The Outsider ~規矩行い尽くすべからず~

藤原丹後

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第1章 ダンジョン

第50話 悪徳を非難するより美徳を教える方がよい

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 昼食を終え車に戻る。
「マヤ。座席をかえなくても問題ない? 図書館まで10分程かかるから誰かとかわってもらう?」

「10分ぐらいだったら大丈夫です」

「早く到着できる狭い裏道を通って行くけれど、裏道ってのは誰も通りたがらない色々な理由があるから空いている。そのせいで途中、車を急制動ブレーキさせるかもしれない。食事後でお腹が苦しかったり眠気に襲われるかも知れないけれど、シートベルトは着実に装着してある程度の緊張感は持続しておいてね」
 車に乗り込んでから、全員がきちんとシートベルトを装着したか確認しながら念を押す。

 旧い家屋が並ぶ道を車は文字通り縫うように進んでいく。道の両脇には、経年劣化したコンクリートブロック壁や文字の読み難くなった赤錆びた看板等のワビしい光景が続く、マヤ達はそれを食い入るように見つめている。見通しの悪い住宅地を抜け工業地区に入り、川沿いの2車線直線道路に出ると、それまで閉塞的だった景色が一変し、急に視界が広がる。遠くに中環の高架道路が見えてきた。

「もしかして以前但馬さんがオッシャっていた『人が通れない道路』というのは、あの中空に架かった橋のことですか? 」

 俺はマヤの記憶力の良さに驚きつつ肯定する。

「あの橋はどこまで続いているのでしょう? どちら側を見ても終わりがないようです」

「マヤの言う『どこまで』というのが高架の話だったら市街地を出るまで、道の終わりという意味であれば、日本の主要4島の内3島を網羅している」

「道路がきちんと舗装されているのは市街地だけよね? これだけ状態の良い道路を維持できているなんて、ここの領主はなかなか優秀なようね」

 コンピューター付きブルドーザーと呼ばれた人だからなぁ……

「優秀なのはここの領主ではなくて半世紀前の宰相だよ。その人が歳入の少ない地方自治体でも道路が維持できるよう議員時代に財源を確保させた。交通量の少ない過疎地は酷道と揶揄されるぐらい管理されていないが、主要道路の整備は有り余る財源からきちんと舗装がなされている。国内全域がね」

「嘘でしょ! 」
 リンの目が見開かれる。その驚愕は、貴族社会で培ったはずの常識を根底から揺るがされたようだった。

「別に信じてくれなくていいよ」

「但馬さん。冗談ではなく本当に国内全域がこの状態の道路を維持しているのですか? 」

「こっちの世界の他国の人も驚くけれど、道路の整備にしか使えない税金* を15年前まで徴収していたから他の事には使えない。だから無駄に道路整備に金を捨て続けていた」

「あんたねぇ日本の自慢しかできないの? 」

「今のは自慢ではなくて、自嘲のつもりだったんだが? 」

 また空気が悪くなってきた。何度目だろう、この、空気感。リンは窓の外に視線を逸らしたまま口を開こうとしない。
 脇道を通ってきた車が中環の交差点に進入する。

「えっ? 」
「何、ここ? 」
「怖い…… 」

 3者3様の反応。
 中央の本線と左右の側道。これまで通ってきた道路より数倍広い本線路面道。
 上方の高速道路6車線を含めると16車線から18車線に及ぶ、日本で1番広い道路。
 先程までは明るかった周囲が突然薄暗くなる。
 スピーカーから流れる天使の声が時折《トキオリ》搔き消される。頭上から聞こえる異世界人にとっては得体の知れない大型車の出す振動音。
 側面からは信号待ちをしている大型トレーラーから小型車まで、多種多様な車がこちらをヘッドライトで照らしている。
 人というものの矮小《ワイショウ》さを思い知らすことだけを目的に、これでもかと揃えられた圧倒的な巨大構造物・人工物・騒音に包まれながら車はゆっくりと走り続ける。
 何の予兆も無く異質な空間に連れこまれた少女達の緊張感。スピーカーからはメゾソプラノのアリアが車中に漂う。
 もしかしたら、今、この場が、彼女たちにとって異世界へやって来たのだと実感させた初体験となったのかもしれない。

