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59. 番外編*密会
庭でエリサとヴィゴと屋敷に飾る花を摘んでいると、セバスが軽い足取りでやって来る。
「奥様!」
「はぁい。楽しそうですね、セバスさん。スキップしてるみたい」
「飛べませんがね。坊ちゃまから電話がありまして。急に会談がキャンセルになったから、予約していた店に奥様がどうかと。ディナーのお誘いです」
シャルロットが花を両手に万歳する。
「行きます!」
「奥様、デートですね!」
エリサも喜んで横で拍手している。
「じゃあ、私、急いで支度をしてきます! ヴィゴさん、ごめんなさい」
「いえいえ、お気をつけて」
「十九時からの予約だそうです。アリンドの西街エリアの店なので、渋滞しても三、四十分見ておけばいいでしょう。四十分後に出発でお願いします」
「かしこまりました!」
「奥様、いい加減に『かしこまりました』はお止めください。花を預かりましょう。エリサ、テルミアにも声をかけて。ドレスコードのあるグランドメゾンですから、お召し物は良いものを選ぶように」
「かし…ん~~~~…はい!」
「かしこまりました。奥様、参りましょう。ディナーの待ち合わせなんて初めてですね! どのドレスになさいます?」
「えーっと…。ビビに選んでもらったクリーム色のドレスにしようかなぁ」
軽やかにシャルロットはエリサと自室に戻っていく。
「ジェフ様でもデートに誘ったりするんだな」
花を摘み続けるヴィゴがにやりと口を開いた。庭師のヴィゴも屋敷では古株である。
「本人がデートと自覚しているのかは怪しいところだ。いやだけど、やーっと坊ちゃまは目覚めた! 人が変わったようだ」
「再婚してからは随分可愛がっていらっしゃる。ジェフ様も遅咲きだったが奥様は輪をかけてのんびりしているし、案外似合いだった」
「時々目が覚めて嘘だったんじゃないかと思うよ」
「お前が恋してるみたいだな」
ははははは、と年配の二人は声を上げて笑う。
二度目の結婚式から三か月が経った。
相変わらず宰相に暇はないので朝早く出て夜遅く帰る。早く帰っても執務室にいる。だけどシャルロットも出来るだけ昼寝をして深夜の食事の席にいたり、バスルームに連れ込まれたり、気が付けばベッドの中でギュッとしてもらっていたり、朝食の席でひっついて座ったり。
セバスもテルミアも、屋敷の皆が何とかこの会えない夫婦の為に良い時間を捻出しようと協力した。セバスなどは『精がつく』と聞けば何でも取り寄せているくらいである。
サムに運転してもらい、約束の時間の十分前にハイブランドや星の付くホテルが並ぶ通りに着いた。渋滞する車道を徐行して、歩道横に停車する。
「間に合いましたね、良かった! あちらの少し奥まった国旗が見えている……グレーのハットを被ったボーイが立っているお店です。こちらで降ろして大丈夫ですか?」
「はい! わかります。降りますね。ありがとうございました」
シャルロットはクラッチバックを掴んでドアを開くと、巻いた髪を揺らしてなまめかしいパンプスで通りに降り立つ。
「ありがとう、サムさん。気を付けて」
クラクションを鳴らされ、急いでサムが車線に戻っていく。見送ったシャルロットは歩き始めた。
「お嬢さん」
急に横から声をかけられて驚く。スーツの若い男が二人、とても爽やかにこちらを見ていた。
「車から降りてきた女性が、すごく綺麗な人で驚いた」
「本当に! 綺麗だよ、信じられないな」
「今からどこに? 俺達飲みに行くところで」
「この通りを歩いていてラッキーだった! 一緒にどうかな」
喋る暇も与えない男二人にシャルロットはポカンとする。
「良い店だよ、一緒に三人で……えっ、もしかして人妻?」
「三人が怖かったらどちらか一人でも。人妻でも全然! お友達から……話だけでも。美味しい店があるんだけど、俺とはどう?」
「お前ずるいぞ。あ、今日じゃなくても俺と」
