妄想少女とおっさんのバリアント

進常椀富

文字の大きさ
54 / 63

当たりがでる

しおりを挟む
 俺たちは博士から補聴器型のトランシーバーを渡されていた。
 博士のお手製で、市販されている新製品よりも小型だ。
 ふたりでの通信はすでにテスト済みだったが、三人でもうまく機能するか確かめるという。
 トランシーバーの機能は良好だった。
 ほとんど自然な会話ができる。

 俺たちはトランシーバーで遊びながら、二箇所にカメラを設置し終わっていた。
 いまは三箇所め、閉鎖されたライブハウスの前だった。
  夜中の鳴田は静かだ。たまに車が通るぐらいで人通りはまったくない。
 ライブハウスは住宅地から離れたうら寂しい場所にあった。
 四車線の道路の向こうに、薄汚れた抜け殻のような建物が横たわっている。
 ここが終わったら残り、可能性が低いという四箇所にも、カメラを設置しなければならない。

 カメラ設置作業は順調に進んだ。
 ブレスレットがセツと博士に反応してピッピッと鳴っている。

 セツが言った。
「それ、うるさいな。気をつけないと。場合によっては敵に気づかれるぞ」

 俺は肩をすくめた。
「いま夜中だから余計に音が響くけどな。これがないと知らないうちにヤバいことになるぜ。諸戸の一味と戦うとなったら次元接続体が一箇所に集まる。何人ぐらいが限界かは確かめておかないとな」

 博士が工具をしまいながら言った。
「わたしは思うんだが、人数の問題じゃないのかもしれない。だから呉羽氏は具体的な人数を言わなかった」
「人数じゃなきゃなにが基準だ?」

 俺の問いに博士が推測を述べる。
「多次元接続の総量だよ。次元接続体はおそらくひとりひとり多次元接続の量が違うんだ。力が強力な者は多次元接続の量が多く、力が弱い者は接続の量も少ないと予想できる。多次元接続の総量が一定値を超えると、狭間から来たるものの通路が開く。だから人数じゃないんだ。この考えは理屈に合う」

 俺はあごに手を当てた。
「なるほど。じゃあやっぱり実際に諸戸の一味全員と接触してみないとわからないってことか。とりあえず諸戸の一味だけなら集まってても狭間から来たるものは来ていない。俺たち、いや接触する可能性が高いのはセツだけか。人数じゃないっていってもセツひとりくらいなら大丈夫そうだけどな。博士はできるだけ離れて指示したほうがよさそうだけど」
「わたしもそうしようと思う。わたしは肉体的には弱いし、近づくのは二重の意味で危険というわけだ」

 セツが言った。
「危険だったらわたしはテレポートで即座に離れられる。そのときは敵のまんなかにおっさんひとりだけ置き去りになるが、まあそうなったらなったで頑張ってくれ」
「俺だって簡単にゃやられねーぜ! しかしちょっと不安だな。やつらのなかでも戦闘力のあるやつと、戦いが得意じゃなさそうなの、別々にとっつかまえたいな。それなら危険は少なくなるだろうし……」

 博士が突然、鋭く囁いた。
「ライトを消せ! 伏せろ!」

 俺たちは素早く言われたとおりにする。
 闇のなかで、博士は道路の向こうを指差した。
「蕪屋雫だ」
 まばらな街灯の下、白いレジ袋を持った小柄な人影が歩いていた。
 金髪だ。
 俺の目じゃ見分けはつかないが、博士が言うなら確かなんだろう。
 蕪屋雫が歩いている。
 おそらく少し離れたところにある唯一のコンビニで買い物をしてきたに違いない。

 セツが身につけている刀の鞘を握った。
「ここが当たりだったか」

 俺も頷く。
「偶然ここを歩いてるってことはねえだろうな……」

 俺たちが身を潜めて見守るなか、蕪屋雫はライブハウスの出入り口を開けて入っていった。
 扉を開いたときだけ明かりが漏れた。ちゃんと遮光の備えがあるらしい。
 蕪屋雫が消えたので、俺たちはライトを点けて身体を起こした。

 俺は言った。
「いま俺たちは三人揃ってる。体力も満タンだ。向こうは寝てるやつも多いかもしれない。チャンスってやつじゃないのか」

 博士が唸った。
「拘束具は車に載せてあるが……」

 セツも乗り気の様子だった。
「明日になったらやつらは移動してしまうかもしれません。おっさんのいうとおり、いまがチャンスです。どのみちいつかは正面対決になるんですから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...