスズが身振りを交えて言った。
「ここがちょうどアルコータスの上です」
後ろでマトイが息を飲む。
続いてヒサメもアデーレも、全員がだ。
無理もない。
下を映すパネルの一つには、腐敗したような大都市の死骸が見えていた。
白亜の街並みは完全に破壊され、美しい公園と市庁舎のあった小山もすべて、薄汚い色をしたモンスターに埋め尽くされいる。
毒毒しい汚染は都市を包む丘陵地帯にも広がり、まるで虫の巣をつついたようなありさまだった。
ナムリッドが目をみはってわなないた。
「こんなことって……。みんなはどこに……」
ん、なにかの気配か……。
俺が違和感を覚えた直後、巨大な赤龍がミスズを噛み砕いた。
「なにッ!」
驚きで身が固まったあいだにも、ミスズは咀嚼されて飲み下されてしまった。
その瞳に浮かんだ絶望を俺は忘れない。
ミスズは死んだ。間違いなく。
赤龍の残忍な目が光り、左腕がタイタスの薔薇に振りおろされる。
金属の引き裂かれる音と強烈な衝撃。タイタスの薔薇が空中を弾かれる。
「イリアン、ノーデリアつかまれ!」
俺は空中に投げ出されたイリアンとノーデリアを抱え込む。
ぐるぐる回転する艦内で、みなは素早く体勢を整えた。
もう昔の俺たちとは違う。
イリアンとノーデリアを除いては超人の軍団だ。
「安定させろ! 攻撃準備!」
俺の命令にみんなが機敏に反応する。
ヒサメが言った。
「ミスズは!? どうなった!?」
「食われちまったよ!」
「飲み込まれただけか!?」
「いや! 身体をズタズタにされて飲み込まれた! もう生きちゃいない!」
外部モニタの中で、タイタスの薔薇より巨大な赤龍が迫る。
俺は指示した。
「超重質量砲!」
ナムリッドが素早く操作する。
装甲の花弁が開き、短い砲身が現れた。
「発射!」
質量砲の黒い砲弾は赤龍のあごをまともにとらえた。
赤龍がのけぞり落下する。
だが少し落ちただけで、赤龍は再び迫ってきた。
無傷ではないとはいえ、あごが少しえぐれているだけだ。
赤龍は空中で留まり、両腕をあげて咆哮した。
シャルロッテが警告の声をあげる。
「アルコータスから黒い竜の群れが飛び出してきました! 赤龍に比べれば小型ですが、みなこちらへ向かってきます!」
赤龍のほうは、こちらを警戒して距離をとっている。
そいつがニヤリと笑ったような気がした。
女神ともいえる存在のミスズを、抵抗すら許さず一撃で殺した。
こんな巨体でありながら、俺たちに気配を感じられることもなく接近したような相手だ。
見た目以上に強大な力を秘めているに違いない。
だが、いまの俺たちにとっては戦えない相手じゃないはずだ。
もし、もし俺たちでさえ歯がたたなかったとしたら、この世界のいったい誰がこいつと戦えるのか。
すでに輝く花嫁衣装に身を包んだイクサが言った。
「じかに相手してやったほうが早いんじゃないのー?」
「俺もそう思ったところだ。行くぞ、ペルチオーネ!」
マトイが異議をはさむ。
「待って! いま全力で戦ったらイリアンとノーデリアが危ないよ!」
そうだった。
二人も強いが常人レベルでの話だ。
イリアンは緊張した面持ちだが毅然としている。
ノーデリアは青ざめて震えていた。
確かに二人が危険だ。
アデーレが言う。
「ここは一端引こう。引ければな」
「人に会えれば情報も得られるか」
俺は答えて指示を変えた。
