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彼方より来るもの1
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「つん、つる、てん」
スキンヘッドとなった鈴木の頭をメリコがぺちぺちと叩く。
「メリコちゃん、そういうおもちゃじゃないから。ぼくの失われた青春が発する最後の輝きだから。どちらかといえばいたわって」
鈴木は無表情で囁いた。精魂尽き果てたような印象である。
マザーシップの内部は照明が減らされてかなり暗くなっていた。
乗組員に状況を知らせる館内放送がひっきりなしに続く。
丸い身体を揺すって進常が言う。
「一段落したところで悪いんだけど、わたしたち、地球に帰りたい。十億円が待ってるし、痩せなきゃならないし、やることが多いんだけど、帰れる? 『生命維持に必要な分以外凍結』ってヤな予感するんだけど……」
アマガが首を傾げた。
「そうですねぇー、ミッションシップを飛ばすことは『生命維持に必要』じゃないかもしれませんねー。動力、凍結されてるでしょうねぇー」
モルゲニーが飛び回りながら言う。
「脱出ポッドじゃ! この艦ならそんな装備もあるじゃろう。わらわと同じように、脱出ポッドで地球に降りればいいのじゃ」
進常は唸った。
「それはあんま良くねー手だな。どこに落ちるかわかんねーし。最終手段としたい」
メリコは気楽に言った。
「まあ、ゆっくりすれば。どうせいつかは帰れるんだし。使節団いつ来るかわかんないけど、生命維持に必要な設備は使えるんだから。よゆーよゆー。スズキたちが過ごす部屋も見つけてあげるからさ」
鈴木は頭を抱えた。
「そういう問題っていうか、ここのあのむっちゃ不味い食事でいつまでかわかんない時間過ごすの? キツイなー。メリコちゃんたちだって、いまさらあの食事はキツイんじゃないの?」
メリコはハッとなった。
「キツイ! ぜったいイヤ! なんとかしないと!」
通信機のホロモニターを見ると、まだ中央宇宙連邦とのチャンネルはつながっていた。
メリコは受付嬢に縋る。
「おばさん、なんとかして! 地球に帰りたい!」
中央宇宙連邦の受付嬢は眉間にシワを寄せた。
「ワタクシまだ若いです。二千三百二十六歳ですから。だいたい二千三百を取って二十六歳です」
確かに見た目からは年齢がわからない姿なので、若いといわれれば若いのだろう。
メリコはすぐに取り繕った。
「お姉さん! なんとか地球と往復する手段をください! できないと肉体的ストレスで生命維持に支障がでます! とくにこの地球人の二人には! アタシたちもだけど」
受付嬢はなにかを操作するような仕草のあと言った。
「それでは、告発人であるメリコ149が操縦する場合のみ、ミッションシップの凍結を解除しましょう。メリコ149が操縦する場合には、とくに制限を設けません」
「やったーっ!」
メリコは小躍りした。
進常がほっと息をつく。
「ああ、安心した。これで帰れるな。メリコが操縦する分には何往復もできるんだろ。乗組員のみんなに地球のお菓子とか食べ物持ってきてやろうぜ。ぜんぶで四十人くらいなんだろ。なんとかなる」
アマガが手を叩く。
「それなら何人もが乗れる大型のミッションシップを出して地球で買い出ししましょう! いまのところ反抗的な乗員がいたとしても、地球の食べ物を食べれば翻意間違いなしでしょう!」
鈴木は力を取り戻したように笑った。
「へへへ、真の友好の始まりかー。ハゲちゃった甲斐もあったなー」
メリコが言う。
「往復自由自在なら、アタシたちずっと地球にいたいな。たまに様子を見にこっち戻ってくるって感じで」
アマガが言った。
「食事はすべて地球でとっても構いませんが、乗組員を少人数ずつ、地球へ降ろしましょう。メリコは毎日、ミッションシップを往復させてもらわないと」
モルゲニーが口を開く。
「わらわには関係ない話じゃ。わらわは迎えが来るまでスズキと遊ぶんじゃー」
メリコが唇を尖らせる。
「虫ケラズルい!」
「誰が虫ケラじゃ! 由緒正しい王族を指して! この下級労働者め!」
「なにを!」
「なんじゃ!」
進常は鈴木の脇腹を小突く。
「鈴木くん、どうにかしろよ……」
「そんなこといわれても……」
鈴木だって困る。
メリコとモルゲニーがキーキー争い、鈴木が途方に暮れていると、
艦内の照明が次々と灯っていった。
まるでフルパワーといいたげに眩く輝く。
削減されていた艦の動力が戻ったようだった。
抑揚のないアナウンスが艦内に響いた。
「警告。現状の加速と方向を維持した場合、本艦は近傍惑星へ落下します。警告……」
鈴木はメリコに聞いた。
「近傍惑星って地球でしょ? 落ちるの? どういうこと?」
メリコも首を振る。
「アタシにいわれても、ちょっと……」
一同はまだ超高速通信室のなかにいた。