「だって俺が先に声をかけたんだ」
もてもてじゃないですか、奥様。
頭のすぐ後ろで聞こえた馴染みの声に首を捻ると、親友曰くリンド一の男前が立っている。
「あ、バルカスさ……ジェフ!」
三歩先、スーツに長いマフラーをかけた優しい顔の夫が見えて、途端に満面の笑みを浮かべたシャルロットが走り寄り、大きな身体の後ろに逃げる。
「知り合いじゃないな?」
「もちろん」
「バルカス」
「ごゆっくりどうぞ。さぁ、行った行った、奥様をナンパするんじゃない」
「行こう」
腰を抱かれて店に向かう。
後ろで『え、カーター夫人!?』と声が聞こえたが、夫は振り返る様子もない。シャルロットはため息をついた。
「やっぱりまだジェフの奥様には見えませんね。ただの小娘」
「ただの、じゃない。美しい小娘だ」
ボーイが『いらっしゃいませ、カーター様』と絶妙のタイミングで扉を開く。アリンドでも一、二を争うグランドメゾン。ジェフが屈んで素早く妻に口づけ、何事もなかったかのように足を踏み入れる。
「お待たせしませんでしたか?」
「いや、全く。着いてバルカスが中を確認して、ロティがもう来るかとちょうど迎えに出たところだった」
個室に案内されて、それぞれ着席するとジェフが選びに選んでいつものシャンパンを頼む。
「そうですか、良かった。バルカスさんのお食事は?」
「あいつはもう帰らせた。俺はあんまり良くはなかったが……よく声をかけられるのか」
「まさか! 初めてです、あんなの。ビビといるとよくありますが」
「ビ……二人で? どうしているんだ」
「ん~。ビビ、怒ると怖いから。ピシャって言うのが上手なんです。大体相手が負けて去って行きます」
シャルロットはいつも終始見ているだけである。
「さすが元王女。んぁ~…だけどあんまり良くないな」
「何がですか?」
「二人でも一人でもあんな風に声をかけられるのが良くない」
「大丈夫ですよ。そもそも私は一人で街中には出してもらえません。嘘か本当か誘拐されるって。テルミアさんとサムさんが大体一緒です。ちょっとお遣いだと誰か他の…リーリエとかエリサとか」
「サム……果たしてサムは何かできるのか」
何やらぶつぶつ言いだした夫を脇に、個室の扉が開き、シャルロットは食事の用意を始める。
シャンパンとアミューズが運ばれ、二人は乾杯して食事を始めた。
「ジェフ、これ、すっごく美味しいです!!」
「うん、美味いな。ここはいつも美味い」
「お仕事でこんな美味しいもの食べるなんてラッキーですね……今日は何か密談だったのですか?」
個室は八人掛けのテーブルに二脚だけを残し、窓もなく扉も締まって外の声は何も聞こえない。重たそうなドアも壁も大理石で金具はシックなゴールド、落ち着いた照明が密談感を煽る。
「そうだ。まぁ仕事のほとんどが密談のようなもんだけど」
「密談ばっかりしていたら、本当の内緒がどれかわからなくなりそうですね?」
「はは、『本当の内緒』か。確かに……それを言うなら、俺にとっては今晩が一番の密談だな」
「夫婦の会話が?」
「そうだ、誰にもおしえたくない」
嬉しそうに肩を揺らすシャルロットにジェフは得意げな顔をする。実際は日常会話のほぼ全てが家人たちに筒抜けだったが。
「ところで今日のドレスは……大人っぽいな。ちょっとスカートがみじか」
「めちゃくちゃ可愛いでしょう!?」
「……おん」
おじさまは頷くしかない。
「最近フランスで流行りなんですって。やっぱりパリのお洋服って可愛いの! ビビともう少し世の中が落ち着いたら、絶対パリにお買い物に行こうねって言ってます。兄さまも行くって」
「バティークが!?……そうだ、陛下から新婚旅行はどうするんだって聞かれていたんだった」
「結婚式の時の?」
ウィリアムから新婚旅行をプレゼントされていたが、結局挙式から一向にまとまった休みは取れておらず、旅行の話題すら出ていない。