「質量砲四門、外部の花弁、展開。艦を回転させながら西へ向かう。砲は赤龍を狙って連射、花弁をカッターに使って小さい竜を追い払う。全速!」
シャルロッテとナムリッドが操作する。
タイタスの薔薇は指示どおりに武装を展開し、西へ進路をとった。
追いすがる赤龍を砲弾が牽制し、まといついてくる黒い竜は花弁が引き裂く。
ペルチオーネは不満げにぶつくさ言っていたが気にしていられない。
タイタスの薔薇は速度をあげて飛んだ。
竜たちはしつこかったが、アルコータスから遠ざかると追撃も終わった。
もうすでにアルコータスの隣国都市国家サイラスも過ぎてしまった。
サイラスもアルコータスと同様のありさまだった。人の気配はない。
俺たちは速度を落とさず飛び続けた。
あちらこちらへ、都市国家の様子をうかがいながら移動したが、どこも同じだった。
破壊の痕跡とモンスターの群れ。
だが、少しずつモンスターの密度が下がってきていた。竜の姿もない。
俺は指示した。
「速度を落として人の姿を探そう」
タイタスの薔薇は飛行速度を落とし、センサー類も使って周囲の様子を探った。
しかし人のいた場所は荒れ果てているばかりだった。
さすがに平然とはしていられない状況だった。
俺たちは超人になったとはいえ、心はまだ人に等しい。
艦内は鋭い不安と張り詰めた緊張感に包まれていた。
マトイがぽつりと言った。
「もう誰もいないの? この世界には……」
イリアンが口を開く。
「でもミスズさんはわたくしたちをここへ導きました。なんの希望もない世界へ連れてくるとは思えません」
シャルロッテがうつむきがちに言った。
「夜の種族の紐帯を感じられないのです。わたくしが夜の種族ではなくなっただけならいいのですが……」
鎧姿のアデーレが意見を述べる。
「ここらあたりは敵の支配地域、それだけのことだ。うろたえるほどじゃない」
ヒサメもその意見に賛成のようだった。
「たしかザッカラントはエッジワンにこだわりがあったはずだ。エッジワンが敵の中枢だっとしたら、わたしたちは中枢近くに出現したことになる。敵だらけでも不思議じゃない」
「何人かで外に出て細かく探してみるか。洞窟とかに生き残りがいるかもしれない」
俺がそう提案したとき、ナムリッドが言った。
「エンゲレ山のマイアズマ・デポが見えてきたわ。機能してない」
「そうだろうな……」
マイズマ・デポの近くにはモンスターを狩るための城塞都市があるはずだが……。
ナムリッドが緊迫した声を出す。
「爆発! マナファクツとブルートファクツ、両方の反応! 人が戦ってる! エッジブルーで!」
「急げ!」
希望の波が俺たちを包み込んだ。
タイタスの薔薇は速度をあげて城塞都市エッジブルーへ接近する。
望遠映像で様子をとらえることができた。
炎と爆発、混乱。兵士とモンスターの群れ。
人間側の負け戦だった。
大勢の武装した人間が、エッジブルーを脱出しようとしている。
その主流が退却しているしんがりで、いちばん激しい戦いが起きていた。
黒く大きな装甲車両のようなものが蛇行して、モンスターの流れを断ち切ろうと奮闘している。
この世界では見たことのないタイプの車両だった。
だが、マトイがわななきながら口する。
「アレ! アレ、パパの設計した装甲車そっくり!」
装甲車の屋根には三人の人影があった。
魔法を連発する知らない二人の後ろには……!!!
猫耳ヘルメットをかぶったロシューがいた!!!
