侵略のポップコーン

進常椀富

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やきにく異星人5

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「おおー、すごーい。玉子焼きおもしろーい」
 メリコは待ちきれない様子で鈴木の隣から料理の様子を眺めていた。
 鈴木からすると少々邪魔なくらい熱心に見てくる。

「ああ、いい香り……。これが地球文明の匂い……」
 そうつぶやいて、アマガも起きてきた。
 宇宙人は食い意地がはっている。

 焼きそばと玉子焼きを四人分にとりわけながら鈴木は言った。
「メリコちゃん、進常さん起こしてきて。食事できたからって」
「はーい。シンジョー! 焼きそば食べよー!」
 メリコが走っていく。

 鈴木はとりわけた料理をみつめた。
 少食ならこれで腹いっぱいになるだろうが、メリコもアマガもたぶん大食いだ。
 ホットプレートと焼き肉も用意しておいたほうがいいだろう。

 進常が起こされてきた。
「朝から焼きそばをチョイスしたか。若もんはやっぱ若いな……」
 言いながら顔を洗いにいく。

 鈴木は言った。
「メリコちゃんとアマガさんも顔洗ってきなよ」
「えっと、わたくしたちはこれで……」
 アマガが服の襟元を指で押すと空気が吹きだし、甲高い振動音がした。
 それで顔を洗浄しているらしい。

 メリコも襟元を押した。ピンクの髪が吹きあがる。
「これでさっぱり。カンパニースーツは十周期くらいお風呂入らなくても汚れないの」
 鈴木は聞いた。
「十周期って地球時間でどれくらい?」
 アマガが答える。
「一ヶ月以上になりますね。でも不潔じゃないですから! 進歩したテクノロジーの産物ですから!」
 意外な必死ぶりに鈴木は笑った。
「臭くならないならそれでいいけど。でも地球のお風呂も入ってみれば。夜にでも」

 ホットプレートと焼き肉の準備も終えた。
 テーブルの上は食器と食べ物でいっぱいになった。
 華やかな食卓だ。
 進常もやってきて席についた。

 鈴木は四人分の箸を並べてハッと気づく。
 まだメリコもアマガも食器を使って食べたことがない。
 手づかみのみだった。
 もとの食事からして食器を使っていない。

 鈴木はダメ元で箸の使い方を教えてみた。
「これは箸っていって、こうやって指ではさんで、こう動かして食べ物をつまむんだ。手が汚れないように」
「こうね……」
 メリコは器用に箸を動かした。
 アマガもすでに慣れたような仕草で箸を動かす。
「おもしろいですわ。手が汚れないようになんて……」

 進常は感心した。
「やっぱいろいろ優れてるとこあるんだな。順応性の高さとか」

 鈴木も席について箸を持った。
「じゃ、具体的どう使うか、ぼくたちの食べかたを見て覚えてね。いただきますっ!」
 メリコとアマガは顔を見合わせたあと、声をそろえて口にした。
「いただきます!」

 食事がはじまった。
 鈴木の食べかたをほとんど一瞥したていどで、
 メリコもアマガも箸がうまく使えるようになった。
 進常のいうとおり、順応性が高い。

 そして「おいしー! おいしー!」の大連呼。
 ほかの言葉はない。
 いままでの食事のせいで、味に関するボキャブラリーが貧困なのだからしかたなかった。

 進常はゆっくり食べながら肉を焼く係にまわった。
 ホットプレートに肉を載せながら言う。
「ちゃんと焼けたら食べられるからね。えーっと、焼けたらっていうのは、白くなって赤いところがなくなったら。そんでタレつけて食べて」
 しばらくして肉が焼けた。進常が指示する。
「焼けたよ、はいどーぞ」

 メリコとアマガは自分の分の焼きそばと玉子焼きを食べ終わっていた。
 さっそく箸を伸ばす。
 タレをつけた肉を口へ運び、いままでよりいっそう高い声をだした。
「おいしーっ!」
「おいしいですわーっ!」
 鈴木も食べ足りなかったので肉に箸を伸ばす。
 進常は次々と肉を載せながら言った。
「あるだけ食べていいからねー。野菜も食ってみー」
 
 メリコとアマガは旺盛な食欲を発揮した。
 最後のほうでは鈴木も進常も食卓を離れていたが、二人だけで焼き肉を続けていた。

 一時間後。

「ぐー……」
 アマガは自分の寝床で寝ていた。
 メリコはソファに横になって、苦しそうに眉根を寄せていた。
「うーん、うーん……」

 食べすぎである。

「うーん、うーん……」
 鈴木も床に伸びていた。
 メリコほどではないにしろ、やはり食べすぎだった。

「あぁー、身体が重い……」
 仕方なく進常が、膨らんだ身体を揺すりながら食事の後片付けをしている。
 鈴木は気力を振り絞って起きあがった。
「あ、洗い物はぼくがします。悪いから」
「じゃ、頼むよ」
 鈴木が食器を洗っている背後で、進常はコーヒーを飲んでいた。つぶやくように言う。
「今日さ、なんかだいじな用事なかったっけー?」
「銀行はいかないんでしょ? なんかありましたっけ?」
 そのとき、アマガのいびきがひときわ高くなった。
「ぐー」
 それで鈴木も思い出した。
「そうだ! アマガさんにミッションシップ直してもらわないと!」
 進常も声をあげる。
「それ! それむっちゃ重要じゃん! 食事が忙しくて忘れてたわ!」
「この人たち、これから仕事できると思いますか」
「やってもらうしかないだろ。早くしないと次の敵もくるかもしんないんだし。もう少し休ませてやるけど」

 時刻は午後二時半。夏の日差しが強烈だった。まだ日暮れにはほど遠い。
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