私だってあなたを愛するつもりはありません、宰相殿

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14. バル×ビビ②

 セバスが作るカクテルが美味し過ぎて、隣に座ったバルカスが男前過ぎて、ビビアンは飲み過ぎた。契約破棄の会がお開きになってから、とりあえずバルカスにハグをせがむ。
「セバスちゃあん……今日泊まってもいい?」
「お好きになさいませ。ジェフ様には朝にお伝えしておきましょう。というか、半年契約ですし、専用のお部屋を用意しても良いんじゃないですかね?」
 最後の辺りはバルカスの顔を見て確認する老執事に、ビビアンを負ぶったバルカスが頷く。
「俺の部屋の近くにはしないでくれよ」
「と、言っていますが」
「隣がいい~!」
 酔っぱらいながらも自己主張はハッキリする様子にセバスが笑う。
「部屋割りは相談しておきます。後でジェフ様が怒られると厄介ですからね」
「頼むぞ」
「今日はバルカスさんの部屋の三つ奥の部屋にしましょう。先日寝具を入れ替えたばかりなので気持ちがいい」

 酒臭い身体を背負いなおして部屋を出る。
 ビビアンが栗色の長い髪を片側によけて、男のうなじにスリスリと顔をこすり付けた。
「やめろ」
「んん……バルカスの匂いがするぅ……」
「こそばい!」
 落としてやろうかと意地悪を言う男にしがみつき、首を伸ばして酔っぱらいの舌が耳を舐める。
「ビビアン!」
「ぐふふ」
 どんなに嫌がらせしたって、バルカスがビビアンを落っことすわけはない。ビビアンは全身で大好きな背中を抱きしめる。熱い吐息と舌がバルカスの耳を舐めて撫で、口に入れて過剰に音を立てながら初めての耳を堪能した。
「耳、苦いけど可愛いね」
「可愛い訳があるか」
「全部、可愛いから……耳も~、ほっぺも~、睫毛もぜーんぶ!」
「あっそ」

 侯爵家で割り当てられている自室を過ぎ、背中に乗せたビビアンに言って三つ奥の客室の電気を付けさせた。可愛らしい女性用の客室は、ダブルベッドに応接セット、衣裳棚に大きな花瓶と明るい色の花が生けられている。
「どこに降ろす? バスルーム? でもシャワーはちょっと酔ってるから危ないか」
「頭、洗って?」
 頭の後ろでねだる声を完全無視し、ソファの上に降ろしてやる。
「あー!! いや、いや、まだ降りたくない!!」
「ずっと負ぶる意味がない」
 バタバタと暴れてしがみつくので面倒くさくなり、そのままひっくり返った格好でソファに寝転がってやった。
「ぐえ」
「重たいだろ。はは」
「ん~、でも重たいのも可愛い」
「はいはい。ビビは『可愛い』が本当に好きだな」
「そんなのみんな好きでしょう。あ、バルたん、白髪がある! 抜いてあげる」
「いた……抜くなよ、勝手に」
「この白髪、貰っていい?」
「絶対だめ」
 パッと白髪を摘まむ手を掴んで、白髪の取り合いになる。結局白髪は千切れてちりちりの毛になった。
「ふふふ。変な毛になった」
「まさか可愛いとか言うなよ」
「アソコの毛みたい」
「ビビ!」
「ねぇ、頭洗ってよ」
「脱ぐな!!」
 前ボタンを外し始めた女にギョッとしてバルカスは立ち上がろうとしたが、ビビアンがサッと脚を動かし、両の太ももで首を挟む。
「離せよ」
 バルカスは両手で顔を覆う。
「ん~」
 あっという間にスリップ姿になった赤毛はにんまり笑って男の髪を梳く。

「選択肢をあげます」
 バルカスは大して興味は無かったが、ひとまず無言で先を促した。
「頭を洗うか、洗われるか、どっちが良いですか?」
「ん? 俺が洗って貰えるってこと?」
「そう! 好きな方を選ばせてあげる」
「選ばないという選た」
「その選択肢はありません」
「まぁ、頭くらいなら良いか。じゃあ洗って貰おうか。ビビはそれ以上、脱ぐなよ」
「バルカスは脱いでも良いよ?」
「脱がない!」

 ちぇ、とため息をついて、ビビアンはヨロヨロと誘って客室のバスルームに向かう。
「じゃあ、そのバスタブに入って、頭をどうぞ」
 金の猫足が付いた白いバスタブにバルカスがルームシューズと上のシャツだけ脱いで入った。端に置いた首から頭をあお向けて、シャワーを捻ったビビアンを見る。
「シャワー屋さんにようこそ!!」
 言いながら、頭の生え際に手を添えて、酔っぱらいとは思えぬ優しい手つきで髪を濡らし始める。意外に普通じゃないか。バルカスは安心して、細かに飛んでくる飛沫から目を閉じる。
 濡らして、シャンプーをべっとべとに出してモコモコに泡立て始めた。
「わぁ。犬みたい。髪が長いから洗うのめんどくさいね」
「切るなって言ったの、誰だ」
「私」
 髪が短いバルカスは、男ぶりが上がってとんでもないことになる。だからその昔、ビビアンはバルカスに髪を切るなと命じた。忠実で、可愛い男だ。

