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彼方より来るもの2
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進常が丸い拳を突きあげた。
「ハデットか!? あのヤロウ、性懲りもなく!」
アマガが首をひねる。
「いくら部長といえども、中央宇宙連邦の処置をひっくり返せるほどの権限は持ってないと思うんですけど……」
鈴木が言う。
「誰のせいであっても早くなんとかしないと! こんな大きい船が地球に落ちたら大惨事ですよ!」
先ほどの抑揚のないアナウンスとは違って、威厳のある、偉そうな人声が艦内に響いた。
「我はテホルル。テホルル・ペットフーズ会長である。秘蔵の会長権限でこの艦はふたたび我がものとなった。下劣な中央宇宙連邦ならびに我らに牙をむいた下等生物、地球原住生物に復讐の鉄槌をくだすものである。本艦はこれより地球に落下する。その衝撃と、衝撃により舞いあがった粉塵は、必ずや下等な地球文明を滅ぼすであろう。諸君は弊社社員として、この大偉業に命を捧げてもらう」
進常は唇を舐めた。
「やべーな。復讐ときたか。なりふりかまわずってやつだ」
鈴木はあることに気づいた。
「進常さん! 重大な危機なのに、進常さんの予知が働いてません!」
「そういやそうだ。とうとう力が尽きたのかな。それともなんかあるのか。要注意だな」
ホロモニターの受付嬢が言った。
「ただいま入った情報によりますと、テホルル・ペットフーズ会長、テホルルが行方不明だそうです。会長辞任の儀式を行うというので捜査員たちが見守っていると、忽然と姿が消えたそうです」
進常が言った。
「テレポートだ! なんとかの儀式をするって時間を稼いで準備して、テホルルは何百光年もいっきにテレポートしてきたんだ!」
アマガが息を呑む。
「まさかそんな常識はずれな……。でも会長のテホルルは謎に包まれた人物でして。わたくしたちなどその姿も知らないわけですから、あるいは……」
受付嬢が言った。
「こちらからは継続的に資産凍結の操作をしているので、そちらからも継続的に凍結解除の操作をしているはずです。テホルルがそちらにいるのならば、彼を止めるしかありません」
鈴木は意を決した。
「やるしかないってわけだ! 行こう、みんな!」
進常が聞く。
「行くってどこへ? この艦広いぜ?」
「とうぜん、司令室に決まってます! 偉そうなやつはこそこそ隠れたりしません!」
「ま、そうかもな」
アマガはやる気のようだった。
「司令室への道は任せてください。もうそんなに遠くありません。これは悪を徹底的に叩くチャンスでもあります」
メリコはイレイザーを引き抜いた。
「アタシたちを騙してこき使ってた会長なんて許さない! トドメはアタシが刺す!」
モルゲニーも意気盛んだった。
「テホルルは宇宙的重罪人じゃ! アンザレクトの名にかけて引き回しに処すのじゃ!」
鈴木は緊張しながらも微笑んだ。
「宇宙大企業の会長ともなると、ずいぶん恨みを買ってるもんだなぁー。とにかく、相手は不思議な、常識外れな能力を持っているらしいし、みんな、油断しちゃだめだぞ!」
一同は威勢よく返事した。
今回も勝たなければ地球文明は滅びる。
やるしかない。
背水の陣が鈴木の身体のどこかにある本質的な塊を鼓舞していた。
ホロモニターの受付嬢に別れを告げて、一同はこの艦の司令室へ向かった。
司令室への距離は確かに短かった。
エレベーターで一階上がって、少し進んだだけだ。
一同は司令室の扉の前に着く。
頑丈そうな金属製の扉は緑色に光っていた。
それはなんとも危険そうに見える輝きだった。
近くには何人もの社員たちがイレイザーを抜いて、手をこまねいている様子だった。
鈴木たちの姿を認めると、社員のひとりが言った。
「内側からバリアを展開されました。イレイザーでは歯が立ちません」
進常が言った。
「確かにそんな感じに見える。こんなときの鈴木くんだよ! 任した!」
「はい! やれる限りをやります! みんな下がって!」
鈴木は一歩前に出て第三の眼に意識を集中した。