 車は交差点を通りすぎ東に進む。再び周囲は明るさを取り戻す。少女達の緊張感が解けていく。薄暗い交差点で止めてていた息を、リンが吐き出しているのが聞こえた。

「今の禍々マガマガしい場所は何? 」

 ……リンの地声を初めて聞いた。元貴族令嬢と言われてもこの声だったら納得できる。これまでの挑発的な声色が鳴りを潜め、知性を帯びた深い声。

「太陽の光が遮られ、聞いたことのない音が絶えることなく響いたからそう感じただけで、交通量の少ない深夜にあの道を車で素っ飛ばせば真逆の感想を得たかもしれない。巨大構造物に関しては、日本に滞在してあちらこちらへと赴くと、これからも多種多様なものに遭遇することができるよ」

「どうやら日本を見くびっていたようね。リンでいいわ」
 それは、それまでの彼女の態度からすれば、明らかに意識の変化を伴う歩み寄りだった。

「えっ? 」

「私への呼びかけよ。ただし、あたしに話しかけるときのあんたの声、マヤやロミナと同じ声にして」

「君が今のように知性を帯びた声で話してくれるのならば、そうすることは難しくない。自然にそうなっていたと思うよ」

 ……女の集団と話すときに、男相手でも物怖じしない女って必ず俺の声に文句を言ってくる。「他の女と同じ声で話しかけてこい」と。女が喜ぶ俺の声を聞くと男は皆ブチ切れるぐらいに嫌うから、男がこのパーティーに加入する目は完全に失せてしまった。

「どれだけ行っても果ての見えない大きな街に隣接しているのに、見える範囲の山々は何処も樹木が生い茂っております。日本では樹木を必要としないのでしょうか?」
 ロミナは窓の外に広がる山並みを指さした。運転中でなければ美しい指を見れたのに……新緑を迎えようとする今の時期。森の緑は、彼女の知る大都市近郊の景観とは異なるようだ。

「ロミナの世界では領主が森林官を雇って、樹木の管理をユダねている段階? 」

「森林官という定まった職はありませんが、領主ごとの判断で様々な対応が成されております」

「日本の山は400年ぐらい前に一時的な減少があったけれど、前近代において森林面積は一貫して減っていない」

「400年前には何か大きな災害が起こったのでしょうか? 」

「内乱が長く続いた後の安定期に、稲作面積を増やしたのと、都市の建設や築城に大量の木が必要になったから一時的に減少した。その頃の絵図をみると村や都市の近郊は芝山・草山と描かれているけれど、同じ地区の100年・200年後の絵図は木々が描かれるようになり、芝山・草山という文字は消えている」

「稲作ですか。そういえば以前書物に書かれておりました。稲作は連作障害が起こり難いそうですね」
 ロミナは知識の点と点を繋げようとしたのか、俺の話を補足してくれた。

「そっちは自給肥料が中心で、金肥、え~と、お金を出して小魚や植物油を採った後の残りカスを……あ~貨幣経済が未達で商品作物もないのか……」
 異世界との知識のズレに、会話が一時的にストップする。

「その『金肥』って、あたしが読みたいと言っている本に書かれているのかしら? 」

「書かれている本もあるけれど、そっちの世界では日本人が中途半端な農業知識であれこれとやらかしているんだろ? 基礎知識を固めずにいきなりこっちの農法に飛びつくと、そっちの日本人と同じ結末になるだけだと思うから今日は止めた方がいい」

「そうした御本をわたくしも読むことは可能でしょうか? 」

「1冊買うのも、複数冊買うのも手間はかわらない。マヤも三圃制の本だけでなくそういう基礎知識の本って必要? 」

「はい。買って頂けますか?」

「わかった。3冊買うから1人ずつ持って帰って」

「先程の樹木の話は花見の話と同じく但馬さんの考えですか?」

「違う。ドイツという国のJoachimヨアヒム Radkauラートカウ という人が、200年前の自国で制定された森林官と日本の森林政策を比較した本や、熊沢蕃山・山鹿素行が400年前に残した著述から、飯田恭という教授が指摘した話** 。欧州と呼ばれる国々でも森林減少が問題になり、領主が森林官という役職を設けたのだけれど、ドイツでの植樹は領主主導で農民は賦役されただけなのに対して、日本では樹木の管理を農民に丸投げした。樹木を売った代金の半分を領主が税として徴収し残りは村の収入になった。だから日本の農民は失われた森林資源の回復に真面目に取り組んだから、日本では森林面積が減少していくという、同時代の諸外国と同じ状況にならなかった」