ホロモニターに映る受付嬢の言葉が届く。
「全宇宙におけるテホルル・ペットフーズの資産のうち、その艦だけが凍結を解除されました。違法な特別権限の機器で操作されている可能性が高いです」
スキンヘッドとなった鈴木の頭をメリコがぺちぺちと叩く。
「メリコちゃん、そういうおもちゃじゃないから。ぼくの失われた青春が発する最後の輝きだから。どちらかといえばいたわって」
鈴木は無表情で囁いた。精魂尽き果てたような印象である。
マザーシップの内部は照明が減らされてかなり暗くなっていた。
乗組員に状況を知らせる館内放送がひっきりなしに続く。
丸い身体を揺すって進常が言う。
「一段落したところで悪いんだけど、わたしたち、地球に帰りたい。十億円が待ってるし、痩せなきゃならないし、やることが多いんだけど、帰れる? 『生命維持に必要な分以外凍結』ってヤな予感するんだけど……」
アマガが首を傾げた。
「そうですねぇー、ミッションシップを飛ばすことは『生命維持に必要』じゃないかもしれませんねー。動力、凍結されてるでしょうねぇー」
モルゲニーが飛び回りながら言う。
「脱出ポッドじゃ! この艦ならそんな装備もあるじゃろう。わらわと同じように、脱出ポッドで地球に降りればいいのじゃ」
進常は唸った。
「それはあんま良くねー手だな。どこに落ちるかわかんねーし。最終手段としたい」
メリコは気楽に言った。
「まあ、ゆっくりすれば。どうせいつかは帰れるんだし。使節団いつ来るかわかんないけど、生命維持に必要な設備は使えるんだから。よゆーよゆー。スズキたちが過ごす部屋も見つけてあげるからさ」
鈴木は頭を抱えた。
「そういう問題っていうか、ここのあのむっちゃ不味い食事でいつまでかわかんない時間過ごすの? キツイなー。メリコちゃんたちだって、いまさらあの食事はキツイんじゃないの?」
メリコはハッとなった。
「キツイ! ぜったいイヤ! なんとかしないと!」
通信機のホロモニターを見ると、まだ中央宇宙連邦とのチャンネルはつながっていた。
メリコは受付嬢に縋る。
「おばさん、なんとかして! 地球に帰りたい!」
中央宇宙連邦の受付嬢は眉間にシワを寄せた。
「ワタクシまだ若いです。二千三百二十六歳ですから。だいたい二千三百を取って二十六歳です」
確かに見た目からは年齢がわからない姿なので、若いといわれれば若いのだろう。
メリコはすぐに取り繕った。
「お姉さん! なんとか地球と往復する手段をください! できないと肉体的ストレスで生命維持に支障がでます! とくにこの地球人の二人には! アタシたちもだけど」
受付嬢はなにかを操作するような仕草のあと言った。
「それでは、告発人であるメリコ149が操縦する場合のみ、ミッションシップの凍結を解除しましょう。メリコ149が操縦する場合には、とくに制限を設けません」
「やったーっ!」
メリコは小躍りした。
進常がほっと息をつく。
「ああ、安心した。これで帰れるな。メリコが操縦する分には何往復もできるんだろ。乗組員のみんなに地球のお菓子とか食べ物持ってきてやろうぜ。ぜんぶで四十人くらいなんだろ。なんとかなる」
アマガが手を叩く。
「それなら何人もが乗れる大型のミッションシップを出して地球で買い出ししましょう! いまのところ反抗的な乗員がいたとしても、地球の食べ物を食べれば翻意間違いなしでしょう!」
鈴木は力を取り戻したように笑った。
「へへへ、真の友好の始まりかー。ハゲちゃった甲斐もあったなー」
メリコが言う。
「往復自由自在なら、アタシたちずっと地球にいたいな。たまに様子を見にこっち戻ってくるって感じで」
アマガが言った。
「食事はすべて地球でとっても構いませんが、乗組員を少人数ずつ、地球へ降ろしましょう。メリコは毎日、ミッションシップを往復させてもらわないと」
モルゲニーが口を開く。
「わらわには関係ない話じゃ。わらわは迎えが来るまでスズキと遊ぶんじゃー」
メリコが唇を尖らせる。
「虫ケラズルい!」
「誰が虫ケラじゃ! 由緒正しい王族を指して! この下級労働者め!」
「なにを!」
「なんじゃ!」
進常は鈴木の脇腹を小突く。
「鈴木くん、どうにかしろよ……」
「そんなこといわれても……」
鈴木だって困る。
メリコとモルゲニーがキーキー争い、鈴木が途方に暮れていると、
艦内の照明が次々と灯っていった。
まるでフルパワーといいたげに眩く輝く。
削減されていた艦の動力が戻ったようだった。
抑揚のないアナウンスが艦内に響いた。
「警告。現状の加速と方向を維持した場合、本艦は近傍惑星へ落下します。警告……」
鈴木はメリコに聞いた。
「近傍惑星って地球でしょ? 落ちるの? どういうこと?」
メリコも首を振る。
「アタシにいわれても、ちょっと……」
一同はまだ超高速通信室のなかにいた。
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