ロシューは疲れた顔で迫撃砲をあちこちに向けて撃っている。
イリアンが涙を溢れさせた。
「ロシュー! 兄さん!」
装甲車の周りを飛び回っている青いデーモンメイルもいた。
アデーレが叫ぶ。
「あの体捌き! あのデーモンメイルはクラパーだ! あいつ生きてやがった!」
俺たちの士気は一気にあがった。
「あの装甲車はアルバだ! 間違いない! 敵を蹴散らすぞ!」
俺の号令に勇ましく応じる戦いの花嫁たち。
俺は指示を出した。
「モンスターの群れ中央に、タイタスの薔薇を自然落下させる。着地寸前に高濃度二酸化炭素を噴射、それでも動けるやつを全滅する!」
ここにきて、俺はトークタグをまだ身につけていることを思い出した。
次元間の旅は思っていたほど長くはなかった。
行く手に星が見えたと思ったら、それが一気に拡大し、俺たち、タイタスの薔薇は光に突入する。
次の瞬間には、なんの衝撃もなく、俺たちは太陽の輝く青空に包みこまれていた。
タイタスの薔薇の外で、ミスズが身振りを交えて言った。
「ここがちょうどアルコータスの上です」
後ろでマトイが息を飲む。
続いてヒサメもアデーレも、全員がだ。
無理もない。
下を映すパネルの一つには、腐敗したような大都市の死骸が見えていた。
白亜の街並みは完全に破壊され、美しい公園と市庁舎のあった小山もすべて、薄汚い色をしたモンスターに埋め尽くされいる。
毒毒しい汚染は都市を包む丘陵地帯にも広がり、まるで虫の巣をつついたようなありさまだった。
ナムリッドが目をみはってわなないた。
「こんなことって……。みんなはどこに……」
ん、なにかの気配か……。
俺が違和感を覚えた直後、巨大な赤龍がミスズを噛み砕いた。
「なにッ!」
驚きで身が固まったあいだにも、ミスズは咀嚼されて飲み下されてしまった。
その瞳に浮かんだ絶望を俺は忘れない。
ミスズは死んだ。間違いなく。
赤龍の残忍な目が光り、左腕がタイタスの薔薇に振りおろされる。
金属の引き裂かれる音と強烈な衝撃。タイタスの薔薇が空中を弾かれる。
「イリアン、ノーデリアつかまれ!」
俺は空中に投げ出されたイリアンとノーデリアを抱え込む。
ぐるぐる回転する艦内で、みなは素早く体勢を整えた。
もう昔の俺たちとは違う。
イリアンとノーデリアを除いては超人の軍団だ。
「安定させろ! 攻撃準備!」
俺の命令にみんなが機敏に反応する。
ヒサメが言った。
「ミスズは!? どうなった!?」
「食われちまったよ!」
「飲み込まれただけか!?」
「いや! 身体をズタズタにされて飲み込まれた! もう生きちゃいない!」
外部モニタの中で、タイタスの薔薇より巨大な赤龍が迫る。
俺は指示した。
「超重質量砲!」
ナムリッドが素早く操作する。
装甲の花弁が開き、短い砲身が現れた。
「発射!」
質量砲の黒い砲弾は赤龍のあごをまともにとらえた。
赤龍がのけぞり落下する。
だが少し落ちただけで、赤龍は再び迫ってきた。
無傷ではないとはいえ、あごが少しえぐれているだけだ。
赤龍は空中で留まり、両腕をあげて咆哮した。
シャルロッテが警告の声をあげる。
「アルコータスから黒い竜の群れが飛び出してきました! 赤龍に比べれば小型ですが、みなこちらへ向かってきます!」
赤龍のほうは、こちらを警戒して距離をとっている。
そいつがニヤリと笑ったような気がした。
女神ともいえる存在のミスズを、抵抗すら許さず一撃で殺した。
こんな巨体でありながら、俺たちに気配を感じられることもなく接近したような相手だ。
見た目以上に強大な力を秘めているに違いない。
だが、いまの俺たちにとっては戦えない相手じゃないはずだ。
もし、もし俺たちでさえ歯がたたなかったとしたら、この世界のいったい誰がこいつと戦えるのか。
すでに輝く花嫁衣装に身を包んだイクサが言った。
「じかに相手してやったほうが早いんじゃないのー?」
「俺もそう思ったところだ。行くぞ、ペルチオーネ!」
マトイが異議をはさむ。
「待って! いま全力で戦ったらイリアンとノーデリアが危ないよ!」
そうだった。
二人も強いが常人レベルでの話だ。
イリアンは緊張した面持ちだが毅然としている。
ノーデリアは青ざめて震えていた。
確かに二人が危険だ。
アデーレが言う。
「ここは一端引こう。引ければな」
「人に会えれば情報も得られるか」