「そうそう。クリスマスから年末にかけて一週間くらい休めるように調整しているんだ。バルカスにもまとまった休みをやりたいしな。なんとか実現できそうになってきた。どこか行きたい所はある?」
「一週間も!?」
シャルロットはカトラリを持ったままわなわなと震える。
「一週間もジェフと一緒にいれるの!?」
「ロティ、あんまり可愛いことをここで言うな」
「だって、だって一週間て七日もある! 七回も? ジェフと!?」
ジェフは目を閉じ、眉間に皺を寄せた。
「んぁ~……とにかく、行きたい所は」
「ないです!」
ぱちんと目を開けたジェフが『え?』とシャルロットを見る。見られた妻はちょっと恥ずかしそうに言った。
「ジェフと……ずっと部屋にいたい」
にひひ、とはにかんだ様子に苦しそうにした後、静かにカトラリを置き、すっくと男は立ち上がる。部屋の扉に向かった。
「ジェフ?」
「ここはよく使うんだ。味が良いとか、裏から入れるというのもあるが」
「はぁ」
「一番の理由はガードナーがやってる店で、この部屋に俺が鍵をつけさせたからだ」
ガシャン、と長身のジェフが腕を伸ばした先にある銀色の大きな鍵がかかった。
ただ何となく見ていたシャルロットの側まで回り込んで来たジェフが腕を引いて席から降ろし、あっという間に自分が座って横抱きにする。シャルロットがすぐ嬉しそうに抱き着いた。
「ふふ」
「今日は奥さん、ご機嫌だな?」
「だって、ジェフとデートなんてなかなか出来ないから」
「毎日会うじゃないか、屋敷で」
「んー…でも、外で見るジェフはすごくかっこいい」
シャルロットはにやける顔を隠す為にくっついたジェフの耳の下へと顔を埋める。
「………」
大きな手が腕の中の脇腹を持って優しく離す。
見つめ合う距離まで一度離れた後、二人は瞼を降ろしながら唇を寄せ合う。啄む浅い口づけを繰り返しては離れて見つめ合い、また目を閉じた。
「ジェフ、今日はこのまま一緒に帰れますか?」
離れた夫の唇を指先で撫でながら、シャルロットはずっと気になっていたことを尋ねる。
「ああ、もう今日は帰るよ。もともと会食後は解散の予定だったから……嬉しい?」
頷くシャルロットを撫でまわして、結局我慢できずに口の中を犯し始める。
「ん……んん……」
二人は夢中で舌を絡ませて、互いに飲んだシャンパンを味わう。何度も唾液を吸って与えて絡ませ、酒の匂いが酩酊感を連れてくる。
ジェフは片腕で細い肩を抱いて顔を寄せ、反対の手はするすると身体へ降りた。
「ぁ」
V字の胸元を指が這い、カリカリと先を弾かれると、ほんの少し声が出る。ジェフは丁寧にドレスの上から摘まんだ。
「んー…」
きゅっと摘ままれる度に夫のベストの端を掴む手に力が入る。
可愛い可愛いシャルロット。
ジェフは手の中で小さく跳ねる妻を愛でる。いつものようにあっという間に背中のファスナーは下ろされて上半身を剥かれ、短いスカートは腹まで捲り上げられた。スカートの中に穿いた柔らかいレースがずらされると、長い指がクチュクチュと隘路の奥で遊び始める。
「ぁーん…」
「ロティ」
甘くて低い声が自分を呼ぶと、シャルロットは唇を開けて舌を待つ。
微かに触られるだけで濡れるようになった身体は、何でも従順に受け入れる。そこがパリのエッフェル塔でもシャンゼリゼ通りのカフェでも例え三ツ星グランドメゾンでも、腕の中は同じ場所。
宰相の奥様は高級メゾンで唾液に濡れる赤い飾りのついた肌を曝し、脚を広げて小さく喘ぐ。
クチュクチュ卑猥な水音が個室に響き、快感が身体を支配し始める。夫の指は慣れた様子で迷いなく悦いところを押し上げた。
「も……ぃく」
「早いな」
ちょっと意地悪く言われても幸せそうに蕩けた顔をして、丸い瞳を瞑ると小さく達した。
「はぁ…はぁ…きもち」
「悦さそうだった」
蕩けた瞳のまま、シャルロットが『ジェフは?』と聞く。
「ん? 俺はいい」
身体を起こして、夫に跨って顎に口づける。
「ね、ちょっとだけ、して?」
「………」
「ちょっとだけ……後は我慢する……」
ジェフは眉間に皺を寄せて堪える。