 泡が飛んで、ビビアンの腕や顔にポンポンくっ付く。
 薄目を開いたバルカスが、腕を伸ばしてその泡を取ってやる。
「ながしまーす。あ~疲れたね?」
「中腰は疲れる」
 最後に適当になるのがビビアンである。物凄く適当にシャワーをぶっかけて、結局バルカスは上半身がビショビショになった。ビビアンは笑いながら嫌がるバルカスに湯をかける。直ぐにノズルを奪われて頭からかけられた。
「や~~~~~~ん」
「もういい、洗ってやる」
 本当? と嬉しそうな顔で言って、ビビアンはバスタブの中、つまりバルカスの脚の間に向き合ってお座りする。バスタブの中で湯をかけ、結局ふたりともすっかり濡れて頭を洗った。

「はい、おしまい」

 赤毛を洗い終わると、二人は見つめ合ってゆっくり顔を近づける。
 大きな手が細いうなじを掴み、引き寄せると深く長く、貪り合う。
 シャワーの湯気の中で目を閉じて、ビビアンの口の端から涎がつたい、バルカスが舐める。
「ねぇ、気持ち悪いから、脱いでも良い?」
「………ビビが脱いだら、俺も脱ぐけど、良い?」
「本当?」
 目を丸くする。脱いでって頼んでも、脱いでくれた試しはなかった。
「本当」
「え……じゃあ、脱ぐ……」
 二人は時々口づけしあって、湯気の中でとうとう裸になる。
 かわるがわる石鹸を手に取って、キスしながらお互いの身体を洗った。
「バルカス……んん……」
 全身に手を滑らせて洗った後で、男は丸い胸を何度も洗う…撫でる。時折思い出したように先を弾いて摘まんだ。
 ビビアンもバルカスの大きな身体は洗いきれないものの、引き締まった胸板と腹筋をうっとりと洗って撫でる。自分と同じように胸をかりかり弾いてやると、くすぐったそうにして意外に可愛い反応だった。
「かわいい」
「やめろ」
 口で口を塞がれて肩を揺らして笑っていると、ぬるぬるした手が伸びて脚の間の粒を撫でる。
「……ぁ」

 器用な親指が剥かれた粒を優しく丸く静かに撫で続ける。
 舌を絡ませながら広がり始める快楽に脚の間を見ると、あんまり見ないようにしていたバルカスの陰茎が最初よりもずっと大きくなっていることに気が付いた。
 泡の付いた手でそろそろと触ってみる。触れば男がイイ、というのは閨教育で知っていた。泡立った手で握ると、小さな声で『動かして』と頼まれる。
 自分が気持ちよくしてもらっているのと同じように男にしてあげるのが嬉しくて、ビビアンはぬるぬると滑りの良い手で一生懸命動かした。どうすればイイのかわからなくて、じっと顔をみるけれど、バルカスの指が動くたびにどんどん甘い痺れが大きくなってくるから自分の表情が保てなくなる。
「あ♡ あ、あ、あっ♡」
 握る手に力が入らなくなると、バルカスが耳元で『もっとしっかり』と囁いて、上から強く手のひらで握って自分で動かしてくる。
「いた、く、ないの? ん、ん、あ、も」
「痛くない。気持ちいい」
 きもちいい、と言われて身体の奥がきゅんとする。
「すごい、気持ちいいと気持ちいいね?」
 少し笑って、またバルカスが舌を伸ばして顔を近づけるから、ビビアンも応える。

 バスルームの中にはくちゅくちゅくちゅくちゅお互いの快楽の音が響きわたるが、シャワーの音が程よくかき消してくれるし、きっと誰にも聞こえない。
 バルカスの指はどこまでも優しく追い立てる。
「あ~~~~~~~………」
 器用に自分自身も追い立てて、二人は仲良く同時に達する。
「気持ちよかった?」
「うん」
「今日はこれで終わり」
「……うん」
 ちょっと淋しそうな顔をするビビアンの頬を撫でて、バルカスが腕を伸ばしてくれるから、ビビアンは泡だらけの身体で絡まり付いて、それからバルカスが怒り出すまで延々とキスをねだる。
「なんで怒るのよ」
「我慢できなくなる。もう終わり! 明日から部屋は用意してもらえるだろうけど、あんまり泊まるなよ」
「わかってる」
 拗ねるビビアンに名残惜し気にキスをして、バスタブから出た男がバスローブを着て赤毛をタオルで包んだ。
「頭を乾かしましょう、お姫様」

 ひとしきりお喋りしながら髪を乾かし、最後に頬へとキスをしてバルカスは部屋を出る。
 ビビアンは淋しくて嬉しくて、少しだけ涙をこぼして眠りについた。
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