妄想少女とおっさんのバリアント

進常椀富

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なんでも屋へ行く

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  翌日、俺たちはなんでも屋の有限会社アクロスザスターへと向かった。
 昨日下調べに来たときは、定休日で店が閉まっていた。
 アクロスザスターは小さい二階建ての建物だった。
 国道沿いだが周りに建物のない場所で、背の高い木々に囲まれている。
 狭い駐車場に軽自動車が二台停まっていた。あと二台ほど車を停められる。

 俺とイサムはいま、店から離れた場所に停まっている。
 作業着姿の博士が戻ってきた。
 店の周囲にある木々に、監視カメラを仕掛けてきたのだった。

 イサムに乗りこみながら博士が言う。
「木立に囲まれてるからカメラを仕掛ける場所に困らなかったよ。次は丈くんの番だな」
「まかせてくれ」
 俺は右耳に補聴器型のトランシーバーを付け、カメラ付きの伊達メガネをかけた。
「やってくれ、イサム」
「うぇーい」
 イサムは走り出し、店の前まで行くと路肩に停まった。

 俺は用意してあった菓子折りを持って降りる。
 店構えは平凡で目立たず、入りやすい感じだ。
 好都合なことに店の出入り口は自動ドアじゃなかった。
 わざと大きく開け放ち、中が見えるように扉を開いたまま大声で挨拶する。
「こんにちはー!」

「いらっしゃいませ!」
 奥から黒ニットに作業ズボン姿の若い女が現れた。
 髪は短く、痩せていて胸も薄い。歳は三十ぐらいか。
 店内の様子と、この女の姿はイサムにも見えているはずだ。

 補聴器からイサムの声が届く。
「体格マッチ。犯行グループのひとりっていう可能性が高いぜ。一致率九十パーセント」
 博士からの声も聞こえた。
「間違いない、彼女は次元接続体だ。多次元接続が視える」

 やはり黒か。
 その確率はうなぎ登りだ。
 俺の鼓動が早くなる。
 
 だが俺は何食わぬ顔で女に聞いた。
「社長、いる?」
 女が少し眉根を寄せた。
「どのようなご用件でしょうか」
「なに、ちょっと前、ここの社長の世話になってね。文無しのところに一万円恵んでもらったんだ。まともな仕事に就いたから今日はそのときのお礼をしようと思って来たんだ」

 ほとんど本当のことだ。
 仮に読心術の類が使えたとしても真の目的を隠し通せるだろう。

 女は顔をほころばせた。
「そうでしたか。諸戸はいま仕事で出ておりまして。帰りはいつになるか、ちょっとわからないんです」
「あ、そう。じゃ、これみんなで食べてよ。またそのうちあらためてくるから」
 俺は持っていた菓子折りを差しだした。
「わざわざすいません。諸戸はあんな性格ですから覚えてないかもしれないんですよ、人にお金をあげたこととか」
「ふーん」

 どうやら諸戸はどちらかというと善人寄りな人間らしい。
 とはいえ、力があって金が目の前に転がっていたとなれば、犯行を指示した可能性はある。
 人を傷つけることなくスピーディーにことを終えたし。
 圧倒的な力を持っていれば使いたくもなるだろう。

 女がペンを手に取りながら言った。
「お客さまのお名前と連絡先を伺ってよろしでしょうか」
「連絡なんかしなくていいぜ。俺がお礼に来たんだから」
「それだとわたしが叱られてしまいます」
「そうか」
 俺はペンを取り、本名と本当の携帯番号をメモに書いた。
「ところでなんでも屋なんだって? どんな仕事ができるの、ここは?」
「はい、水道の水漏れ修理から引っ越し、エアコンの取りつけ、買い物代行、運転代行、そのほかにもいろいろご相談に乗らせていただきます!」
「すごいね、そんなに色々できて、従業員は何人くらいいるの?」
「いまはわたしを含めて四人ですね。今日は引っ越しで全員出ていて店番にわたしが残りました」

 四人。
 犯行グループと同じ人数だ。
 とすると、従業員全員が次元接続体なのか。
 どうやってそんなふうに集めることができたんだ……? 
 それに残り三人が男だとすると、諸戸と一緒にいた金髪の女が入っていない。
 あの女は従業員じゃなかったのか。

「なんでもできる四人か。じゃ、また来るから」
 俺はそう言って店を後にした。
 
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