53 / 69
52. 番外編・ジェフ
しおりを挟む
「オズワルド、離婚を進めろ」
義理の父親であるブランドンのその言葉を聞いた時、ジェフは政治家になって以来最も腹に力が入らない『え』を発した。
ちょっと待ってくれ。
私の話も聞いてくれ。
いやそもそも、俺の結婚なんだが。
とか色々言ってみたが、喜色満面のバティークが『今日の所はお帰り下さい』を連発し、眼鏡と二人がかりで引きずり出されて『外面悪くジタバタされるおつもりなら、こちらとしても弁護士をたてて泥沼離婚にして差し上げますが』と脅された。
「遅きに失した、の見本ですね」
とニヤニヤする部下と、
「枯れきっていた自分を反省するのねぇ」
と当てつけのようにバルカスに引っ付いて自分を見るビビアンの白けた視線に晒され、大きな嘆息と共に病院から執政棟へと戻る。
机の上は慌ただしく大使館へ出かけたまま。
もはや想像するだけで家人たちの反応が面倒くさすぎて、屋敷に帰るのも嫌になる。セバスは落ち込み、テルミアは激怒するだろう。そして言い返す言葉もなかった。
「ん゛~……」
ドカンと椅子に腰かけて目を瞑りじっとする。
だが悲しいかな、自分はそれだけにかかりきりになれる立場ではない。
ぱちんぱちんと手指を鳴らした後、仕事の頭に切り替えてペンを取った。
****
「接近禁止令!?」
バカでかい公爵邸の鉄製の正門前で素っ頓狂な声を上げ、ホクホク顔のバティークから渡された書面を受け取る。
「離婚が成立するまで、こちらが解除しない限りはロティに接近することを禁じます。これは正式な裁判所からの書面です。離婚に異議申立てをされているとか? そのような姿勢で万が一ロティをキズモノにされたり、手を出して子どもなど作られたら困りますから」
「そんなことはしない!」
「可能性としての話ですよ」
「バティーク……シャルロットと話をさせてくれ。彼女は本当に離婚に同意しているのか? 大使館に連れ去られる前日の朝食ですれ違って以来、まともに話をしていない」
「知りませんよ、そんなの。ロティがどんな気持ちかなんて、あなたは夫だったんですよ? 契約婚の間に何か月もあったのですから、いくらでも大事な話は出来たでしょうに」
ぐうの音も出ない。
あっさりとバティークが戻った後、忙しい合間を縫って来た宰相は黒いコートのポケットに手を入れてじっと遠くの屋敷を見つめる。正門からのアプローチが長すぎて、屋敷の中の様子など何一つわからない。
結局シャルロットに渡すつもりで持って来た花と菓子は車から降ろすこともなく、屋敷に戻った。
「花のひとつも渡せないままお帰りですか」
半目の執事が冷風を吹かせて主人を迎える。
「テルミアは寝込んでおります」
「知らん。お前が慰めてやれ」
ネクタイを引き抜き、具体的な接近距離の記された馬鹿馬鹿しい接近禁止命令書をポイと見せてやる。
「なっ! 十メートルも!? 遠すぎるじゃないですか!! 話しかけてもダメなんて!」
「おん」
「あっ、坊ちゃま、お食事は?」
気がついて慌てる老執事だが、ワイシャツのボタンを外していく主人は振り向きもしない。
「……いらん」
肩を落として寝室に向かい、酒を持ってこい! と大声で言いながらシャワーを浴びに向かう。
セバスは見たことのない様子の主人に苦笑して、夫婦の寝室になるはずだった部屋のローテーブルに簡単な食事を用意させる。
「さぁさぁ、お酒ばかりを召し上がられては元気も出ません。しっかり食べて腹に力を入れて、そのように情けない負け犬面はお止めになって坊ちゃまらしく計画をお立てください?」
「お前、傷口に塩を塗り込んでくるじゃないか」
「こんなに優しいセバスはおりませんよ。全く始めから私たちの言葉に耳を貸しておけばよかったものを」
「んー。お前も飲めよ」
ジェフがボトルをつつく。セバスはグラスを取り、向かいに腰かけて主人手ずからのウィスキーを飲んだ。
「お気持ちは決まっているのでしょう?」
「おん」