「ロティ、誰かに何か教わったのか?」
「なにを? だめ…?」
皺が深くなる。
「あ~…」
ひと言吐き出してから薄目を開けて視界を塞ぐ膨らみを再び食む。またシャルロットが溜息を吐く。舌で赤い先端を転がしながらベルトを解き、取り出した陰茎を白い手に握らせた。
「『ちょっとだけ』自分で調節して挿入られる?」
「はぁ……ん、する」
夫の目の前で息を漏らしながら、隘路に少しずつ咥え込んでいく。
「どう?」
「んー……」
「シャルロット、もう『ちょっと』じゃないぞ」
「ぁーん……」
だって、と目を瞑って腕を伸ばしてくる裸の女を抱きしめて深く突き挿してやると背中が弓なりに反る。
「イきそ」
「もう?どうした今日は」
「だって、だって」
ずちゅずちゅ穿つとシャルロットの細い腰も勝手に揺れ出す。
「あ、あ、も、い」
「あ、ここでは漏らすな…タオルがない」
「む……んっ」
シャルロットは辛そうな顔で目を閉じ、絶頂へと昇って行く。
「ぁ……~~~~~~~」
絡めとった長い腕が間断なく身体を上下に揺さぶると、ドロドロに甘えた声で鳴き始める。ジェフは口を塞いで奥へと強く抽挿を繰り返す。シャルロットが爪を立て、脚をピンと立てて『いく』と繰り返した。
「はぁ…はぁ…は……ふふふ」
「本当にご機嫌だなぁ。どうした?」
「だって」
しちゃったから。こんなとこで。ベストを撫でて楽しそうに言う。
「ん……抜いて?」
「もう一回しようか」
あまりの自由な媚態にあてられて、なんかもしかしたらもう一回出来そうかも、とジェフは言ってみるが、あっけらかんと断られた。
「ううん、お料理冷めちゃうから」
「………」
満足した可愛い妻がさっさと膝を降りていく。
色々仕舞ったジェフは顔を覆った。
「お腹すいちゃった」
「むぅ」
「続きは帰ってベッドでしたい!」
「………」
脱いでぎゅってされるの好きだから。小さな声でシャルロットが付け足した。
「だから一週間も、ずーっと部屋にいたいな、って。ふふ」
やっぱり恐ろしい子だ。
ジェフはいろいろ諦めて、鍵を開けに席を立った。
「奥様!」
「はぁい。楽しそうですね、セバスさん。スキップしてるみたい」
「飛べませんがね。坊ちゃまから電話がありまして。急に会談がキャンセルになったから、予約していた店に奥様がどうかと。ディナーのお誘いです」
シャルロットが花を両手に万歳する。
「行きます!」
「奥様、デートですね!」
エリサも喜んで横で拍手している。
「じゃあ、私、急いで支度をしてきます! ヴィゴさん、ごめんなさい」
「いえいえ、お気をつけて」
「十九時からの予約だそうです。アリンドの西街エリアの店なので、渋滞しても三、四十分見ておけばいいでしょう。四十分後に出発でお願いします」
「かしこまりました!」
「奥様、いい加減に『かしこまりました』はお止めください。花を預かりましょう。エリサ、テルミアにも声をかけて。ドレスコードのあるグランドメゾンですから、お召し物は良いものを選ぶように」
「かし…ん~~~~…はい!」
「かしこまりました。奥様、参りましょう。ディナーの待ち合わせなんて初めてですね! どのドレスになさいます?」
「えーっと…。ビビに選んでもらったクリーム色のドレスにしようかなぁ」
軽やかにシャルロットはエリサと自室に戻っていく。
「ジェフ様でもデートに誘ったりするんだな」
花を摘み続けるヴィゴがにやりと口を開いた。庭師のヴィゴも屋敷では古株である。
「本人がデートと自覚しているのかは怪しいところだ。いやだけど、やーっと坊ちゃまは目覚めた! 人が変わったようだ」
「再婚してからは随分可愛がっていらっしゃる。ジェフ様も遅咲きだったが奥様は輪をかけてのんびりしているし、案外似合いだった」
「時々目が覚めて嘘だったんじゃないかと思うよ」
「お前が恋してるみたいだな」
ははははは、と年配の二人は声を上げて笑う。
二度目の結婚式から三か月が経った。