叫ぶ。
「対障壁! バリア突破こうせぇぇぇーんっ!」
鈴木の頭が一瞬強く輝き、額から光線が伸びた。
バリア突破光線は容易く障壁を霧散させ、扉をも破壊した。
司令室のなかが露わになる。
部屋のぐるりに配置されたコンソール群のまんなかに、その人影は立っていた。
まるで金属でできたカマキリのような姿だった。
腕が二本、脚が二本で人型だが、人間とはだいぶ違う。
まるで異形だった。
服らしいものは着ておらず、手にも何も持っていなかった。
カマキリは悠然とした態度で口を開く。
「我はテホルル。全銀河を狩場とするテホルル・ペットフーズ会長である」
メリコが息を呑む。
「人間じゃなかったんだ、会長。人型生命体ではあるけど」
アマガも頷く。
「わたくしも初めて知りました。なんか怖い人ですね、やはり」
テホルルが手に何も持っていないのを確認して、鈴木たちは司令室のなかへ踏み込んだ。
進常がテホルルに指を突きつけた。
「往生際が悪いぞ! いい加減諦めて艦の操作をやめろ! おまえの帝国は滅んだんだ!」
テホルルは笑い声のようなものをたてた。
「そうかもしれん。人知れず、法の抜け目を縫って続けられてきた文明絶滅は、このパターンではひとまず終了だ。そうだからこそ、この復讐は成し遂げられねばならんだろう。我々は恐怖の一撃をもって、新たな手段に移行する」
「言い訳がもうわからん。もうやっちゃえよ、鈴木くん」
テホルルの外見にビビり気味だったが、鈴木は勇を奮って言った。
「諦めろテホルル! 猶予をやる、早く艦を止めろ、でなくちゃ撃つ!」
「我を止められるかね、少年。秘匿されてきた会長権限は我の精神とリンクしておる。我は地球落下が阻止できなくなる地点まで艦を誘導し、そのあとテレポートして去る。お前たちは犬死に終わる。我を殺せなければな」
殺し。
殺すのは怖い。
モルゲニーの人型スーツを撃ったときも、
人を殺してしまったかと思って、さんざん後悔した。
しかし、今回もやらなければ地球が滅ぶ。
しかたがないことだ。
意を決しかけたとき、メリコが動いた。
「アタシは迷わない!」
イレイザーの引き金を引く。
光線が命中すると同時にテホルルは黒い霧となった。
霧はすぐ凝集してまたテホルルになる。
「まずは裏切り者への仕置か」
テホルルは目にも留まらぬ素早さで動き、メリコとアマガを殴りとばした。
「ぐぅ!」
「うぐ!」
メリコとアマガは壁に激突して倒れる。
進常が仰天していた。
「ひぃっ!? こいつわたしの予知がぜんぜん利かない! 動きが読めない!」
メリコは苦しげに身体を起こした。
「うぅ、カンパニースーツがあるから死なないけど……」
アマガも動いた。死んでいない。
テホルルは悠々と言った。
「殺しはせん。死ぬのは絶望のときまで待つがよい」
テホルルは突然に素早く身をかわし、なにかを指で弾いた。
それは針を刺そうと忍び寄っていたモルゲニーだった。
「きゅう……」
モルゲニーは壁に当たって気絶した。
テホルルは言う。
「アンザレクトか。地球人と手を組むとは意外だが、しょせん虫ケラよな」
進常の予知は機能しない。
メリコとアマガの銃も無効。
モルゲニーの針は届きもしない。
こちらの手で残っているのは鈴木の光線のみだった。
メリコが言う。
「スズキ、撃って! アナタの力ならきっと!」
そうまで言われては尻込みしていられない。
第三の眼が輝く。
鈴木はテホルルと対峙した。
「テホルル! 降参するならいまのうちだぞ! ぼくの本気はこのマザーシップだって傷つけられるんだ! なめるな!」
「ワハハハハ!」
「超打倒! ナックルこうせぇぇぇーん!」
鈴木のビームがテホルルに命中する。
しかし、テホルルはやはり黒い霧に分散した。
霧は流れて鈴木たちの背後に回り、そこにテホルルが実体化する。
「侮りがたい威力だが、それでも我は殺せん。おまえらに打つ手はないのだ。おまえたちの力は通用しない。なぜなら我もまた超体だからだ」
「ひぃいいっ!」
進常はエビが逃げるように腰から逃げた。
「なにか見つけろ、鈴木くん! とりあえずわたしは足手まといだから逃げとく! 任した!」