「農民に丸投げって、農民なんかに任せても植樹なんてできないでしょ? 」
 リンは鼻で笑った。彼女の貴族としての階級意識が露わになる。

「会田雄次という人がイギリスという国の捕虜になったとき『イギリスの貴族と労働者は簡単に判別できる。貴族は身体を鍛え頭脳も明晰なのに対して、労働者は単純計算もできない愚鈍な連中***』という趣旨のことを書いているが、君たちの国の貴族と農民も似たようなもの? 」

「愚かな貴族もいるけれど、あんたの言っていることはオオムね正しいわね」

「またリンを怒らせる話になるな。日本の農民の教養は多分同時代のどこの国よりも高い。欧州での識字率とは自分の名前が書けるか否かだけで決めている場合もあるけれど、日本の識字率は文字通り字の読み書きができるか否か。それでも前近代世界のどこよりも高い。ただ、全ての日本人が高い教養を誇っているわけではなくて、欧米との交流がはじまった頃、欧米人から日本には2種類の人種がいると見做されていた。文明人としての武士と、粗野で野卑な非文明人がいるとね」

「つまり、農民は粗野でも野卑でも非文明人でもなかったということでしょうか? 」
 ロミナは俺の言葉の裏側を慎重に読み取ろうとしているな。

「状況がわからないから何とも。欧米人と接触する武士ではない人たちって労務者だろうから、行儀よくしていてもしょうがないしね。日本では仕事に溢れた学者は農閑期の冬季に東北の村々を廻って行けば、食事と宿舎は無料で提供されたし、村人が学者との知恵比べで学者の優秀性を認めたら小遣い銭が貰えた。教養のある農民の割合はわからないし、マヤたちの世界では準貴族のような身分になるかも知れないけれど、教養のある農民が一定数いたことは間違いない。岩下哲典・渡辺尚志**** という人たちが、隣村との境界争いを地元で解決できない場合、農民は数十日をかけて首都まで出向き、首都の役所に訴え出るということがあったときの事例を挙げている。中央の役人は『遠くの地での境界争いの実相はわからない。だから現地の地形を木型で作れ』と命令した。400年前の木型が現代まで残っているけれど、山岳地域の稜線も含め現在の測量精度と大きく違わない木型を作成しているし、他にも、河川の氾濫を防ぐための方策も農民たちが測量して領主に進上していることを指摘している。君たちの世界と400年前の日本。がちがちの身分制度がどちらにもあったことは共通していると思う。でも、日本の身分制度には色々と抜け穴があって、少しだけ風通しがあった。優秀な農民の子供は武士、君たちの世界で言う貴族階級に養子として迎えられることがあったし、領主の境界争いでラチが明かない場合、農民は首都まで出向き領主の頭越しに直接首都の司法機関に訴えることもできた。当時の裁判記録が残っているけれど『領地の境界争いで、その地の農民に直接聞かずに何が正当か、誰にわかるのか』という言葉が残っている。君たちの世界。領主間の争いで、王都の司法機関がその地に住む農民を呼び出して意見を直接聞こうとしたりするの? 」

「あんたの言う優秀な日本人像と、あたしたちが事実として知っている愚かな日本人たち。真実はどちらなのかしら? 」
 挑発的な言動を改める気は全くないようだ。

「マヤには以前言ったが、まともな日本人は沈黙しているからそっちの世界では話題にならず、まともでない日本人が異世界だからとはっちゃけた結果、そういうまともでない日本人ばかりが話柄に上ることになったんじゃないの。まぁそっちでミミズと呼ばれている日本人がまともなのかと聞かれても判断に困るが」

「そう! それよ! 販売している土はこれから調べるけれど、どうしてマッシュルームの栽培なんてことをその日本人ははじめたのかしら? 」

「推測になるけれど、その日本人がいる地域って頻繁に雷が発生しているのでは? 」

「多いという話は聞いたことがあるわね。何故? 」

「日本では『雷の多い年は豊作になる』と言われている。植物の生育に必要な栄養素である窒素が雷で生成されて地上に降り注ぐかららしい。ただこの話、科学的に確定した論ではない。一方で、雷がマッシュルーム等の菌類成長を促進させることは実験で明らかになっている。だから、土とマッシュルームで雷を連想した」

