私だってあなたを愛するつもりはありません、宰相殿

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61. アリ×バティ①

 第三王女として生まれたアリスには、幼少の頃から決められた嫁ぎ先があった。
 二十歳を迎えた日、欧州と中東の境にある裕福なハラルシュ国の姫アリスは油田の権利と引き換えに中東の王が持つ後宮に入れられる。それは別に珍しい話でもないし、王族の女とは知る限り似たり寄ったりで特別不満にも思ったこともない。どこかの王女がどこか由緒ある家に嫁ぐ。ただ『そういうもの』だと理解して育ち、一路、砂漠のある国へ。

 だけど嫁ぎ先で十二番目の妃になって初めて、これまでいかに恵まれた環境だったのかと思い知らされる。
 自分が多少のんびりしているのは知っていたが、それは環境のおかげで、尚且つただ無知で愚かなだけだったとも気が付いた。なぜなら砂漠の女たちは自分の役割を十二分に理解して立ち回り、王の寵姫となって跡継ぎを産むことをゴールとし、恐るべき牙を隠しもしない。何なら目の前でその刃を研ぐのだ。邪魔する奴は潰される。つまり、目立つ女は自分も仕掛けるがやり返しもされるのだ。毒を盛られたり中庭の噴水で早朝浮いていたり……。

「妃もどんどん入れ替わるのです。それはもう衝撃でした」
「どどどど毒ですか!?」
「噴水で浮いてるって死体なの!?」
 妹とその親友は明らかに興奮して聞いている。
「そうなんです。すーぐ病人や怪我人や死体に遭遇するのです。まるで野戦病院みたいに」
「すご~! ラジオドラマみたい!!」

 なんて所に嫁いでしまったのだ!
 砂漠の国で若いアリス妃は震えた。慄きではなく、武者震いで。
「実は私、十二で妄想癖が爆発して以来、小説を書くのが趣味でして」
「小説、ですか」
 王女が明かした趣味にバティークは一瞬きょとんとする。
「ええ、バティーク様は恋愛やミステリー小説など読まれます?」
「読まないこともありませんが、専ら学術関連の書籍が多いですね」
「あ、そうですね。病院やワクチン工場の経営で色恋を綴った小説なんて読んでいる暇はありませんね。大変に失礼な質問を……」
 申し訳なさそうに王女が口元を押さえる。
「あら、そんなことないわよ。バティーク様、ちょっと前に恋愛小説だって読んでいたじゃない。えーっとタイトル何だったかしら」
「あ~あ~あ~…ビビ、君ちょっと散歩でもしてきたら」
「絶対いや! アリス様のお話面白いんだもの。それで、それで?」
「ええ、私もお話するの、とっても楽しいですわ。それでですね」

 アリスとバティーク、シャルロットとビビアンの四人はマルーン邸の薔薇園テラスで優雅なティータイムを過ごす。
 いくつかの三つ編みを結ってひとまとめにした少しふくよかな女性はハラルシュ国のアリス王女殿下。ウィリアムとブランドンに請われてバティークとの見合いの為にひと月滞在しに来たバツイチ王女である。中東の王に嫁ぐもあっという間にその存在を忘れ去られ、真っ白を通り越してステルス能力を発露させた挙句に返品されたという経緯を持つ。

「毎朝毎晩、後宮では朝食会やお茶会ヨガ会など、とにかく色んなイベントがあるのですが、そこで凄まじい女の闘いが繰り広げられるのです。朝食のサラダに芋虫が入るのは古典的で、普通のミルクだと思って飲んだら媚薬や興奮剤が入っていたり、お茶会で使用人の間男をリークされて公開断罪が行われたり」
「めちゃくちゃ楽しそう!」
 元王女が手を叩いて喜ぶ。
「そういうのを毎日見ていたら、つい妄想を刺激されてしまって。ペンを持つ手が止まらなくなって……私はだんだん部屋から出ずに小説ばかり書くようになりました。またその小説を一部の妃や侍女たちが夢中で読む悪循環が生まれて。続きをねだられているうち、あっという間に五年が経ちました」
「五年!?」
 兄妹と親友が声を揃える。
「ええ。その間……というか、後で聞いたら嫁いだ当初、私は他の妃たちの奸計で病に臥せっていることになっていたらしいのですが……それで結局終わりまで一度も王からのお渡りはなく、それさえも私は忘れて没頭しましたし、王は何年も『小説を書くのに忙しい』と他の妃から口伝いに耳にされていたらしくて。全五十巻にも渡る大作を仕上げた後で『小説家を雇った覚えはない』と離縁されてしまったのです」
 シャルロットが嬉しそうに肩を揺らす。
「そんなに夢中になれるものがあるなんて羨ましいです! その五十巻、手に入りますか!? 読みたいわ、ねぇ、ビビ」
 ビビアンも高速で頷いて賛同したが、生憎と大作はあまりに明け透けに書かれていたため、後宮図書室に未来永劫保管されることになってしまった。もはや作者自身も二度と手にすることは叶わない。
「五十巻も書いたのに、手元に残せなかったなんて残念でしたね」
 バティークが気の毒そうに垂れ目を伏せる。だけどアリスは首を振った。
「いいえ、それは全然良いのです。嫁いでいたのも夢の中……小説の中の話だったように思えるくらいで。全部あちらに置いてきました」
 アリスは穏やかに返す。
 嫁いだ日に行われた、形だけの結婚式。黒くて長い髪、浅黒い肌の精悍な元夫。一度だけ見つめ合った金色の瞳は、この世で見たどんな宝石よりも綺麗だった。
 バティークは遠い目をした見合い相手の女を見遣る。