相変わらず宰相に暇はないので朝早く出て夜遅く帰る。早く帰っても執務室にいる。だけどシャルロットも出来るだけ昼寝をして深夜の食事の席にいたり、バスルームに連れ込まれたり、気が付けばベッドの中でギュッとしてもらっていたり、朝食の席でひっついて座ったり。
セバスもテルミアも、屋敷の皆が何とかこの会えない夫婦の為に良い時間を捻出しようと協力した。セバスなどは『精がつく』と聞けば何でも取り寄せているくらいである。
サムに運転してもらい、約束の時間の十分前にハイブランドや星の付くホテルが並ぶ通りに着いた。渋滞する車道を徐行して、歩道横に停車する。
「間に合いましたね、良かった! あちらの少し奥まった国旗が見えている……グレーのハットを被ったボーイが立っているお店です。こちらで降ろして大丈夫ですか?」
「はい! わかります。降りますね。ありがとうございました」
シャルロットはクラッチバックを掴んでドアを開くと、巻いた髪を揺らしてなまめかしいパンプスで通りに降り立つ。
「ありがとう、サムさん。気を付けて」
クラクションを鳴らされ、急いでサムが車線に戻っていく。見送ったシャルロットは歩き始めた。
「お嬢さん」
急に横から声をかけられて驚く。スーツの若い男が二人、とても爽やかにこちらを見ていた。
「車から降りてきた女性が、すごく綺麗な人で驚いた」
「本当に! 綺麗だよ、信じられないな」
「今からどこに? 俺達飲みに行くところで」
「この通りを歩いていてラッキーだった! 一緒にどうかな」
喋る暇も与えない男二人にシャルロットはポカンとする。
「良い店だよ、一緒に三人で……えっ、もしかして人妻?」
「三人が怖かったらどちらか一人でも。人妻でも全然! お友達から……話だけでも。美味しい店があるんだけど、俺とはどう?」
「お前ずるいぞ。あ、今日じゃなくても俺と」
「だって俺が先に声をかけたんだ」
もてもてじゃないですか、奥様。
頭のすぐ後ろで聞こえた馴染みの声に首を捻ると、親友曰くリンド一の男前が立っている。
「あ、バルカスさ……ジェフ!」
三歩先、スーツに長いマフラーをかけた優しい顔の夫が見えて、途端に満面の笑みを浮かべたシャルロットが走り寄り、大きな身体の後ろに逃げる。
「知り合いじゃないな?」
「もちろん」
「バルカス」
「ごゆっくりどうぞ。さぁ、行った行った、奥様をナンパするんじゃない」
「行こう」
腰を抱かれて店に向かう。
後ろで『え、カーター夫人!?』と声が聞こえたが、夫は振り返る様子もない。シャルロットはため息をついた。
「やっぱりまだジェフの奥様には見えませんね。ただの小娘」
「ただの、じゃない。美しい小娘だ」
ボーイが『いらっしゃいませ、カーター様』と絶妙のタイミングで扉を開く。アリンドでも一、二を争うグランドメゾン。ジェフが屈んで素早く妻に口づけ、何事もなかったかのように足を踏み入れる。
「お待たせしませんでしたか?」
「いや、全く。着いてバルカスが中を確認して、ロティがもう来るかとちょうど迎えに出たところだった」
個室に案内されて、それぞれ着席するとジェフが選びに選んでいつものシャンパンを頼む。
「そうですか、良かった。バルカスさんのお食事は?」
「あいつはもう帰らせた。俺はあんまり良くはなかったが……よく声をかけられるのか」
「まさか! 初めてです、あんなの。ビビといるとよくありますが」
「ビ……二人で? どうしているんだ」
「ん~。ビビ、怒ると怖いから。ピシャって言うのが上手なんです。大体相手が負けて去って行きます」
シャルロットはいつも終始見ているだけである。
「さすが元王女。んぁ~…だけどあんまり良くないな」
「何がですか?」
「二人でも一人でもあんな風に声をかけられるのが良くない」
「大丈夫ですよ。そもそも私は一人で街中には出してもらえません。嘘か本当か誘拐されるって。テルミアさんとサムさんが大体一緒です。ちょっとお遣いだと誰か他の…リーリエとかエリサとか」
