侵略のポップコーン

進常椀富

文字の大きさ
21 / 35

異星からの狩人3

しおりを挟む
 飛び出してきた小さな人型はメリコに飛びかかる。
 メリコはそれをパシッと片腕で捕らえた。

 体長三十センチ、蜂を擬人化したような生き物だった。
 腕と脚が二本ずつ、背中の翅で宙を飛び、顔は人間のものと同じ。
 長い金髪で冠のようなものを頭に載せている。
 瞳は緑色。
 蜂姫さまという感じだった。

「この! この!」
 蜂姫はしっぽの針でメリコを刺そうとする。
 しかし、針はカンパニースーツを貫けない。
 メリコはノーダメージだ。
 暴れる蜂姫を握り締めたまま問いただす。
「アンタ、だれ?」

 蜂姫は答えず、鈴木に向かって言ってきた。
「そこの者! こやつを殺せ! わらわのスーツにしたように! こやつらは敵だぞ!」
「スーツ……?」
 鈴木は倒れたままの黒い女を見た。
 顔がぽっかりと開いて、なかはピンク色の小部屋のようになっている。
 スーツというか、乗りこんで操縦するロボみたいなものなのかもしれない。
 なかにいたらしい蜂姫もこうして元気だ。
 つまり、鈴木はまだ誰も殺していない。
 いままでと同じように、邪魔な物を壊しただけに過ぎなかった。
 鈴木の胸に安堵が広がる。

 メリコは蜂姫を握る手に力をこめた。
「アタシは! アンタに! だれかって聞いてるの!」
 蜂姫は悶えた。
「ぐっ、苦しい。わらわはパイドラン八世の娘、モルゲニー! そなたらテホルル・ペットフーズを狩るものじゃ!」

 この蜂姫は、テホルル・ペットフーズに敵対しているらしい。
 つまり鈴木や進常とは敵対していない。
 むしろ味方だ。

 鈴木は納得した。
「ぼくたちの敵じゃないから進常さんの予知が働かなかったのか……!」

 モルゲニーはなおも鈴木に訴えた。
「そこの者、早くわらわを助けよ! わらわこそが味方じゃ! こやつらは血も涙もない鬼じゃ! なんと騙されているかしらんが、付き従っていると皆殺しにされてしまうぞ!」

「知ってるよ」鈴木はゆっくり言った。
「テホルル・ペットフーズが全人類を皆殺しにして文明を奪おうとしていることは。ぼくは鈴木翔夢。君をつかんでる彼女はメリコ。君が倒した彼女はアマガ。二人ともテホルル・ペットフーズの社員だったけど、いまは違う。騙されて働かされていたんだ。いまは二人とも仲間だ。手を携えて、共にテホルル・ペットフーズを倒そうとしている。テホルル・ペットフーズを倒すのに必要な仲間だ」

 モルゲニーは疑り深く言った。
「その話はまことか?」
 モルゲニーを握ったままメリコが言う。
「ほんとう」
 鈴木も答えた。
「本当。だからこうしてぼくたちは仲良くしていられるんだよ。どっちも騙し合いなんてしてない。その証拠にこれから君の話をゆっくり聞いてあげるよ。メリコちゃん、離してあげなよ」

 メリコはまだモルゲニーを離さない。
「その前に。アマガになにをしたの?」

 モルゲニーは答えた。
「わらわの毒で眠らせただけじゃ。すぐに目覚めさせることもできる」
「じゃ、そうして。おかしな真似したらその翅むしっちゃうからね」
 メリコはモルゲニーを開放した。
 モルゲニーは羽ばたいて宙を舞う。
「わらわとしても、話すべきときは話し合う」

 モルゲニーは飛んでいき、アマガのうなじに尾の針を刺した。
「うぅーん……」
 アマガはすぐに目覚めた。
「わたくし、また眠ってしまいましたか?」
 アマガはどうやら無事なようだった。

 鈴木はほっとひと息つく。
「進常さんちに戻って話そう。冷たいものでも飲みながら。ここは暑いよ」

 モルゲニーを含む四人は進常の部屋へ戻った。
 進常は掃除を終え、スクワットをしていた。
 モルゲニーの姿を認めて眉根を寄せる。
「また増えたのか。エイリアン」
 鈴木は進常に事情を説明して、最後に言う。
「ぼくたちも細かいことはわからないんですけどね。これから話し合うところです」
「じゃ、麦茶でも出すか」

