侵略のポップコーン

進常椀富

文字の大きさ
28 / 35

宇宙を貫いて1

しおりを挟む
 ミッションシップが急加速して鈴木家を飛びだした。
 鈴木家は破片を撒きちらして崩壊する。
 ミッションシップの操縦席は壁面の七割くらいが外部を映すスクリーンだった。
 とうぜん、生家の崩壊も鈴木の目に映った。

 鈴木は声を震わせる。
「ああああ、ぼくんちもう壁しか残ってないじゃんかぁぁぁー……」

 隣で進常が言った。
「生きて帰ってくれば十億円だ。新しい家建ててやるって。考えてみれば晴れて新築に住めるんだからある意味ラッキーじゃん?」
「思い出のたくさん詰まった家だったのにー」
「勝てば新しい家、新しい友だち、そして新しい世界! よりどりみどりだ! 未来は明るいぞ! 過去を振り返るな!」
「はーいー……」
 鈴木は理性を振り絞って、無理やり自分を納得させた。

 そういっているあいだにも、鈴木家ははるか遠くに見えなくなった。
 弾丸より速いミッションシップはもう雲の上だった。
 凄まじい加速だったが、操縦席に加速のGはかかっていない。
 異星テクノロジーは鈴木たちの予想以上に優れている。

 通信機の画面ではまだハデットが怒鳴っていた。
「裏切り者め! 貴様など本艦には近づけん! 必ず撃墜してやる! そのうえでメリコ149、おまえの実家には相応の損害賠償をせいきゅ……」

 メリコは通信機のスイッチを切った。
 偽物のサイコグラスを外しながら言う。
「シンジョー! 敵の気配はどう? こっちはシールド無いから一発食らったらアウトだかんね! あなたの予知だけが頼り!」

 進常は鉛筆を握りしめて、メモを手にとった。
「おう、任せておけ! デブるのはイヤだけどしょうがねえ! 十億円も新しい世界も、命あってこそだからな! でもいまのところ、ぜんぜん反応ないみたいだ」

 スクリーンに映しだされる外部の様子は急速に移り変わっていった。
 輝く青空から藍色が濃くなっていき、もう外は暗い。
 ほとんど宇宙に達していた。
 ミッションシップは星の瞬く世界に入っていく。

「そろそろいいみたいです」
 アマガが手を下ろして、自分のサイコグラスを外す。
 鈴木も進常も落下しなかった。
 身体は浮いている。無重力だった。

 メリコの身体はシートにベルトで固定されていたし、
 アマガとモルゲニーは慣れた様子で姿勢を安定させていた。
 漂っているのは鈴木と進常だけだった。

 進常の身体がくるくると横回転をはじめていた。
「鈴木くん、無重力だ! わたしが夢にまでみた無重力! すげぇ! 気持ちいい!」

 鈴木は変なスイッチを押さないよう注意しながら壁面のでっぱりにつかまっていた。
「進常さん、はしゃいでないで姿勢を安定させてくださいよ。いまは進常さんが肝なんですから自覚を持ってください」
「わかった、わかった」
 進常もでっぱりにつかまって身体の回転を止めた。
「ちょっと聞きたいんだけど、マザーシップのなかも無重力?」

 アマガが答えた。
「マザーシップには人工重力があります。だいたいいつもカンパニースーツを着ているのではっきりとはわかりませんが、地球と同じくらいだと思います」
「この身体の軽さも束の間か。残念」

 そのとき、進常の右腕が痙攣した。
「おおおお! 来たぞ、みんな注意しろ!」
 鈴木が片腕でつかんで進常の身体を安定させる。
 進常は鉛筆をメモに走らせて言った。
「円状に攻めてくる! まず左上から右回りだ!」

 メリコが悲鳴のような声をあげた。
「えーっ、それだけじゃわからないよ! アタシから見て左上でいいの?」
「そのはずだ! こっちがどう動いても向こうは左上から来る!」
「なんだかわからないけど、精一杯やるから!」

 メリコはミッションシップの武装をスクリーンの左上に合わせた。
 そのまま飛び続ける。
 ピピピッと警告音が鳴る。
 メリコは身を乗りだした。
「来た!」

 スクリーンの左上に敵ドローンシップ出現。
 ついでこちらの武装が射程圏に入った。
 メリコはトリガーを引く。
 光条が疾走ってドローンシップは爆発四散した。
 メリコが確認する。
「右回りにくるのね!」