「サム……果たしてサムは何かできるのか」
何やらぶつぶつ言いだした夫を脇に、個室の扉が開き、シャルロットは食事の用意を始める。
シャンパンとアミューズが運ばれ、二人は乾杯して食事を始めた。
「ジェフ、これ、すっごく美味しいです!!」
「うん、美味いな。ここはいつも美味い」
「お仕事でこんな美味しいもの食べるなんてラッキーですね……今日は何か密談だったのですか?」
個室は八人掛けのテーブルに二脚だけを残し、窓もなく扉も締まって外の声は何も聞こえない。重たそうなドアも壁も大理石で金具はシックなゴールド、落ち着いた照明が密談感を煽る。
「そうだ。まぁ仕事のほとんどが密談のようなもんだけど」
「密談ばっかりしていたら、本当の内緒がどれかわからなくなりそうですね?」
「はは、『本当の内緒』か。確かに……それを言うなら、俺にとっては今晩が一番の密談だな」
「夫婦の会話が?」
「そうだ、誰にもおしえたくない」
嬉しそうに肩を揺らすシャルロットにジェフは得意げな顔をする。実際は日常会話のほぼ全てが家人たちに筒抜けだったが。
「ところで今日のドレスは……大人っぽいな。ちょっとスカートがみじか」
「めちゃくちゃ可愛いでしょう!?」
「……おん」
おじさまは頷くしかない。
「最近フランスで流行りなんですって。やっぱりパリのお洋服って可愛いの! ビビともう少し世の中が落ち着いたら、絶対パリにお買い物に行こうねって言ってます。兄さまも行くって」
「バティークが!?……そうだ、陛下から新婚旅行はどうするんだって聞かれていたんだった」
「結婚式の時の?」
ウィリアムから新婚旅行をプレゼントされていたが、結局挙式から一向にまとまった休みは取れておらず、旅行の話題すら出ていない。
「そうそう。クリスマスから年末にかけて一週間くらい休めるように調整しているんだ。バルカスにもまとまった休みをやりたいしな。なんとか実現できそうになってきた。どこか行きたい所はある?」
「一週間も!?」
シャルロットはカトラリを持ったままわなわなと震える。
「一週間もジェフと一緒にいれるの!?」
「ロティ、あんまり可愛いことをここで言うな」
「だって、だって一週間て七日もある! 七回も? ジェフと!?」
ジェフは目を閉じ、眉間に皺を寄せた。
「んぁ~……とにかく、行きたい所は」
「ないです!」
ぱちんと目を開けたジェフが『え?』とシャルロットを見る。見られた妻はちょっと恥ずかしそうに言った。
「ジェフと……ずっと部屋にいたい」
にひひ、とはにかんだ様子に苦しそうにした後、静かにカトラリを置き、すっくと男は立ち上がる。部屋の扉に向かった。
「ジェフ?」
「ここはよく使うんだ。味が良いとか、裏から入れるというのもあるが」
「はぁ」
「一番の理由はガードナーがやってる店で、この部屋に俺が鍵をつけさせたからだ」
ガシャン、と長身のジェフが腕を伸ばした先にある銀色の大きな鍵がかかった。
ただ何となく見ていたシャルロットの側まで回り込んで来たジェフが腕を引いて席から降ろし、あっという間に自分が座って横抱きにする。シャルロットがすぐ嬉しそうに抱き着いた。
「ふふ」
「今日は奥さん、ご機嫌だな?」
「だって、ジェフとデートなんてなかなか出来ないから」
「毎日会うじゃないか、屋敷で」
「んー…でも、外で見るジェフはすごくかっこいい」
シャルロットはにやける顔を隠す為にくっついたジェフの耳の下へと顔を埋める。
「………」
大きな手が腕の中の脇腹を持って優しく離す。
見つめ合う距離まで一度離れた後、二人は瞼を降ろしながら唇を寄せ合う。啄む浅い口づけを繰り返しては離れて見つめ合い、また目を閉じた。
「ジェフ、今日はこのまま一緒に帰れますか?」
離れた夫の唇を指先で撫でながら、シャルロットはずっと気になっていたことを尋ねる。
「ああ、もう今日は帰るよ。もともと会食後は解散の予定だったから……嬉しい?」
頷くシャルロットを撫でまわして、結局我慢できずに口の中を犯し始める。