 麦茶が出され、鈴木、進常、メリコ、アマガはリビングのテーブルについた。
 モルゲニーは席がないこともあって、テーブルの中央に立つ。
 麦茶はお猪口に入れて出された。
 モルゲニーはテーブルを舞台として、演説するように滔々と語った。

 頭の上の冠が示すように、モルゲニーはアンザレクトという世界の王女だという。
 母親のパイドラン八世は女王だ。
 アンザレクトは地球の蜂に似て、女性上位の世界だった。

 アンザレクトは中央宇宙連邦に所属していない辺境の世界であったため、
 あるときテホルル・ペットフーズの先遣隊が訪れた。
 武力衝突となり、アンザレクトの騎士三人が殺された。
 そしてテホルル・ペットフーズの先遣隊は引きあげていった。

 これは後になってわかったことだが、
 半ば虫のような姿をしたアンザレクト人は体格も小さい。
 ペットフードとするにも、苦労のわりに量が少ない。
 それでテホルル・ペットフーズは、アンザレクトを資源価値なしと判断して去っていったのだった。

 テホルル・ペットフーズは本格的な侵攻をせずに小競り合いで終わったため、
 アンザレクト側に超体は生まれなかったようだ。

 パイドラン八世は当然のごとく激昂した。
 中央宇宙連邦に、テホルル・ペットフーズの暴虐を訴えた。
 しかし中央宇宙連邦は、アンザレクトが連邦に加盟していないことを理由に、
 今回の事件を異星文明どうしの接触事故として単純に処理した。

 その扱いに、パイドラン八世の怒りはさらに燃えあがった。
 そして自分の娘たちに命じたのである。
「テホルル・ペットフーズの構成員をいちばん多く生贄に捧げた者に王位を譲る」と。

 こうしてモルゲニーは故郷をあとにしてきたのだった。
 アンザレクト人が外宇宙へ出るときはいつもそうするように、
 大型の人型スーツを着用して、戦闘用宇宙船に乗って。

 長いことスキを窺ってマザーシップを追跡してきた。
 そのマザーシップは地球をターゲットとして活動を開始した。
 ということは、テホルル・ペットフーズの構成員が船外に出る。
 生贄を捕らえるチャンスが訪れたのだった。
 
 だが、そううまくいかなかった。
 モルゲニーの宇宙船は哨戒ドローンに発見され、戦闘ののち撃墜されてしまった。
 アンザレクトは宇宙戦力ではまったくテホルル・ペットフーズにはかなわないのだった。

 脱出ポッドで地球へ降りたモルゲニーは、
 テホルル・ペットフーズの構成員が使う光線銃のエネルギー源を頼りに、
 地球に降りている構成員がいないか探していた。
 生贄を捕らえれば面目も立つ。
 アンザレクトから救援船を呼ぶことも許されるだろう。
 そうして、地球で活動しているメリコとアマガを発見したのだった。

 モルゲニーはテーブルの上で、腰に手を当てて、偉そうに胸をそらした。
「わらわの話はこんなところじゃ。次はそちたちの話を伺おう」

 鈴木は半ばうっとりしながらモルゲニーの話を聞いていた。
 彼女は半分くらい虫だ。
 虫っぽい。
 虫を食べるのも眺めるのも好きな鈴木にとって、半虫半人のモルゲニーはとても可愛かった。鈴木は熱視線でみつめる。

 鈴木の視線に気づくと、モルゲニーはもじもじと身体をよじって頬を赤く染めた。
「わらわの話は終わったのじゃ、そんなにじろじろ見つめるのは不躾であろう……」
 鈴木は思わずつぶやく。
「か、かわいい……」
 直後、メリコが無表情で、鈴木の髪の毛をひとつまみ毟りとった。
 鈴木は痛みで正気に戻る。
「いたい! だいじな髪の毛になんてことを!」
「スズキがぼさっとしてるから」
 メリコはつまらなそうに、毟った髪の毛を指からふっと吹き飛ばした。
 無表情の裏側に冷たい怒りが隠れているような気配がした。
 とりあえずおとなしくしてたほうがよさそうだと、鈴木は判断する。

 言い方を変えれば、メリコの冷たい怒気に怖気づいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...