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癒やしのむいむい1
しおりを挟む洗濯があったので、宇宙人二人はそのあいだ、よけいに食休みすることができた。
洗濯が終わると、四人全員で鈴木の家まででかけることにした。
メリコ同様、進常はアマガにも地球の服を着せた。
メタリックのカンパニースーツは目立ちすぎる。
進常のブラウスとパンツを着せた。
いまではもう進常は着られないサイズだが、アマガには似合った。
頭髪と瞳がコスプレ調だが、だいたいにおいて爽やかなお姉さんになった。
メリコもアマガも、ホルスターに入れた光線銃を服の外につけていたが、
誰も殺傷力のある本物とは思わないだろう。
それは一見すると、奇抜なおもちゃのアクセサリーに見えた。
「あぁー、この身体にこの暑さはこたえるわぁー。わたしもカンパニースーツほしー」
進常は首にかけたタオルで汗を拭きながら、ふうふういって歩いた。
向かう先は鈴木の家だ。
メリコのミッションシップをアマガに直してもらうために。
鈴木は鍵を開け閉めする役目がある。
アマガは今日の主役だ。
メリコはメリコのミッションシップなのだから必要になるかもしれない。
進常には特に役目もないのだが、
別れているところを各個撃破されてはたまらないのでついていくことにした。
太ったまだ若いおばさんと中学生男子、コスプレっぽい髪をした少女と妙齢女性。
バランスのとれない一団として、四人は街なかを進んだ。
行き交う人々はだいたい道を譲ってくれる。
十分も歩くと鈴木家についた。鈴木は家の鍵を開けた。
「破片が散らばってるから靴のままどうぞ」
四人は土足のまま、ドヤドヤと鈴木家にあがりこんだ。
入ったとたん、進常が声をあげる。
「うおっ、あっつぅ!」
鈴木家の天井はオープンエアだったが、窓が閉まっているため熱がこもっていた。
鈴木も慌てて窓辺へ走る。
「窓! 窓開けないとだめだこりゃ!」
鈴木と進常が手分けしてすべての窓を開けると、
空気の通り道ができていくらかマシになったような気がした。
地球の服の下にカンパニースーツを着ているメリコとアマガは、
もとより涼しい顔をしていた。
カンパニースーツの温度調節機能は強力なものらしい。
メリコは横倒しになったミッションシップにアマガを導いて言った。
「こんな具合なんだけど」
アマガはしばらく全体を見回していた。
「だいぶ機能が残っていますね。これはたいして難しい修理じゃないかもしれません。まずは自壊装置をなんとかしましょう」
そういうと光線銃を引き抜いて、アマガは操縦席に潜りこんでいった。
すぐにパチパチという音が響いてくる。
なにかを溶断しているらしかった。
進常はガステーブルのスイッチを押していた。ボッと火がつく。
「ガスは生きてるな。お茶くらい淹れられる。換気扇は動かないけど」
進常はケトルに水をいれて火にかけた。
鈴木は冷蔵庫のなかをあらためた。
電気が止まっているので中は室温だ。
「あんまり食べ物なくてよかった。臭くなる前にぜんぶゴミ袋入れないと」
鈴木はゴミ袋をとってきて、手際よく作業を進めた。
冷凍庫の中身などすべて捨てるしかない。
トマトとキャベツはまだ食べられそうなので進常家へ持っていくことにする。
ペットボトルのスポーツドリンクが何本かあった。これは飲める。
「進常さん、スポーツドリンク飲みますか。ぬるいけど」
「お、いいね。もらうよ。そこ置いといて」
進常はシンクの縁に手を置いてスクワットをしていた。
サポーティドスクワットだ。
前に進常が貸してくれた筋トレの本に写真つきで載ってた。
鈴木は言った。
「無理しちゃだめですよ、体重大幅に増えてるんだから」
「なんの! わたしはいつもこれやってんだ。体重が増えたということは負荷が増えたというだけ。それだけ効くんだ、身体に!」
進常はサポーティドスクワットを続けた。
鈴木は階段に向かう。
「ぼくは上行って着替えとってきます」