「ちょっと待ってよ! じゃぁあんたの言う通りにしても雷が鳴らないと意味がないわけ? 」
 リンの焦燥が口調に現れる。彼女の関心が、抽象的な社会論から現実的な「農業」へと戻った。

「そんな天候頼りのことをさせたりはしないよ。そうしなくても農業に必要な3栄要素を揃えられる方法を探しに図書館へ向かっているのだから。その日本人が『土を食べる』というのは土を舐めているだけで飲み込んではいないと思う」

「そうなんですか? 家令さんも『土を食べる』とオッシャっていましたよ」

「宮沢賢治という人は農民に肥料を配るさい、農地毎に土を舐めて肥料の配分を決めたと言われている。まぁ伝説の多い人なので、どこまでが本当かはわからないけれど『土を食べる』というのは、土中に含まれる栄養素を口に含んで確認していたのだと思う」

「但馬さんも土を舐めればわかるのでしょうか? 」

「できないし、できるようになろうとも思わない。絶対にやらないよ。それと、さっきのリンの問い掛けだけれど、百年前の日本の村が丸ごと前近代の世界に転移しても、自分たちで土地を測量し村を存続させることができたと思う。一方で現代の日本人が暮らす村が丸ごと前近代の世界に転移したら、現在の日本人はその世界の人々に援助を求めなければ自分たちだけで生きていくことは多分できない」

「はんっ! どうせなら百年前の優秀な日本人とやらとお会いしたかったわ」

「今の日本人が駄目なのは認めるよ」

「えっ? こんな大きな街や道路を造ったのは今の日本人ですよね? 」

「そういう即物的な話ではなくて、人間としての格や品位かな。戦前……80年前の大きな戦争でボロ負けした後、日本社会は大きな変革を強いられた。戦前の教育を受けた商会経営者は今から百年後でも語り継がれるだろうけれど、戦後の教育を受けた商会経営者で死後にも語り継がれる人がどの程度いるのか、少なくとも俺は、今の上手に小銭を稼げただけの人たちに魅力を感じない」

「そんなに今の日本人は駄目なのですか? 」

「近々日本で万国博覧会というのが開催されるが、はじまる前から成功を危ぶまれている。多分目標の入場者数にはとどかないと思う。半世紀前の万国博覧会でも開催前から成功を危ぶまれた***** けれど、当時は石坂泰三氏やその下に土光敏夫氏がいたから、長く成功を後世に語り継がれる成功へと導いた。土光敏夫氏は40年前の万博も成功させている」

「本当に今の日本人は但馬様のオッシャっる格や品位が足りていないのですか? 」

「今までの話とバランスをとるわけじゃないけれど、ロミナが不思議がった木の話。同じことを考えた人がいる」

「何かやったの? そいつ」

「都市近郊の山に木があるはずがないと最初に結論を用意して、日本は山だらけなのに何故か花崗岩の採石所として広く知られている生駒山や六甲山をわざわざ調査したそうだ。調査なんかしなくても生駒や六甲が荒廃しているのは周知の事実なのに。次に、300年前の日本各地を旅行してスケッチした絵は幾らでもあるのに、何故か版画といって木の板を削って同じものを大量に刷ることを目的にした絵を取り上げ、その絵を描いた人は現地を見て描いていない想像画なのに、その一手間かかる絵には山に木が描かれていないから自説の根拠に成りえるとしている。前近代の絵百点をサンプルに、その大半が禿山だからというのならわかるが、何故たった1枚の想像画が自説の根拠に成りえると考えたのかさっぱりわからない。他にも自説の根拠として挙げた参考図書には、特定箇所の領主が暴走して森林伐採したことが書かれているけれど、同書には大都市近郊の山に樹木が生い茂っていた事例も挙げているのに自説に都合の悪い記述には一切触れない。参考図書の摘まみ食いなんて、まともな査読をする出版社だったら相手にしないけれど、事実なんかどうでもいいから売れればいいという出版社もあって、マスメディアも視聴率稼ぎに新説として大々的に取り上げる。そのせいで日本人の一定数はこの嘘を信じている」

「どうして、そんなに簡単に嘘を信じちゃうのよ」
 リンは苛立ちを隠さず、シートに拳を軽く打ちつけた。

「450年ぐらい前。織田信長という人は欧州人から機械式時計を贈呈されたのだが、当時の日本人には機械式時計の原理がわからなかった。だから信長は『壊れたら自分たちで直せない物を受け取っても維持できない』と言って突き返したそうだ。でも今の日本人は、この車にせよ、部屋の灯りにせよ、自分たちには理解できない物を当然のように受け入れている。正しいのか間違っているのかわからなくても取り敢えず受け入れるということに慣れてしまったからね」