「ん……んん……」
二人は夢中で舌を絡ませて、互いに飲んだシャンパンを味わう。何度も唾液を吸って与えて絡ませ、酒の匂いが酩酊感を連れてくる。
ジェフは片腕で細い肩を抱いて顔を寄せ、反対の手はするすると身体へ降りた。
「ぁ」
V字の胸元を指が這い、カリカリと先を弾かれると、ほんの少し声が出る。ジェフは丁寧にドレスの上から摘まんだ。
「んー…」
きゅっと摘ままれる度に夫のベストの端を掴む手に力が入る。
可愛い可愛いシャルロット。
ジェフは手の中で小さく跳ねる妻を愛でる。いつものようにあっという間に背中のファスナーは下ろされて上半身を剥かれ、短いスカートは腹まで捲り上げられた。スカートの中に穿いた柔らかいレースがずらされると、長い指がクチュクチュと隘路の奥で遊び始める。
「ぁーん…」
「ロティ」
甘くて低い声が自分を呼ぶと、シャルロットは唇を開けて舌を待つ。
微かに触られるだけで濡れるようになった身体は、何でも従順に受け入れる。そこがパリのエッフェル塔でもシャンゼリゼ通りのカフェでも例え三ツ星グランドメゾンでも、腕の中は同じ場所。
宰相の奥様は高級メゾンで唾液に濡れる赤い飾りのついた肌を曝し、脚を広げて小さく喘ぐ。
クチュクチュ卑猥な水音が個室に響き、快感が身体を支配し始める。夫の指は慣れた様子で迷いなく悦いところを押し上げた。
「も……ぃく」
「早いな」
ちょっと意地悪く言われても幸せそうに蕩けた顔をして、丸い瞳を瞑ると小さく達した。
「はぁ…はぁ…きもち」
「悦さそうだった」
蕩けた瞳のまま、シャルロットが『ジェフは?』と聞く。
「ん? 俺はいい」
身体を起こして、夫に跨って顎に口づける。
「ね、ちょっとだけ、して?」
「………」
「ちょっとだけ……後は我慢する……」
ジェフは眉間に皺を寄せて堪える。
「ロティ、誰かに何か教わったのか?」
「なにを? だめ…?」
皺が深くなる。
「あ~…」
ひと言吐き出してから薄目を開けて視界を塞ぐ膨らみを再び食む。またシャルロットが溜息を吐く。舌で赤い先端を転がしながらベルトを解き、取り出した陰茎を白い手に握らせた。
「『ちょっとだけ』自分で調節して挿入られる?」
「はぁ……ん、する」
夫の目の前で息を漏らしながら、隘路に少しずつ咥え込んでいく。
「どう?」
「んー……」
「シャルロット、もう『ちょっと』じゃないぞ」
「ぁーん……」
だって、と目を瞑って腕を伸ばしてくる裸の女を抱きしめて深く突き挿してやると背中が弓なりに反る。
「イきそ」
「もう?どうした今日は」
「だって、だって」
ずちゅずちゅ穿つとシャルロットの細い腰も勝手に揺れ出す。
「あ、あ、も、い」
「あ、ここでは漏らすな…タオルがない」
「む……んっ」
シャルロットは辛そうな顔で目を閉じ、絶頂へと昇って行く。
「ぁ……~~~~~~~」
絡めとった長い腕が間断なく身体を上下に揺さぶると、ドロドロに甘えた声で鳴き始める。ジェフは口を塞いで奥へと強く抽挿を繰り返す。シャルロットが爪を立て、脚をピンと立てて『いく』と繰り返した。
「はぁ…はぁ…は……ふふふ」
「本当にご機嫌だなぁ。どうした?」
「だって」
しちゃったから。こんなとこで。ベストを撫でて楽しそうに言う。
「ん……抜いて?」
「もう一回しようか」
あまりの自由な媚態にあてられて、なんかもしかしたらもう一回出来そうかも、とジェフは言ってみるが、あっけらかんと断られた。
「ううん、お料理冷めちゃうから」
「………」
満足した可愛い妻がさっさと膝を降りていく。
色々仕舞ったジェフは顔を覆った。
「お腹すいちゃった」
「むぅ」
「続きは帰ってベッドでしたい!」
「………」
脱いでぎゅってされるの好きだから。小さな声でシャルロットが付け足した。
「だから一週間も、ずーっと部屋にいたいな、って。ふふ」
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