侵略のポップコーン

進常椀富

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侵略のポップコーン

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「宇宙からの侵略だよ、鈴木くん!」
 また隣りの進常(しんじょう)さんだ。
 進常さんはいつものように、庭に面した窓を開けて勝手に入ってくる。
 確かいま四十歳。
 冴えない中年おじさんで、もちろん独身だ。
 小説家を目指しているといえば聞こえはいいかもしれないけど、事実上無職。親御さんの残してくれた遺産を食いつぶすように暮らしているようだった。
 
 悪い人じゃないが、まともでもない。
 
 ぼくが学生で一人暮らしなのをいいことに、しょっちゅう妄想を聞かせにやってくるんだ。
 ちょうど今みたいな感じで。

 ぼくは呆れながら聞いた。
「進常さん、今度はどんな設定なんですか? もう飽き飽きですよ、宇宙人は……」
「違うんだよ、鈴木くん! ほら空を見ろよ!」

 進常さんは血走った目で、ぼくを外へ引っ張りだす。

「ほら、あそこ!」

 進常さんの指さした空を見て、ぼくも仰天した。
 UFOの群れだ! 
 十機くらいのUFOがこちらを目指して飛んでくる!

 進常さん目をぎらぎらさせて続けた。
「ヒヒヒヒ、終わりだ! 地球人類の終焉だ! わざわざ遠い宇宙からやってくるような奴らには、どうあがいたってかないっこない! 人間はよくて即死、悪けりゃ奴隷化だ! あはははは、よかったぁー、親の遺産がなくなる前に滅亡でー。ららららぁーららー……」
「進常さんしっかりしてください!」
 ぼくが肩を揺すると、進常さんは正気を取り戻したような顔になった。
「お! す、鈴木くん……そうだ! 俺たちはまだ生きている! まだ時間があるッ!」
「そうですよ、進常さん! まだ滅亡すると決まったわけじゃ……」
「最後の何分かくらいやりたいことをやるんだ、鈴木くん! 裸になって走り回ろう!」
「やめろデブ! 見苦しい!」

 服を脱ごうとする進常さんを、ぼくは必死になって止めようとした。

 その、本気印の怒りが引き金となったのか。

 このとき、ぼくに秘められていた力が目覚めていくのを感じた。

 身体が芯から燃えあがり、額に力が集中していく。

「う、う、うぁぁああああああっ!」
 カッ!
 ぼくの額に第三の目が開いた。
 それはすべてを見通すかのように、ぼくに知識を与えてくれた。
 もうやるべきことはわかっている。
 
  なかば意識を失いかけながらも、ぼくは迫りくるUFOの群に照準を合わせた。
「超殺戮! 虐殺根絶やしこうせぇぇぇぇーんっっっ!」
  ぼくの叫びとともに、額からビームの奔流がほとばしる。

 超殺戮の光線はUFOの群れを貫き、次々と粉微塵にしていく。
 ものの数秒で侵略者の群れは全滅した。
 人類の勝利だった。
 地球に再び平和が訪れる……。
 あのUFO、別にまだ悪さしてなかったけど。



「そんな初夢を見ました」
 ぼくは例のごとく、勝手に家へ上がり込んで、勝手にインスタントコーヒーを飲んでいる進常さんに話した。
 ちょっと得意な気分で続ける。
「どうです、進常さん? むっちゃ面白いでしょ? なんなら小説に使ってもいいですよ?」
「つまんないよ、別に。鈴木くんはまだまだ素人だな」
 進常さんは眼鏡を押さえて、つれない答えを返してきた。
 このデブ、裸眼の視力二・〇あるくせに小説家気取りで伊達眼鏡かけていやがるんだ。

 ぼくのプライドもあるし、今回ははっきり言ってやらなくちゃならない。
「この話が面白くないっていうのはおかしいですよ、進常さんのセンスが世間のフィクション好きとズレてるんです」
「そうかなー……」
「例えば進常さんがヅラだったらやっぱりズレるでしょ?」
「そのたとえ、よくわかんないんだけど」
 そう首をひねった進常さんの身体が、突然ガタガタと激しく震え始めた。
「あがががががが!」
「進常さん、どうしたんですか、急に!」

 なすすべもないぼくの前で、進常さんの身体がいっそう激しく振動する。
 それが唐突に、ポンと弾けた。
 進常さんの頭は破裂音とともにぱっくり開いて、白いポップコーンのようなものになった中身が散らばる。
 身体は崩れ落ちるように倒れた。
 その背後から、初めて聞く女の子声が聞こえてきた。
「やはり、地球原住生物の中には侮れないものがいる」

 進常さんが背中を向けていたリビングへの入り口に、銀髪の少女が立っていた。
 歳はぼくと同じくらいに見える。
 身体にぴっちりした金属色のスーツを着て、手にはレトロなデザインの光線銃らしきものを握っていた。

 ぼくは驚き戸惑いつつも、当然の問いを発する。
「おまえは何者だ!」
「深宇宙赤色製菓、切込み社員メリコ。地球原住生物を全宇宙の食卓に提供するためやってきた」
「そんなことが信じられるか! し、進常さんを元に戻せ!」

 少女は妖しく微笑んだ。
「フフフ、おまえのような特異型はとびきり高値のお菓子にしてやろう!」
 少女が銃をぼくに向ける。

 ヤバイ。

 ヤバイんじゃないの、ぼく?

 死ぬのかな?

 死ぬのイヤーッッッ!!! 

 そのとき、ぼくの秘められた力が目覚めた。
 額に第三の眼が開く。
「超防衛! 地球外生命体全裸こうせぇぇぇーん!」
 ぼくは叫びとともに、額からビームを迸らせた。
「きゃぁああああっ!」
 ビームは少女を包み込み、その服だけを溶かす。
 少女はあっという間に全裸になってしまった。
「いやーん、原住生物のえっちぃー! 銀河連邦に訴えてやるからぁーっ!」

 少女は胸と股間を隠しながら飛びあがり、天井を突き破って空に消えた。

 なんということだ……。

 地球に再び(?)平和が訪れたのだった。



「と、こんな話を書いてみた。今度こそ受賞間違いなし!」
 進常さんは、ぼくの目の前で得意げな顔をしながらインスタントコーヒーを飲んでいる。
 例のごとく勝手に部屋へ上がり込んできて、
「新作ができたんだよ!」と、ぼくに無理やり小説を読ませたのだ。

 新年早々頑張ってるのは、ぼくも認める。
 でも、今日もまたはっきり言ってやらねばならない。
「進常さん、十枚以上の作品書いたことないんじゃないですか? 賞ってだいたい長編でしょ、何百枚もあるやつ」
「そ、それはだな鈴木くん……」
「何百枚も書かなきゃ勝負にならない世界なのに、こんなはしがきみたいなのばっかじゃ話にならないんじゃないですか?」
「そ、それがウケたら改めて長編化するんだよ! いまどきの若もんはパイロット版もわからんのか!」
「まず、長く書く練習からじゃないすかね……」
 ぼくはため息を吐いて話を切りあげた。
 進常さんが小説家になれる日はまだまだ遠そうだ。
 これで暮らしていけるんだから羨ましいな、このデブ。

 そのとき、ぼくの背後から知らない少女の声が聞こえた。
「やはり、原住生物の本能的特殊能力は侮れないものがある……」
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