「……つかぬことをお伺いしますが、坊ちゃま、それはいつから奥さ……シャルロット様のことを?」
「知らん」
「知らんなんてことありますか。天才なんだから覚えてるでしょう! 余計なことばっかりいちいち覚えている癖に」
「知らんと言うか、わからん。でもクリスマスに、もう契約を破棄したいとは思った」
「イブコンですね?」
頷いてジェフは琥珀色の酒を飲む。
「シャルロットもキスしたが嫌がらなかったし……その顔をやめろ」
「キッス……!」
「だがまぁ、まだ急がなくても良いかと。アップルトンに戻して欲しいと聞いた手前、ずっとカーターでいろと言うのも……もっと早い段階で聞いたなら母親を恋しがってる気持ちも尊重してやりたいと思っただろうが。いくら金や家を持たせても一市民として街中に戻すのは想像するとぞっとした。どのみちそんなことになればまた拉致してでもブランドンが手元に置いただろうが」
「そうでしょうね。バティーク様でも強硬なさるでしょう」
「もう少しシャルロットが心変わりする様子を待つつもりだった。どうせ契約に期限を設けてなかったしな」
せめてバティークの元に帰すなら、と思いもしたが、それでもやっぱり手元から離したくなかったのは自分の中に欲が生まれ始めていたからに違いはない。
「一国の宰相ともあろう方が。とんでもないグズですな」
ぴしゃりと老執事が言い放つ。
「そうまでお思いなら手籠めにでもなさればよろしい!」
「お前なぁ」
嫌そうな顔で坊ちゃまは親代わりの執事を見遣った。とんでもないことを言い出す親代わりである。
「どう見たって、シャルロット様はジェフ様の側で安心されていましたよ。女性が好きでもない十六も年上の男に気軽にスキンシップなんてされませんし、ましてや奥様は大の男嫌い! そのうえキッスまで」
「キッス言うな」
良いですか、とセバスは恐ろしい顔でジェフを見る。
「なんだよ」
「絶対に、逃がしてはなりませんよ」
「わかってるさ。お前に言われるまでもない」
「ではしっかり食べて、しっかりお眠りください!」
「おん」
****
「また来たんですか。もう離婚だって成立したのにグダグダと」
正門前でバティークが嫌そうな顔をする。ジェフが花と菓子を手に腕を広げた。
「言っただろう、毎日来るって」
「今、何時だと? 朝の五時ですよ」
「仕方ないだろう。スケジュール的に今来なかったら夜中の十二時を超えるんだから。さすがに寝ているだろうから会わせろとは言わないが、会わせて欲しい」
「結局言ってるじゃないですか。何度来たって同じですよ。お帰り下さい!」
◇
「ジェフ、守衛を買収しましたね」
「菓子くらい良いだろう。花にも罪はない」
「守衛の家族に食べてくれって、押し付けたところでロティ宛だってわかっている菓子を食べられるわけないでしょう!! あんな豪華な花だって守衛の奥方がひっくり返りますよ」
「ということは、シャルロットの手に?」
片眉を上げる宰相をバティークは睨みつける。
◇
「毎日毎日毎日……」
「昨日は来れなかった」
「夜中の三時に来てたんでしょう」
「ほー。さすがマルーンだ。警備が良いな。どうやってもあいつら買収されないし」
「言って聞かせてますからね! ……クマが酷いですね」
「いつものことだ」
「いつもお一人ですが、運転手は」
「好きな女に会いに来るのに、運転手付きで来ない」
バティークは思わず惚れそうになって舌打ちする。
「……花とスィーツは預かってあげましょう」
「ありがとう、兄上」
「兄じゃないですが!?」
ジェフが笑いながらプレゼントを預ける。
◇
雪の降る日曜の夕方、眉間に皺を寄せたバティークが、いつも通り正門前で口を開く。
「アーク議員の件、ありがとうございました」
「構わないよ。力になれて良かった。アークはいずれマルーン財閥の重役になる男だ」