 実際、そのとおりにドローンシップが出現した。
「こなくそー!」
 メリコは照準を回転させ、次々と撃墜していく。
 メリコは頭上の進常を振り仰いだ。
「次は?」

 進常の鉛筆は止まっていた。
「しばらく休憩だな。いや、来たぞ! 今度は右上だ!」
「右上ね!」

 メリコは照準を移動させる。
 ちょうどそこへドローンシップが出現した。間髪を入れず破壊する。

 ドローンシップは次々と接近してきて波状攻撃をしかけてきた。
 進常が自動書記のように鉛筆を走らせる。
「次、真ん中!」
 メリコは指示に従う。
「オッケー!」
「右下!」
「なんの!」
「また右上!」
「おまかせ!」
 メリコはドローンシップの群れをものともせずに宇宙空間を突っ走った。

 鈴木は感嘆して言う。
「すごいじゃん! メリコちゃん強い!」

「へっへっへーっ!」メリコは得意そうに笑った。

 モルゲニーが興奮して言う。
「すごいではないか、メリコ! わらわはあいつらにズタボロにされたのじゃ、思いっきり仕返ししてやってくれ!」

 アマガが口を開く。
「ドローンシップの射程よりミッションシップのほうが射程は長いので出現位置さえわかれば遅れをとることはありません。あとはメリコの操作技術しだいです」

 鈴木は進常の身体の変化に気づいた。
「うわ、進常さん! 太って腕が赤ちゃんみたいです!」
 力を使い続けたために進常はぶくぶくに太っていた。

 二重あごになった進常は苦しげに言う。
「ぐぬぬ、服が苦しくなってきたぞ……。早く勝負をつけないとヤバい……」

 操縦に集中していたメリコが大きな声で言った。
「マザーシップ補足! 距離一万!」

 スクリーンにはまだ見えない。
 しかし進常が反応した。
 右腕を動かすのとほぼ同時に叫ぶ。
「右に回避! すぐ!」
「はい!」

 すでに進常を信頼しきっているメリコは反射的ともいえる素早さで指示に従った。
 虚空から飛来した光条が左にそれていく。
 マザーシップからの砲撃だった。

 メリコは額の汗をぬぐう。
「危なかった。あんなの当たったら蒸発しちゃう……」
 進常が言った。
「次、左に回避!」
「はい!」
 光線が外れていく。
 ミッションシップはふたたび難を逃れた。
 鈴木たちは宇宙空間を突き進んでいく。

「進常さん……?」
 鈴木がつかんでいる進常の身体が振動していた。
 ものすごい勢いでメモを書いている。
 進常は言った。
「おおおおお、来るぞ、来るぞメリコ! 心の準備しとけよ!」
「なんでも言って!」

 進常の途切れない指示が始まった。
「まず左に回避、その後左上に敵! 円形の波状攻撃、三機まで倒したら右に回避! そのあと右下から攻撃機出現! 二機撃って左に回避、残りを倒したら左に回避!」
「くっ! 難しくなってきた、燃えるぅぅぅー!」

 メリコは指示されたとおりに機体を操縦した。
 光条がミッションシップをかすめていく。
 敵ドローンシップは出現しだい破壊された。
 スクリーンのなかで星空が回転し、爆発と閃光がよぎってゆく。
 ミッションシップは熱いカオスのなかを突進した。

「左に回避!」
「はい!」
 光条がミッションシップをかすめる。

 その直後、スクリーンに敵マザーシップの姿が映った。
 亀の甲羅を積みあげたような黒いシャンデリアか都市のような外観。
 鈴木が二度めに目にする敵の本拠地だった。

 マザーシップは逃げようとしていないのか、
 いったん姿を捉えると、それは急速に巨大化していった。

 攻撃をかわしながら接近していく鈴木たちのミッションシップ。
 近づいてみるとマザーシップの大きさは途方もないものだった。
 町がひとつすっぽり収まりそうな大きさがある。

 鈴木が言った。
「この大きさで乗組員数十人か。これなら敵と出会わずに目的地までつけるんじゃ」
「中に入れればな!」
 進常が鉛筆を走らせながら言う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...