「そんなこと言われたって、ぼくだって撃つしかないじゃないですか!」
「ハデットか!? あのヤロウ、性懲りもなく!」
アマガが首をひねる。
「いくら部長といえども、中央宇宙連邦の処置をひっくり返せるほどの権限は持ってないと思うんですけど……」
鈴木が言う。
「誰のせいであっても早くなんとかしないと! こんな大きい船が地球に落ちたら大惨事ですよ!」
先ほどの抑揚のないアナウンスとは違って、威厳のある、偉そうな人声が艦内に響いた。
「我はテホルル。テホルル・ペットフーズ会長である。秘蔵の会長権限でこの艦はふたたび我がものとなった。下劣な中央宇宙連邦ならびに我らに牙をむいた下等生物、地球原住生物に復讐の鉄槌をくだすものである。本艦はこれより地球に落下する。その衝撃と、衝撃により舞いあがった粉塵は、必ずや下等な地球文明を滅ぼすであろう。諸君は弊社社員として、この大偉業に命を捧げてもらう」
進常は唇を舐めた。
「やべーな。復讐ときたか。なりふりかまわずってやつだ」
鈴木はあることに気づいた。
「進常さん! 重大な危機なのに、進常さんの予知が働いてません!」
「そういやそうだ。とうとう力が尽きたのかな。それともなんかあるのか。要注意だな」
ホロモニターの受付嬢が言った。
「ただいま入った情報によりますと、テホルル・ペットフーズ会長、テホルルが行方不明だそうです。会長辞任の儀式を行うというので捜査員たちが見守っていると、忽然と姿が消えたそうです」
進常が言った。
「テレポートだ! なんとかの儀式をするって時間を稼いで準備して、テホルルは何百光年もいっきにテレポートしてきたんだ!」
アマガが息を呑む。
「まさかそんな常識はずれな……。でも会長のテホルルは謎に包まれた人物でして。わたくしたちなどその姿も知らないわけですから、あるいは……」
受付嬢が言った。
「こちらからは継続的に資産凍結の操作をしているので、そちらからも継続的に凍結解除の操作をしているはずです。テホルルがそちらにいるのならば、彼を止めるしかありません」
鈴木は意を決した。
「やるしかないってわけだ! 行こう、みんな!」
進常が聞く。
「行くってどこへ? この艦広いぜ?」
「とうぜん、司令室に決まってます! 偉そうなやつはこそこそ隠れたりしません!」
「ま、そうかもな」
アマガはやる気のようだった。
「司令室への道は任せてください。もうそんなに遠くありません。これは悪を徹底的に叩くチャンスでもあります」
メリコはイレイザーを引き抜いた。
「アタシたちを騙してこき使ってた会長なんて許さない! トドメはアタシが刺す!」
モルゲニーも意気盛んだった。
「テホルルは宇宙的重罪人じゃ! アンザレクトの名にかけて引き回しに処すのじゃ!」
鈴木は緊張しながらも微笑んだ。
「宇宙大企業の会長ともなると、ずいぶん恨みを買ってるもんだなぁー。とにかく、相手は不思議な、常識外れな能力を持っているらしいし、みんな、油断しちゃだめだぞ!」
一同は威勢よく返事した。
今回も勝たなければ地球文明は滅びる。
やるしかない。
背水の陣が鈴木の身体のどこかにある本質的な塊を鼓舞していた。
ホロモニターの受付嬢に別れを告げて、一同はこの艦の司令室へ向かった。
司令室への距離は確かに短かった。
エレベーターで一階上がって、少し進んだだけだ。
一同は司令室の扉の前に着く。
頑丈そうな金属製の扉は緑色に光っていた。
それはなんとも危険そうに見える輝きだった。
近くには何人もの社員たちがイレイザーを抜いて、手をこまねいている様子だった。
鈴木たちの姿を認めると、社員のひとりが言った。
「内側からバリアを展開されました。イレイザーでは歯が立ちません」
進常が言った。
「確かにそんな感じに見える。こんなときの鈴木くんだよ! 任した!」
「はい! やれる限りをやります! みんな下がって!」
鈴木は一歩前に出て第三の眼に意識を集中した。
叫ぶ。
「対障壁! バリア突破こうせぇぇぇーんっ!」
鈴木の頭が一瞬強く輝き、額から光線が伸びた。
バリア突破光線は容易く障壁を霧散させ、扉をも破壊した。
司令室のなかが露わになる。
部屋のぐるりに配置されたコンソール群のまんなかに、その人影は立っていた。
まるで金属でできたカマキリのような姿だった。
腕が二本、脚が二本で人型だが、人間とはだいぶ違う。
まるで異形だった。
服らしいものは着ておらず、手にも何も持っていなかった。
カマキリは悠然とした態度で口を開く。
「我はテホルル。全銀河を狩場とするテホルル・ペットフーズ会長である」
メリコが息を呑む。
「人間じゃなかったんだ、会長。人型生命体ではあるけど」
アマガも頷く。
「わたくしも初めて知りました。なんか怖い人ですね、やはり」
テホルルが手に何も持っていないのを確認して、鈴木たちは司令室のなかへ踏み込んだ。
進常がテホルルに指を突きつけた。
「往生際が悪いぞ! いい加減諦めて艦の操作をやめろ! おまえの帝国は滅んだんだ!」
テホルルは笑い声のようなものをたてた。
「そうかもしれん。人知れず、法の抜け目を縫って続けられてきた文明絶滅は、このパターンではひとまず終了だ。そうだからこそ、この復讐は成し遂げられねばならんだろう。我々は恐怖の一撃をもって、新たな手段に移行する」
「言い訳がもうわからん。もうやっちゃえよ、鈴木くん」
テホルルの外見にビビり気味だったが、鈴木は勇を奮って言った。
「諦めろテホルル! 猶予をやる、早く艦を止めろ、でなくちゃ撃つ!」
「我を止められるかね、少年。秘匿されてきた会長権限は我の精神とリンクしておる。我は地球落下が阻止できなくなる地点まで艦を誘導し、そのあとテレポートして去る。お前たちは犬死に終わる。我を殺せなければな」
殺し。
殺すのは怖い。
モルゲニーの人型スーツを撃ったときも、
人を殺してしまったかと思って、さんざん後悔した。
しかし、今回もやらなければ地球が滅ぶ。
しかたがないことだ。
意を決しかけたとき、メリコが動いた。
「アタシは迷わない!」
イレイザーの引き金を引く。
光線が命中すると同時にテホルルは黒い霧となった。
霧はすぐ凝集してまたテホルルになる。
「まずは裏切り者への仕置か」
テホルルは目にも留まらぬ素早さで動き、メリコとアマガを殴りとばした。
「ぐぅ!」
「うぐ!」
メリコとアマガは壁に激突して倒れる。
進常が仰天していた。
「ひぃっ!? こいつわたしの予知がぜんぜん利かない! 動きが読めない!」
メリコは苦しげに身体を起こした。
「うぅ、カンパニースーツがあるから死なないけど……」
アマガも動いた。死んでいない。
テホルルは悠々と言った。
「殺しはせん。死ぬのは絶望のときまで待つがよい」
テホルルは突然に素早く身をかわし、なにかを指で弾いた。
それは針を刺そうと忍び寄っていたモルゲニーだった。
「きゅう……」
モルゲニーは壁に当たって気絶した。
テホルルは言う。
「アンザレクトか。地球人と手を組むとは意外だが、しょせん虫ケラよな」
進常の予知は機能しない。
メリコとアマガの銃も無効。
モルゲニーの針は届きもしない。
こちらの手で残っているのは鈴木の光線のみだった。
メリコが言う。
「スズキ、撃って! アナタの力ならきっと!」
そうまで言われては尻込みしていられない。
第三の眼が輝く。
鈴木はテホルルと対峙した。
「テホルル! 降参するならいまのうちだぞ! ぼくの本気はこのマザーシップだって傷つけられるんだ! なめるな!」
「ワハハハハ!」
「超打倒! ナックルこうせぇぇぇーん!」
鈴木のビームがテホルルに命中する。
しかし、テホルルはやはり黒い霧に分散した。
霧は流れて鈴木たちの背後に回り、そこにテホルルが実体化する。
「侮りがたい威力だが、それでも我は殺せん。おまえらに打つ手はないのだ。おまえたちの力は通用しない。なぜなら我もまた超体だからだ」
「ひぃいいっ!」
進常はエビが逃げるように腰から逃げた。
「なにか見つけろ、鈴木くん! とりあえずわたしは足手まといだから逃げとく! 任した!」
「そんなこと言われたって、ぼくだって撃つしかないじゃないですか!」
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