「……小説はいくらでも書けますから。バティーク様が主人公のお話でも書きましょうか。私、リクエストに応えて書くのは得意なんです。鍛えられましたから」
 年上の女はいたずらな瞳で妹をちらりと見てから目線をバティークに戻す。
「え」
 バティークは少し動揺した様子を見せたが、いえいえとウェーブのかかる金の髪を振った。
「せっかくお越し頂いているのですから、机ではなくまだまだリンドの素敵な場所を見て回って頂かねば」
「あらまあ、本当にそうですね。私ったら」
 ふふふふふ。
 王女は柔らかそうな頬にえくぼを作る。バティークも釣られて微笑んだ。

 リンドで気候の良い五月を選び、アリスは首都アリンドを訪れた。一人の侍女と護衛、わずかな荷物と肌身離さず持ち歩くペンとノート。それだけでも出戻り王女の人柄が知れる。始めの一週間を王城で過ごし、見合いの席と小規模だったがウィリアム主催で歓迎の宴が行われた。次の一週間はバティークとアリス、周囲の人間を伴った公の場で逢瀬を繰り返し、そして今週、ブランドンの意向で王女はマルーン家への滞在期間に入った。父と妹、その夫や親友ともプライベートダイニングで食事を重ねている最中である。

 アリスはどこをとっても品が良く、気質も穏やかで全員が直ぐに彼女を受け入れた。一見それは長所なようで、自己主張が薄く個性がない短所と背中合わせでもある。けれど全員が『バティークにぴったりじゃないか』と判を押した。
 シャルロットなどはすっかり懐いて姉のように思っている。
 バティークは見合いが現実となった日から散り散りに引き裂かれそうな、混沌として渦を巻きそうな厄介で複雑な胸中にあるというのに、誰も彼もが呑気なものだ。嬉しそうな妹を見ながら、兄の口からは時々溜息がこぼれた。


 ****

「全く、どうしろというんだ」
 肩を落とし、垂れ目は夜の自室でひとり呟く。

 何度も強く断ったのに、ウィリアムも父も話を聞かずアリスが招かれる段取りがどんどん進んでしまった。『会わねば始まらない』の一点張りで、頼りにしていた義弟の力も及ばなかった。いや、あの有能過ぎる義弟はもしかするとあちら側の可能性もある。孤立無援、孤軍奮闘、背水の陣……バティークには後がない。
 アリスの話を嬉しそうに聞いていた可愛いミルクティー色の生き物をぼんやりと思い浮かべる。
「今日も可愛かった……」
 将来的に義姉になるかもしれないアリスとの顔合わせのため、今週はビビアンと泊まりに帰って来ているのだ。だから、毎日会える。

 改めて人妻になってもう十か月だろうか。
 時折ドキリとする程、美しい女の顔を見せるようになった。
 特にジェフが側にいる時に酷い。指の動きひとつひとつが艶めかしくて嫌になる。

 ロティの可愛さも美しさも、先に見つけたのは僕なのに。

 だけど狂った情念は一瞬己の胸を焦がした後で、妹夫婦と話す内に不思議と霧散した。
 分かっているのだ。幸か不幸か分別は有る。
 妹じゃなければと、あの頃何度思っただろう。
 だけど血の繋がった妹だと分かって、やっぱり堪らなく嬉しかったのも事実だ。
 シャルロットをちゃんと妹として可愛いと思う。ジェフを政治家として頼もしく思っているし、尊敬している。実行力に判断力、人脈に頭脳……今の所、全く歯が立たぬ位には経験値に圧倒的な差があるのだから、父の言う通り妹を任せられるのは自分ではなくジェフだろう。