議員の息子と新進気鋭女優のスキャンダル。もみ消しに手を貸してやったジェフは嬉しそうに目を細める。普段そういった雑事には手を出さないのだが、バルカスを使って記者へと先回りし、自分しか手を貸してやれない状況を作っておいた。
「だが、奉仕活動はしない主義でね」
「わかっています。父とも相談しました」
「会わせてくれるか」
氷点下の気温の中、寒さで黒いコートのポケットに入れていた手が思わず出る。
「ただし十メートル以上の距離です。話しかけるのも許可しません」
「そうか!」
いよいよ正門を通され、ずっと遠目に小さかった屋敷が近づいてくる。ジェフは何度も手のひらを握って解いてを繰り返し、逸る気持ちを抑える。
「はい、ここでストップ」
先導していたバティークが止まり、スッと屋敷のエントランス横にある応接の窓を指した。
「……シャルロット……」
ブランドンと何やら話しているミルクティー色の頭が、こちらに気が付いた父親に促されて後ろを振り返る。何も聞かされていないのか、不思議そうに窓の外を見て黒いコートの男に気が付いた。
驚いた顔をして立ち止まり、ゆっくり窓へと近づいてくる。
雪が落ちる音さえも聞こえそうな、静かな再会だった。
ジェフもただじっとして、ポケットの中で拳を握りしめる。
二人は互いの姿かたちを目で辿り、視線を絡ませ合った。シャルロットが口を開いて『ジェフ』と呼んだのがわかった。ジェフが懐かしい、だけど今までで一番優しい顔で微笑む。
シャルロットも微笑もうとして、失敗して俯いた。
窓の向こうで、両手が目元にあてられる。
「あ~あ。泣かせないでくださいよ、大事な妹を」
「……すまない」
目線と緩む頬はそのままに、バティークに謝る。
泣かせることができるなら。
ブランドンが娘の肩を抱き、ジェフから隠すように抱きしめると顎を振ってバティークへ終わりを告げる。
「はい、おしまいですよ!」
ジェフは頷いて、礼を言って立ち去る。
アプローチの距離は長いが、冷たい雪は気にならなかった。
胸の中にはシャルロットが点けた火がともっていたので。
義理の父親であるブランドンのその言葉を聞いた時、ジェフは政治家になって以来最も腹に力が入らない『え』を発した。
ちょっと待ってくれ。
私の話も聞いてくれ。
いやそもそも、俺の結婚なんだが。
とか色々言ってみたが、喜色満面のバティークが『今日の所はお帰り下さい』を連発し、眼鏡と二人がかりで引きずり出されて『外面悪くジタバタされるおつもりなら、こちらとしても弁護士をたてて泥沼離婚にして差し上げますが』と脅された。
「遅きに失した、の見本ですね」
とニヤニヤする部下と、
「枯れきっていた自分を反省するのねぇ」
と当てつけのようにバルカスに引っ付いて自分を見るビビアンの白けた視線に晒され、大きな嘆息と共に病院から執政棟へと戻る。
机の上は慌ただしく大使館へ出かけたまま。
もはや想像するだけで家人たちの反応が面倒くさすぎて、屋敷に帰るのも嫌になる。セバスは落ち込み、テルミアは激怒するだろう。そして言い返す言葉もなかった。
「ん゛~……」
ドカンと椅子に腰かけて目を瞑りじっとする。
だが悲しいかな、自分はそれだけにかかりきりになれる立場ではない。
ぱちんぱちんと手指を鳴らした後、仕事の頭に切り替えてペンを取った。
****
「接近禁止令!?」
バカでかい公爵邸の鉄製の正門前で素っ頓狂な声を上げ、ホクホク顔のバティークから渡された書面を受け取る。
「離婚が成立するまで、こちらが解除しない限りはロティに接近することを禁じます。これは正式な裁判所からの書面です。離婚に異議申立てをされているとか? そのような姿勢で万が一ロティをキズモノにされたり、手を出して子どもなど作られたら困りますから」
「そんなことはしない!」
「可能性としての話ですよ」
「バティーク……シャルロットと話をさせてくれ。彼女は本当に離婚に同意しているのか? 大使館に連れ去られる前日の朝食ですれ違って以来、まともに話をしていない」