「危ないから気をつけな」
鈴木は蒸し暑い階段をあがって自室のドアを開けた。
そよ風が頬をなでる。
そこには惨憺たる光景があった。
天井は穴があき、オプティカルジャマーの立体映像を透かして空が見える。
床も大きく抜けて吹き抜けになっていた。
部屋のなかは鈴木の所持品だったものが散らばってゴミの山だった。
昆虫図鑑の詰まった本棚もバラバラだ。
いくら地球侵略の被害にしては軽微だったとしても、
鈴木としては全財産を失ってしまったようなものだった。
オープンエアの空気の流れに侘しさを感じる。
「はぁあああー……」
大きくため息をつくと、床の穴に気をつけながら衣類ボックスの前へ行く。
リュックをみつけると、パンツ、Tシャツ、靴下を詰めはじめる。
不本意ながら、進常家への居候は長くなるだろう。
少しずつ、多くの衣料を運ぶ必要があった。
衣類を詰めたリュックを持って下へ戻ると、ちょうどお湯が沸いたところだった。
ケトルがピーピー音をたてる。
進常はガスを消したところで逡巡しているようだった。
「暇だからお湯沸かしてみたけど、やっぱ熱いもん飲む気しないな。このお湯は麦茶にして冷ましとくから、鈴木くん、コンビニでなんか冷たいもん買ってきてよ。お金出すから」
「アイスとドリンクってところですか」
「そうだね。あいつらアイス初めてだから喜ぶだろ。任せた」
進常からお金を受けとると、鈴木はメリコのほうへ振り返った。
メリコも暇にしているだろうから連れていこうと思ったのだが、アテが外れた。
メリコは操縦席のなかで外された部品を受け取って、床の上に置く役目をしていた。
サポートとして必要なようだった。
進常は筋トレを再開した。
しかたないのでひとりでコンビニへ向かう。
十分後、アイスと冷えたドリンクを携えて鈴木は帰宅した。
「ああ、コンビニは涼しかったなー。こことは天地だよ」
帰ってきた鈴木を見て進常がミッションシップのほうへ声をかける。
「メリコ、アマガ、アイス来たよ! 休憩、休憩!」
「はい、アイス」
鈴木はメリコの頬にアイスをピタッと当てた。
「ひゃあ!」
メリコは驚いた様子で、持っていた部品を落とす。
「冷たい! なにそれ食べられるの?」
「ああー、宇宙生活って不憫だなー。メリコちゃんの会社が特別搾取してるだけならまだいいんだけど」
鈴木はパックをむいて棒付きアイスを取りだした。
「この棒を持って。棒は食べられないからね」とメリコにアイスを渡す。
メリコはアイスをいろんな角度から眺めたあと、ふーふーと息を吹きかけた。
鈴木は笑う。
「ふーふーしても冷たいままだよ。冷たいのを食べるんだ」
「ふーん。あーん……」
メリコはアイスをかじって口へ入れた。
シャクシャクと咀嚼すると、例のごとく目を輝かせる。
「冷たい! おいしー!」
「冷たくてちょっと酸味があって爽やかで甘いでしょ? ソーダ味のアイス」
「冷たい! 甘い! 爽やか!」
無心にアイスをかじるメリコ。
食べ物を食べてるときの彼女は本当に無垢な感じでかわいい。
鈴木も思わぬときめきを感じてしまう。
この戦っているともいえないゆるさの、それでいて実質絶滅戦争が終わったら、
メリコともお別れなのだろうか。
それはちょっと惜しい。
せっかく仲良くなりかけているのに。
アマガもミッションシップの操縦席からごそごそと出てきた。
「お疲れさま。これアイス。どうぞ」
鈴木はアイスのパックを剥がしてアマガに渡す。
「ありがとうございます」
アマガは左手で受けとると、右手に持っていたものを一同へ見せた。
キノコのような形をした電子部品めいたものだった。
アマガが説明する。
「ちょうどいま外せました。自壊装置のコアパーツです。これでもう動力が戻っても自壊装置は働きません」
進常があぐあぐとアイスを食べながら質問する。
「で、どんな感じなの? また飛ぶことできそう?」
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