「但馬さんはそれで良いとお考えですか? 」

「良い悪いの話ではなくて一般的な風潮だからどうしようもない。欧米人は2・30年ぐらい前からマスメディアを信じなくなってきた。日本の民衆は先進国の中で突出してマスメディアの報道を正しいと信じていたけれど、最近は欧米と同じくマスメディアの報道に懐疑的になってきている。マスメディアが取るに足らない理由で個人を民衆の敵だと指名しても、今までと違って個々人は考える根拠をマスメディア外に求めるようになってきた。日本のマスメディアが根本的に考え方を改めずに、何が正しいかではなく、誰がそれをしたかで善悪を論じ、裏金と断罪し悪徳政治家であると決めつけるレッテルを貼ったり、単なる事務的間違いで記載されていなかっただけだから問題にする必要はないと、同じことをしたのに自分たちの敵か味方かで真逆のことを言い続けても、愚かな民衆は自分たちの言葉を簡単に信じるのだと決めつけて胡坐アグラをかいていたら、日本の民衆も欧米の民衆と同じようにマスメディアを信じなくなるだろう。こういうことには時間がかかるし、何かの契機がなければ何も変わらない。長い目で見ていくよ」

「格や品位を取り戻しつつあるから、今の日本人が変わっていくというのが但馬様の見立てですか? 」

「いや、全くそんなことは思っていない。昔は権力を握る者が情報を統制した。直近100年程はマスメディアが情報を統制した。バカみたいな話に聞こえるが、林という宰相は、マスメディアが気にいらないからという理由で宰相の座から引きずり降ろされた。今は誰もが情報を発信できるようになり、旧態依然としたマスメディアの権力基盤が崩れ始める端境期ハザカイキに当たる。マスメディアは素人の情報発信の危険性を訴えているけれど、欧米の例でも明らかなように、好き勝手に情報を統制し民衆の思考を支配しようとしていた虚構が白日の下に晒されつつあるのに、今更時間は戻せない。これまでは皆マスメディアが正しいという大前提を前にして、不審を感じても沈黙していた。その大前提に疑問をもつことで周囲から変人扱いされることが怖くてね。マヤの前で以前使って見せた写真を撮る道具。俺の家の廊下に掛かっていた絵が写真という物なんだけれど、あの道具を使えば顔も名前も知らない不特定の相手に自分の考えを知らせることもできる。今までは沈黙していた民衆があの道具を手にすることで、ヨウヤく疑問を口にすることができるようになった」

「これからの日本はどのように変化していくと但馬さんはお考えなのでしょう? 」

「……今の政権与党が国民の信を完全に裏切り、国民が政治を見限れば、世界に称賛される日本人の規範意識は失われると思う。長々と話した結論としてはつまらないことになったが、こっちの世界にも君たちの世界とは方向性が違う問題があるし、今の日本にも問題はたくさんある」

 到着前の数分間。誰も話そうとせず。スピーカーから天使の歌声が流れるだけだった。
 3人の少女はそれぞれ、俺の抽象的な話と、目の前に広がる巨大な文明という現実。各々の思考経路で無理矢理纏めようとしている風に見えた。

 図書館の駐車場に車を入れる前に路駐して飲み物を買いに行く。館内で缶は飲めるところが限られているがペットボトルは問題ない。彼女たちの好き嫌いがわからないので水を3本買って車にもどる。

 平面駐車場が空いていたのでそこに車をとめて俺たち4人は図書館に入って行った。






_________________________________________________________
* 道路特定財源制度

** 放送大学『日本経済の比較史(’24) 』「第6回 環境と資源管理」飯田恭(慶應義塾大学教授)
※書籍 谷本雅之『日本経済の比較史』放送大学教育振興会 2024
 ISBN 978-4-595-32475-8

*** 会田雄次『アーロン収容所:西欧ヒューマニズムの限界』中公新書 1962

**** NHK 『英雄たちの選択』「実録 山里の境界裁判 ~発見!江戸長期政権の秘密~」2024

***** 城山三郎『もう、きみには頼まない:石坂泰三の世界』毎日新聞社 1995
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