「知りませんよ、そんなの。ロティがどんな気持ちかなんて、あなたは夫だったんですよ? 契約婚の間に何か月もあったのですから、いくらでも大事な話は出来たでしょうに」
ぐうの音も出ない。
あっさりとバティークが戻った後、忙しい合間を縫って来た宰相は黒いコートのポケットに手を入れてじっと遠くの屋敷を見つめる。正門からのアプローチが長すぎて、屋敷の中の様子など何一つわからない。
結局シャルロットに渡すつもりで持って来た花と菓子は車から降ろすこともなく、屋敷に戻った。
「花のひとつも渡せないままお帰りですか」
半目の執事が冷風を吹かせて主人を迎える。
「テルミアは寝込んでおります」
「知らん。お前が慰めてやれ」
ネクタイを引き抜き、具体的な接近距離の記された馬鹿馬鹿しい接近禁止命令書をポイと見せてやる。
「なっ! 十メートルも!? 遠すぎるじゃないですか!! 話しかけてもダメなんて!」
「おん」
「あっ、坊ちゃま、お食事は?」
気がついて慌てる老執事だが、ワイシャツのボタンを外していく主人は振り向きもしない。
「……いらん」
肩を落として寝室に向かい、酒を持ってこい! と大声で言いながらシャワーを浴びに向かう。
セバスは見たことのない様子の主人に苦笑して、夫婦の寝室になるはずだった部屋のローテーブルに簡単な食事を用意させる。
「さぁさぁ、お酒ばかりを召し上がられては元気も出ません。しっかり食べて腹に力を入れて、そのように情けない負け犬面はお止めになって坊ちゃまらしく計画をお立てください?」
「お前、傷口に塩を塗り込んでくるじゃないか」
「こんなに優しいセバスはおりませんよ。全く始めから私たちの言葉に耳を貸しておけばよかったものを」
「んー。お前も飲めよ」
ジェフがボトルをつつく。セバスはグラスを取り、向かいに腰かけて主人手ずからのウィスキーを飲んだ。
「お気持ちは決まっているのでしょう?」
「おん」
「……つかぬことをお伺いしますが、坊ちゃま、それはいつから奥さ……シャルロット様のことを?」
「知らん」
「知らんなんてことありますか。天才なんだから覚えてるでしょう! 余計なことばっかりいちいち覚えている癖に」
「知らんと言うか、わからん。でもクリスマスに、もう契約を破棄したいとは思った」
「イブコンですね?」
頷いてジェフは琥珀色の酒を飲む。
「シャルロットもキスしたが嫌がらなかったし……その顔をやめろ」
「キッス……!」
「だがまぁ、まだ急がなくても良いかと。アップルトンに戻して欲しいと聞いた手前、ずっとカーターでいろと言うのも……もっと早い段階で聞いたなら母親を恋しがってる気持ちも尊重してやりたいと思っただろうが。いくら金や家を持たせても一市民として街中に戻すのは想像するとぞっとした。どのみちそんなことになればまた拉致してでもブランドンが手元に置いただろうが」
「そうでしょうね。バティーク様でも強硬なさるでしょう」
「もう少しシャルロットが心変わりする様子を待つつもりだった。どうせ契約に期限を設けてなかったしな」
せめてバティークの元に帰すなら、と思いもしたが、それでもやっぱり手元から離したくなかったのは自分の中に欲が生まれ始めていたからに違いはない。
「一国の宰相ともあろう方が。とんでもないグズですな」
ぴしゃりと老執事が言い放つ。
「そうまでお思いなら手籠めにでもなさればよろしい!」
「お前なぁ」
嫌そうな顔で坊ちゃまは親代わりの執事を見遣った。とんでもないことを言い出す親代わりである。
「どう見たって、シャルロット様はジェフ様の側で安心されていましたよ。女性が好きでもない十六も年上の男に気軽にスキンシップなんてされませんし、ましてや奥様は大の男嫌い! そのうえキッスまで」
「キッス言うな」
良いですか、とセバスは恐ろしい顔でジェフを見る。
「なんだよ」
「絶対に、逃がしてはなりませんよ」
「わかってるさ。お前に言われるまでもない」
「ではしっかり食べて、しっかりお眠りください!」
「おん」