俺は答えて指示を変えた。
「質量砲四門、外部の花弁、展開。艦を回転させながら西へ向かう。砲は赤龍を狙って連射、花弁をカッターに使って小さい竜を追い払う。全速!」
シャルロッテとナムリッドが操作する。
タイタスの薔薇は指示どおりに武装を展開し、西へ進路をとった。
追いすがる赤龍を砲弾が牽制し、まといついてくる黒い竜は花弁が引き裂く。
ペルチオーネは不満げにぶつくさ言っていたが気にしていられない。
タイタスの薔薇は速度をあげて飛んだ。
竜たちはしつこかったが、アルコータスから遠ざかると追撃も終わった。
もうすでにアルコータスの隣国都市国家サイラスも過ぎてしまった。
サイラスもアルコータスと同様のありさまだった。人の気配はない。
俺たちは速度を落とさず飛び続けた。
あちらこちらへ、都市国家の様子をうかがいながら移動したが、どこも同じだった。
破壊の痕跡とモンスターの群れ。
だが、少しずつモンスターの密度が下がってきていた。竜の姿もない。
俺は指示した。
「速度を落として人の姿を探そう」
タイタスの薔薇は飛行速度を落とし、センサー類も使って周囲の様子を探った。
しかし人のいた場所は荒れ果てているばかりだった。
さすがに平然とはしていられない状況だった。
俺たちは超人になったとはいえ、心はまだ人に等しい。
艦内は鋭い不安と張り詰めた緊張感に包まれていた。
マトイがぽつりと言った。
「もう誰もいないの? この世界には……」
イリアンが口を開く。
「でもミスズさんはわたくしたちをここへ導きました。なんの希望もない世界へ連れてくるとは思えません」
シャルロッテがうつむきがちに言った。
「夜の種族の紐帯を感じられないのです。わたくしが夜の種族ではなくなっただけならいいのですが……」
鎧姿のアデーレが意見を述べる。
「ここらあたりは敵の支配地域、それだけのことだ。うろたえるほどじゃない」
ヒサメもその意見に賛成のようだった。
「たしかザッカラントはエッジワンにこだわりがあったはずだ。エッジワンが敵の中枢だっとしたら、わたしたちは中枢近くに出現したことになる。敵だらけでも不思議じゃない」
「何人かで外に出て細かく探してみるか。洞窟とかに生き残りがいるかもしれない」
俺がそう提案したとき、ナムリッドが言った。
「エンゲレ山のマイアズマ・デポが見えてきたわ。機能してない」
「そうだろうな……」
マイズマ・デポの近くにはモンスターを狩るための城塞都市があるはずだが……。
ナムリッドが緊迫した声を出す。
「爆発! マナファクツとブルートファクツ、両方の反応! 人が戦ってる! エッジブルーで!」
「急げ!」
希望の波が俺たちを包み込んだ。
タイタスの薔薇は速度をあげて城塞都市エッジブルーへ接近する。
望遠映像で様子をとらえることができた。
炎と爆発、混乱。兵士とモンスターの群れ。
人間側の負け戦だった。
大勢の武装した人間が、エッジブルーを脱出しようとしている。
その主流が退却しているしんがりで、いちばん激しい戦いが起きていた。
黒く大きな装甲車両のようなものが蛇行して、モンスターの流れを断ち切ろうと奮闘している。
この世界では見たことのないタイプの車両だった。
だが、マトイがわななきながら口する。
「アレ! アレ、パパの設計した装甲車そっくり!」
装甲車の屋根には三人の人影があった。
魔法を連発する知らない二人の後ろには……!!!
猫耳ヘルメットをかぶったロシューがいた!!!
ロシューは疲れた顔で迫撃砲をあちこちに向けて撃っている。
イリアンが涙を溢れさせた。
「ロシュー! 兄さん!」
装甲車の周りを飛び回っている青いデーモンメイルもいた。
アデーレが叫ぶ。
「あの体捌き! あのデーモンメイルはクラパーだ! あいつ生きてやがった!」
俺たちの士気は一気にあがった。
「あの装甲車はアルバだ! 間違いない! 敵を蹴散らすぞ!」
俺の号令に勇ましく応じる戦いの花嫁たち。
俺は指示を出した。
「モンスターの群れ中央に、タイタスの薔薇を自然落下させる。着地寸前に高濃度二酸化炭素を噴射、それでも動けるやつを全滅する!」
ここにきて、俺はトークタグをまだ身につけていることを思い出した。
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