4 / 35
大宇宙のルール3
しおりを挟む
「はぁー、とんだ疫病神だよこの子ー」
鈴木がうなだれる。
進常はずいっと身を乗りだして、縛りつけられたメリコのあごをつかんだ。顔を上向かせる。
「さあ、聞かせてもらおうかお嬢ちゃん。なんでわたしたちを狙った? いや、なんでかはわかってるか。わたしたちが特別な力を持ってるからだ。なんでわたしたちは特別な力を持っているんだ、知ってるだろう? それとおまえたちの本当の目的はなんだ、正直に言え」
「ぷいっ」
メリコは眉根を寄せてそっぽを向いた。
進常は手首をひねってメリコの顔を正面に戻す。
「かわいくねー、おっぱい揉んじゃうぞこのやろう」
「くっ、殺せ!」
「くっころと来ましたか。残念、ぼくたちそんな野蛮じゃないんでーす」
密かに泣いていた鈴木が涙声でいう。
確かにいまさらメリコを殺してもなにも解決しないのだった。
家が壊れた事実はなかったことにはならない。
天井が抜けて電気配線がちぎれていた。
そのせいでエアコンは止まっている。
屋根に大穴も開いているので真夏の空気も入ってきていた。
部屋のなかはすでに蒸し暑くなり始めている。
半裸のメリコには快適かもしれない。
大暴れしたあと半裸で夏を感じる。
それは爽やかだ。
健康なら腹が減ってもおかしくないだろう。
突如、メリコの腹が鳴った。盛大な音をたてて。
眉根を寄せたままの表情で、メリコの頬が赤くなる。
進常はなかば感心していた。
「おーおー、この状況で腹が減ったか。すげー図々しさ。こいつは強いよ」
「おなかなんか減ってないもん!」
鈴木は思いつきを提案した。
「そうだ、まずはアメですよ! 食べ物を恵んでやって懐柔しましょう! ぼく、暴力とかきらいだし」
メリコは毅然と抗議した。
「イヤ! 原住生物の食べ物なんて汚い!」
「よし、食わせよう」
進常は決定した。
鈴木家の冷蔵庫前へ行き、勝手に開ける。
「今日は虫ないの?」
「虫はだめですよ! あったらぼくが食べます、高いんだから」
「そうだよー、高いんだよー、いつも奢ってあげてるけど」
「そ、その節は……、というか迷惑料ですよ。いつも進常さんのつまらない小説読んであげてるんだから」
「だけど、その小説のおかげで今回は助かった。なんつったって予知だからな」
「いや、たしかに予知ではあったけど、あんまり役に立たなかったような。あっ! とこころで進常さん、ぼくの額どうなってます? まだ穴開いてますか?」
進常は鈴木を一瞥して言った。
「なんにも残ってないね、痕とかは」
「あー、よかったぁー。額に目がついてたりしたら目立って外歩けないですもんねー」
進常は冷蔵庫から白い箱を取りだした。
「思ってたよりいいもんみつけちゃった」
「あ、それ今夜のお楽しみだったやつ!」
鈴木の声を無視して進常は中身を確認した。
「報幸堂のチーズスフレかー。野蛮な宇宙人にはちょっともったいないけど、ここは恩を売っておくか。ラッキーだったなメリコ、大人気スイーツが食べられて」
「あああ、僕はこの子に家を壊されたあげく、報幸堂のチーズスフレまで奪われてしまうんだぁあああああ……」
鈴木の嘆きも意に介さず、進常はケーキを皿に載せ、
スプーンを手にとってメリコの前へ戻った。
チーズスフレをひとすくいし、メリコの口へ持っていく。
「はい、あーん」
「……」メリコは唇を固く閉ざした。
「あーんっ! 食ってみろ! おいしいから!」
進常は容赦なくスフレをメリコの唇に押しつける。
「うぐぐぐ、や、やめ……っ!」
メリコが文句をいおうとしたので舌がチーズスフレに接触した。
その瞬間、衝撃を受けたように動きが止まる。
「……」
メリコは無言となった。
気が抜けたようになって、ゆっくり口を開けた。
「よし、食え!」
進常はメリコの口へスフレを押しこんだ。
「……」
メリコは無表情でスフレを咀嚼しはじめた。
鈴木と進常が見守るなかで、メリコは地球のチーズスフレを味わった。
「……」
ほんのひとかけらに過ぎなかったのに、メリコはまだ咀嚼を続けた。
飲みこむのを惜しむように。
「……」
メリコは執拗に噛み続けた。
表情はない。
味わうことに全神経を集中している者の顔だった。
「な、なんかおかしなことになってませんか……」
鈴木は心配になってきた。
進常も眉根を寄せた。
「でも不味いとか毒とかっていう反応じゃないぞこれ……」
鈴木と進常が不安がちに見守るなか、メリコはやっと咀嚼を止めた。
喉がこくっと鳴る。
味わい尽くしたスフレをやっと飲みこんだのだった。
メリコはまるで悟りを開いたような、安らかな表情になっていた。
口を開く。
「お……」
椅子に縛られたまま、のけぞって叫ぶ。
「おぉぉぉおいしぃいいいいいいいいぃぃーっ!」
メリコの目を覆っていたバイザーにひびが入り、粉々に砕け散った。
強烈な感情のフィードバックに耐えられなかったにちがいない。そんな感じだった。
メリコの叫びは身体の痙攣まで伴っていた。
ぴくぴくしながら首を振って訴える。
「おいしい! おいしい! なにこれ! おいしい! もっと! もっとちょうだい! なんでも答えるから! もっと! おいしい!」
鈴木がうなだれる。