****
「また来たんですか。もう離婚だって成立したのにグダグダと」
正門前でバティークが嫌そうな顔をする。ジェフが花と菓子を手に腕を広げた。
「言っただろう、毎日来るって」
「今、何時だと? 朝の五時ですよ」
「仕方ないだろう。スケジュール的に今来なかったら夜中の十二時を超えるんだから。さすがに寝ているだろうから会わせろとは言わないが、会わせて欲しい」
「結局言ってるじゃないですか。何度来たって同じですよ。お帰り下さい!」
◇
「ジェフ、守衛を買収しましたね」
「菓子くらい良いだろう。花にも罪はない」
「守衛の家族に食べてくれって、押し付けたところでロティ宛だってわかっている菓子を食べられるわけないでしょう!! あんな豪華な花だって守衛の奥方がひっくり返りますよ」
「ということは、シャルロットの手に?」
片眉を上げる宰相をバティークは睨みつける。
◇
「毎日毎日毎日……」
「昨日は来れなかった」
「夜中の三時に来てたんでしょう」
「ほー。さすがマルーンだ。警備が良いな。どうやってもあいつら買収されないし」
「言って聞かせてますからね! ……クマが酷いですね」
「いつものことだ」
「いつもお一人ですが、運転手は」
「好きな女に会いに来るのに、運転手付きで来ない」
バティークは思わず惚れそうになって舌打ちする。
「……花とスィーツは預かってあげましょう」
「ありがとう、兄上」
「兄じゃないですが!?」
ジェフが笑いながらプレゼントを預ける。
◇
雪の降る日曜の夕方、眉間に皺を寄せたバティークが、いつも通り正門前で口を開く。
「アーク議員の件、ありがとうございました」
「構わないよ。力になれて良かった。アークはいずれマルーン財閥の重役になる男だ」
議員の息子と新進気鋭女優のスキャンダル。もみ消しに手を貸してやったジェフは嬉しそうに目を細める。普段そういった雑事には手を出さないのだが、バルカスを使って記者へと先回りし、自分しか手を貸してやれない状況を作っておいた。
「だが、奉仕活動はしない主義でね」
「わかっています。父とも相談しました」
「会わせてくれるか」
氷点下の気温の中、寒さで黒いコートのポケットに入れていた手が思わず出る。
「ただし十メートル以上の距離です。話しかけるのも許可しません」
「そうか!」
いよいよ正門を通され、ずっと遠目に小さかった屋敷が近づいてくる。ジェフは何度も手のひらを握って解いてを繰り返し、逸る気持ちを抑える。
「はい、ここでストップ」
先導していたバティークが止まり、スッと屋敷のエントランス横にある応接の窓を指した。
「……シャルロット……」
ブランドンと何やら話しているミルクティー色の頭が、こちらに気が付いた父親に促されて後ろを振り返る。何も聞かされていないのか、不思議そうに窓の外を見て黒いコートの男に気が付いた。
驚いた顔をして立ち止まり、ゆっくり窓へと近づいてくる。
雪が落ちる音さえも聞こえそうな、静かな再会だった。
ジェフもただじっとして、ポケットの中で拳を握りしめる。
二人は互いの姿かたちを目で辿り、視線を絡ませ合った。シャルロットが口を開いて『ジェフ』と呼んだのがわかった。ジェフが懐かしい、だけど今までで一番優しい顔で微笑む。
シャルロットも微笑もうとして、失敗して俯いた。
窓の向こうで、両手が目元にあてられる。
「あ~あ。泣かせないでくださいよ、大事な妹を」
「……すまない」
目線と緩む頬はそのままに、バティークに謝る。
泣かせることができるなら。
ブランドンが娘の肩を抱き、ジェフから隠すように抱きしめると顎を振ってバティークへ終わりを告げる。
「はい、おしまいですよ!」
ジェフは頷いて、礼を言って立ち去る。
アプローチの距離は長いが、冷たい雪は気にならなかった。
胸の中にはシャルロットが点けた火がともっていたので。
139
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる