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手がかり

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  俺はすっかり薄くなった髪を手で撫でつけた。
「『次元接続体犯罪抑止研究所』……ってことは、最初から俺に超人どもの相手をさせるつもりだったのか」
「そのとおり。君はうってつけだ、丈くん」
「命がいくつあっても足りねぇぜ」
「辞めるかね」
「まさか」

 俺も一度は世を儚んで自殺しようとした身だ。
 命の危険を避けるよりも生きがいを優先する。

「もう命が惜しい歳でもないんでね。おもしろそうなことを追いかけるぜ」
「安心したよ。命は大切にしてもらいたいが」
「さっき次元接続体は増えてるって言ったよな。ほかに仲間はいないのかい」
「何名かの次元接続体は身元を確認しているが、荒っぽいことには向いてない能力なんだ。君やセツくんとは違う」
「たとえばどんな能力を持ってるんだ?」
「影を自在に操るとか直径百メートルていどの天候を操るとか、そんなところだ」
「なるほど、俺たちみたいな怪力バカとは程遠い繊細さだな」

「ただいまー!」
 パァンッ!
「いってーな、バカ!」
 帰ってきたえひめにいきなりケツを回し蹴りされた。
 えひめは屈託なく笑う。
「あはははは! あれ、どうしたの? なんかシリアスなこと?」

 俺は博士に聞いた。
「えひめも次元接続体なのかい?」
「いや、えひめは普通の子だ。キックボクシング習ってるから強いけどね。次元接続体の適性は遺伝するものではないということだ」

 セツも買い物から戻ってきて加わった。
「みんなモニター室に集まっていると聞いたので来ました」

 関係者が一堂に会したところで、博士が姿勢を正した。
「全員揃ったか。あらためていおう。事件が起こった。次元接続体の犯行と思われる」

 セツが言った。
「もしかして現金輸送車ですか。カーラジオで聞きました」
「そうだ」
「三億円が奪われたそうです」

 俺は口笛を吹いた。
「ヒュー、四人で分けてもひとり七千万以上か。もう事件なんか起こさないんじゃないか。その金で遊び暮らしたほうがいい」

 博士は否定した。
「わたしはそう思わんね。彼らは無敵だ。少なくともそう思っていることだろう。おとなしくしている理由がない」
「そうかい。じゃなんとかとっ捕まえてお灸を据えてやるか。で、どうやって探す?」
 博士の表情が曇る。
「じつのところ、捜査に関してはそれほどこちらにアドバンテージがあるともいえない」
「次元接続体レーダーとかないの? いろいろ作れるんだろ、博士は」
「ん? んん、鋭意製作中だよ。工作者は必ずしも作りたいものが作れるとも限らない能力でね、残念ながら」
「じゃ、どうしろってんだ」
「彼らは無敵だと思っている。その油断があるはずだ。君は現場にいた。なにか気づいたことはないのか」
「そういわれてもねー」
 俺は首をひねる。
 言われてみれば、なにか、なにかあったような気もする。
 なんだっけ?

 しばしの沈黙。

「あっ!」
 フラッシュバックのように蘇る記憶。
 声、姿、名前。
 諸戸亮吾。
 有限会社アクロスザスターの若社長。

 現金輸送車が襲われる寸前、俺の背後で諸戸は言った。
「こっちはクリアだ。やれ」

 確かに。
 いや確かじゃない、空耳だったかもしれない。
 だが万が一ということもある。
 居場所はわかっているんだし、いちおう当たってみてもいいだろう。

「可能性は低いが、ちょっとした心当たりがある」
 俺は財布から以前もらった名刺を取りだして、みなに見せた。
「こいつだ。なにをやってるかしらないが、なんでも屋の社長、諸戸亮吾」
 全員にことの経緯を説明する。

 セツはふんふんと頷いた。
「もしかしたら逃走経路の確保係だったのかもしれない。博士のいうとおり、油断があったから、おっさんの後ろで仲間に連絡をとった可能性がある」
「あとはこの社長か従業員が次元接続体だったら一気に黒っぽくなるんだがな。どうやって確かめるか。見た目じゃ判断つかないしな……」
 セツが博士のほうを向く。
 博士は咳払いをしてから言った。
「この右目は眼帯ではなく義眼でね。新成物だ。視えるんだよ。次元の歪みを感知し、じかに見れば次元接続体かどうかがわかる」
 
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