進常はずいっと身を乗りだして、縛りつけられたメリコのあごをつかんだ。顔を上向かせる。
「さあ、聞かせてもらおうかお嬢ちゃん。なんでわたしたちを狙った? いや、なんでかはわかってるか。わたしたちが特別な力を持ってるからだ。なんでわたしたちは特別な力を持っているんだ、知ってるだろう? それとおまえたちの本当の目的はなんだ、正直に言え」
「ぷいっ」
メリコは眉根を寄せてそっぽを向いた。
進常は手首をひねってメリコの顔を正面に戻す。
「かわいくねー、おっぱい揉んじゃうぞこのやろう」
「くっ、殺せ!」
「くっころと来ましたか。残念、ぼくたちそんな野蛮じゃないんでーす」
密かに泣いていた鈴木が涙声でいう。
確かにいまさらメリコを殺してもなにも解決しないのだった。
家が壊れた事実はなかったことにはならない。
天井が抜けて電気配線がちぎれていた。
そのせいでエアコンは止まっている。
屋根に大穴も開いているので真夏の空気も入ってきていた。
部屋のなかはすでに蒸し暑くなり始めている。
半裸のメリコには快適かもしれない。
大暴れしたあと半裸で夏を感じる。
それは爽やかだ。
健康なら腹が減ってもおかしくないだろう。
突如、メリコの腹が鳴った。盛大な音をたてて。
眉根を寄せたままの表情で、メリコの頬が赤くなる。
進常はなかば感心していた。
「おーおー、この状況で腹が減ったか。すげー図々しさ。こいつは強いよ」
「おなかなんか減ってないもん!」
鈴木は思いつきを提案した。
「そうだ、まずはアメですよ! 食べ物を恵んでやって懐柔しましょう! ぼく、暴力とかきらいだし」
メリコは毅然と抗議した。
「イヤ! 原住生物の食べ物なんて汚い!」
「よし、食わせよう」
進常は決定した。
鈴木家の冷蔵庫前へ行き、勝手に開ける。
「今日は虫ないの?」
「虫はだめですよ! あったらぼくが食べます、高いんだから」
「そうだよー、高いんだよー、いつも奢ってあげてるけど」
「そ、その節は……、というか迷惑料ですよ。いつも進常さんのつまらない小説読んであげてるんだから」
「だけど、その小説のおかげで今回は助かった。なんつったって予知だからな」
「いや、たしかに予知ではあったけど、あんまり役に立たなかったような。あっ! とこころで進常さん、ぼくの額どうなってます? まだ穴開いてますか?」
進常は鈴木を一瞥して言った。
「なんにも残ってないね、痕とかは」
「あー、よかったぁー。額に目がついてたりしたら目立って外歩けないですもんねー」
進常は冷蔵庫から白い箱を取りだした。
「思ってたよりいいもんみつけちゃった」
「あ、それ今夜のお楽しみだったやつ!」
鈴木の声を無視して進常は中身を確認した。
「報幸堂のチーズスフレかー。野蛮な宇宙人にはちょっともったいないけど、ここは恩を売っておくか。ラッキーだったなメリコ、大人気スイーツが食べられて」
「あああ、僕はこの子に家を壊されたあげく、報幸堂のチーズスフレまで奪われてしまうんだぁあああああ……」
鈴木の嘆きも意に介さず、進常はケーキを皿に載せ、
スプーンを手にとってメリコの前へ戻った。
チーズスフレをひとすくいし、メリコの口へ持っていく。
「はい、あーん」
「……」メリコは唇を固く閉ざした。
「あーんっ! 食ってみろ! おいしいから!」
進常は容赦なくスフレをメリコの唇に押しつける。
「うぐぐぐ、や、やめ……っ!」
メリコが文句をいおうとしたので舌がチーズスフレに接触した。
その瞬間、衝撃を受けたように動きが止まる。
「……」
メリコは無言となった。
気が抜けたようになって、ゆっくり口を開けた。
「よし、食え!」
進常はメリコの口へスフレを押しこんだ。
「……」
メリコは無表情でスフレを咀嚼しはじめた。
鈴木と進常が見守るなかで、メリコは地球のチーズスフレを味わった。
「……」
ほんのひとかけらに過ぎなかったのに、メリコはまだ咀嚼を続けた。
飲みこむのを惜しむように。
「……」
メリコは執拗に噛み続けた。
表情はない。
味わうことに全神経を集中している者の顔だった。
「な、なんかおかしなことになってませんか……」
鈴木は心配になってきた。
進常も眉根を寄せた。
「でも不味いとか毒とかっていう反応じゃないぞこれ……」
鈴木と進常が不安がちに見守るなか、メリコはやっと咀嚼を止めた。
喉がこくっと鳴る。
味わい尽くしたスフレをやっと飲みこんだのだった。
メリコはまるで悟りを開いたような、安らかな表情になっていた。
口を開く。
「お……」
椅子に縛られたまま、のけぞって叫ぶ。
「おぉぉぉおいしぃいいいいいいいいぃぃーっ!」
メリコの目を覆っていたバイザーにひびが入り、粉々に砕け散った。
強烈な感情のフィードバックに耐えられなかったにちがいない。そんな感じだった。
メリコの叫びは身体の痙攣まで伴っていた。
ぴくぴくしながら首を振って訴える。
「おいしい! おいしい! なにこれ! おいしい! もっと! もっとちょうだい! なんでも答えるから! もっと! おいしい!」
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる