この眼の名前は!

夏派

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四章

21話 4人目

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ヒュドラの街の精鋭に追いかけられていた時、俺はネネに聞いた。

『なんでお前ついてくんだ? アホなのか?」

『……あなたは初対面の人によくそこまで……まぁいいです。ボクがあなたたちについていくのは、あなたたちのパーティに入れて欲しいからです!!」

『『………………は?』』

 俺と2号は同時に疑問を持つ。

『今なんて言った?』

『えぇ、ですからこのパーティに入りたいと』

『『絶対にやめておけ。後悔するぞ』』

 俺と2号は強く言う。

『ちなみにお前、このパーティのどこを気に入ったんだ?』

『それは、とても仲良さそうだったからです』

『お前の目は節穴か?』

『それにボクの大事な目的であったヒュドラ討伐は達成できたし、それもあなたたちの力があったからです。だからこそあなたたちに恩返しもしたいなって思っていたんですよ』

『目的……それってどうゆ』

 俺はその言葉を最後まで言わなかった。あることに気づいたからだ。

 強敵ヒュドラを倒したいのが大事な目的である。それはおそらく、ファンタジーベタの、親か親しい者をヒュドラに殺されたということだろう。その復讐のために彼女は、ヒュドラを倒そうとしていた……? だとしたら悪いことをしたな。

 俺がそう考えている時、彼女は口を開く。

『いやー、あのヒュドラの毒にボクのパンが溶かされまして。えへへ、それでぶち殺してやりたいと思っていたんですよ』

『『…………………………………………Oh』』

 ネネのその言葉に対して、2号もなぜか英語を漏らしてしまう。

 俺と2号は恐る恐る質問する。

『パン? ……親のこと?』
『いいえ』
『友達のこと?』
『いいえ。パン知らないんですか? 食べ物ですよ』
『……マジですか』

 なんてこった。悲劇のストーリーがあるかと思いきや、パンですよ。パン。この白髪は、ファンタジーベタを知らんのか?!

 そんな時、今まで黙っていたエナが笑いながら口を開く。

『あはははは、この子面白いわ! よし採用よ!!』

 その言葉を聞いてネネは顔を明るくする。

『あ、ありがとうございます! エナさん!!』

 その言葉を聞いて俺と2号は顔を暗くする。

『『絶対にやめておけ!!』』

 そんな感じで4人目である。



 回想は終わり、現在。
 
 俺とエナと2号に睨まれているピープルが口を開く。

「ええもういいですよ。私はネネちゃんが好きなのです!! その体をギュッとしたいし、抱っこしたいし、抱きしめたい!!」

 全部同じことじゃねーか。

 ピープルのその言葉が聞こえ、ネネがうわっと体を引いた時、いままで存在を忘れられていた奴が声を張る。

賛成アグリー!!! 俺もそれしたい!!」

 そうそれは、今まで気絶していたフルである。体はビン! とまっすぐ伸ばし立ち上がる。

 なんでお前も英語を普通に使ってんだよ。モブでも世界線くらい意識しやがれ。

「俺もネネちゃんのことが……グッハァ!!」

 その言葉が言い切られる前に、エナの蹴りがフルの顔面に炸裂する。グチャッという音とともに、彼はそのままギルドの端へとぶつかる。

 あーあーあー、アレは骨何本もいったぞ。

 エナがさらに目つきを悪くしてピープルに言う。

「……アンタも今なら見逃すけど、これ以上私の仲間に手を出すなら、ああなるわよ」

 ヒューと2号が口笛を吹く。

 お前やめとけ……今エナを煽るとお前死体になるぞ。

 なんで仲間想いのかけらもないエナがここまでキレているのか、俺には察しがつく。それはエナの家に帰ってきたあの日、ネネがエナに伝えた言葉が原因だ。

『エナさん、エナさん! これからお世話になるのでこれ生活費の足しにしてください』

 そう言ってネネはカバンから風呂敷のようなものに包まれたものを渡す。それを受け取ったエナがみるみるうちに笑顔になり、終いにはネネに抱きつく。

『ネネちゃん!!! あなたは私のずっ友よ!!』

 エナがそんなことを言っていた。天地がひっくり返ってもありえない言葉に、俺は衝撃に打たれ、何をもらったのか恐る恐る見てみる。そこには、

 昔ギルドのオークションにあった、500万ゴルド相当の宝石が置いてあった。

『なっ…………お、お前、こんなもの一体どこで? それにこれをエナに渡す意味分かってんのか?!』

 俺がネネにそういうと彼女は答える。

『これはなんか召喚獣の練習をしていたら、たまたま宝石獣が出現しましてね。それで貰えたんですよ』

『ッッ?? ネネちゃん! アナタ宝石獣も出せるの?!』

 エナが興奮気味に言う。

『えぇ運が良ければ……痛い痛いエナさん抱きつく力強いですよ』

『愛してるわネネちゃん!!! 私の親友ダイヤモンドよ!!』

『お、お前……心の声のダイヤモンドとか言う言葉漏れてるぞ』



 そんなわけでエナが必死なのである。友情ではなく、愛情マネーのためだ。

 しかしそんなエナにビビらないのが、本当の変態である。ちなみに俺はエナにビビるため、本当の変態ではない。

「ふふふ、愛は障壁があるほど盛り上がりますね。私は諦めませんよ!!」

 そう言って、高く飛び上がり、ネネ目掛けて落ちていく。

 チッと言葉を吐いた2号が刀に手を置いていたが、彼がそれを抜くことはなかった。なぜなら、

「あ、あの!! ボクあなたみたいな、しつこい人は嫌いです!!」

 そうネネの本心である。その言葉を聞いたピープルは、

「な、そ、そんな……」

 そう言って、目から涙を流しつつピープルはその場に崩れ落ちた。

 なんだこれ?

 その後騒ぎを聞きつけてやってきた警察に、変態2人を引き渡し、俺たちはひと段落つく。

 そう一応友人のフルも警察に渡したのである!

 ギルドの椅子に座って、4人で団欒していると、受付のお姉さんにエナが呼ばれる。俺たちは受付に向かうと、

「エナさん、お待たせしました。ヒュドラ討伐金の1000万ゴルド分の小切手です」

 そう言って切手を机の上に置く。それを見たエナはプルプルと震え、

「やったわ!!! 大金よ! 大金!」

「おお!! おめでとうございますエナさん!!」

「なぁ、その金で服を買ってくれよエナ!」

「俺もそろそろ服が欲しい。もうすぐ冬だからパンイチじゃきつい」

 俺と2号が期待を持ちエナにそう尋ねる。しかし彼女は、ニコーと笑う。

「ダメよ。このクエストの時にこのお金は私のものって約束したもんね?」

「「はぁ? テメー勝手なこと言ってんじゃ」」

 俺と2号の言葉は途中で切れる。それはヒュドラ討伐へ向けて歩き出して、2日目の朝。

『あーもー、分かったわよ。あの件は水に流してあげるわ』

『まじですか? エナ様! ありがたき』

『……そのかわりに、今回の報酬は全部私のものになるけどいいわね?』

『『あ、別にそれは最初から分かっていたわ』』

 言っちゃってました。

 その言葉を思い出し、

「てめーのせいじゃねーか!! クソ1号!!」
「は? お前だって納得してたじゃねーかクソ変態!!」

 俺と2号はいつも通りその場で取っ組み合いを始める。そんな時、受付のお姉さんがおずおずと言う。

「あ、あの、エナさん……とても言いにくいんですが、その……ヒュドラの街の関係者が、討伐金は我が街の復興資金にさせてもらうとの連絡を受けまして……この小切手は、ヒュドラの街に送金することになりました」

「「「…………………………は???」」」

「ええ簡単に申しますと、エナさんのところには今回、1ゴルドも入りまs」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 エナの悲痛な叫び声がギルド中を覆った。

「だ、大丈夫ですよエナさん!! ボクの宝石は500万ゴルドの値打ちですし」

 ネネがエナを落ち着かせようと言葉をかける。しかし、

「さ、さらに! さらに……復興資金が1500万ゴルドらしいのですね。で、ですからそのお金も……」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 先程より大きく悲しい叫び声が、ギルドにこだまする。

 受付のお姉さんの言葉を冷静に聞いていたパンイチ2人組は、エナに声をかける。

「ってことだ」
「つまりな」

「「仲良くお金稼ぎに行こうぜ、ぺたんこ[貧乳]」」

 俺たちのゲス顔を見て、軽くネネが体を引いていた。

 こうした、ヒュドラ討伐→可愛い女の子パーティ参戦→討伐金没収という流れと、2週間の間があり、俺とエナの交際云々の噂は、『都合よく』消えた。

 だってこれシリアスじゃないもん。ギャグだもん。

 

 
 J日後 ギルド

「これなんてどうだ? 報酬も良いし、このモンスターから獲れる毛は防寒性もあるぞ」

 2号がクエスト掲示板を見てそう言う。

「へー、これは良さそうですね。というかエナさん、そろそろ元気出してくださいよ」

「まだエナはショック受けてるのか。ザマァねーな」

 2号の言葉を気にせず俺は質問する。

「ちなみに、毛って言ってるけどヒツジ狩りか?」

 俺の質問にネネは答える。

「? いいえ。海に行きますよ」

「……は?」

 

 次回 水着回!!!!
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