 だけど、と壁にかかった沢山の家族写真を眺めてバティークは迷子のような気持ちになる。

 渇望の果てに降ってきた妹なのだ。
 天からのギフトはリンド一洗練された美しい妹で、あの分岐点の日に自分を塗り替えた。そんなシャルロットを大事に思ったって、それは僕の罪ではない。何度も思った『本当は偽の妹なんじゃないか』という疑惑が胸の奥底を食い荒らし、父の回顧を聞いた後でも完全に滑らかな状態には戻らなくなった。

 それは事情があったにせよ、兄と透明な壁を作っていたシャルロットのせいでもあり、
 偽の妹にのぼせ上がるなと批判した眼鏡のせいでもあり、
 契約結婚だと打ち明けてきた宰相のせいでもあり、
 真実を恐れて追求しようとしなかった自分のせいでもあった。

 今日になってもまだシャルロットが欲しいのか?
 時々、自分自身に尋ねてみる。
 だけどまだ、バティークに答えは見えない。
 そんな自分にアリスとの結婚など遠い現実にしか思えなかった。


 部屋をノックする音がして、バティークは返事と共にドアへと向かう。
「バティーク様、外で飲まない? ってジェフ様が」
「え?」
 ドアを開けると赤毛がボトルを二本掲げ、その後ろで明らかに外面用の爽やかな笑顔を向ける義弟がいる。
「やぁ」
「ジェフ! いつ?」
「さっき着いた。ロティはシャワーだ。良いワインを貰ったから父上か君と一緒に飲もうかと思って」
「私もちょっとご相伴に預かろうと思って」
「ビビアンは遠慮しろと言ったんだが」
「なにおう~!」
 ボトルを抱える元王女に苦笑して、三人は中庭にあるカウチとダイニングテーブルのある一画へと向かう。既にワイングラスと摘まみも用意されていた。
「ジェフ、仕事が忙しいんじゃ?」
「忙しいのはいつものことだ。だがカーターとしても遠からず縁者になるかもしれない王女だしな。この時世でハラルシュとの国交を考えるなら多少他を疎かに……最優先にしても後で釣りが来る。このひと月は仕事も強引に部下たちへ割り振ってあるんだ。何より、大切な兄上の見合い。失敗は許されない……だろう?」
「いろいろ言ってますけど、ロティがこっちにいるから泊まりに来ているだけでしょう?」
「んぁ~、ばれたか」
 半目のバティークにジェフが頭を掻く。
「ジェフ様のその失敗は許されないって、どういう失敗を指してるのよ? 今回は破談もありの自由見合いでしょうに」
「さぁ?」
 肩を竦めた義弟がコルクを抜いたワインをグラスに三つ注いだ。オレンジ色の光が優しく照らすテーブルで、各自がグラスを掲げる。

「乾杯」

 何に乾杯なんだ。心の中で毒づきながらバティークは一口飲む。
「あ、いい。凄く好みです、美味しいですね」
「ん~! 美味しい~!」
「んん、良い香りだ。いいね、ハラルシュ産ワイン」
 ブホッとバティークが噎せる。
「どうした、バティーク」
「いや、別に……」
「先週は観光にお連れしたそうだね。どうだった? 殿下は楽しそうだったか?」
「ええ、目をキラキラさせてアンヌルフ教会や博物館の骨をご覧になっていましたよ」
 バティークは先週同行した先でのアリスを思い出す。
 どこに連れて行っても楽しそうにして、何でも感想を述べてくれる。
「何と言うか、毒気を抜かれると言うか……肩の力が抜けた方で」
「ああ、そうだな。良くも悪くも全く飾る気がない。父上もそこが良いと」
 自分を良く見せようと思う気配もないので、バティークにも素直に何でも口にした。普段は女嫌いだったはずの自分でも、拍子抜けする程に一緒にいても抵抗がなかった。
「お腹が空いたとか、疲れたので座りたいとかも初対面から仰いますし、きちんと要望を伝えて下さるから一緒にいて楽なのです……ただ」
「ただなぁに?」
 ビビアンが黙った公爵を見る。
「彼女は全てを見透かしている。僕が見合いに乗り気でないことも」
「バティーク」
 ビビアンもジェフも、星空の下で悲し気に垂れ目を伏せる男を見る。
「……わかってるさ。僕は、頭がおかしい……いつまでもロティが可愛いんだ」
「バティーク様、その気持ち、私もわかるのよ」
「俺もわかる」
 あっさりと二人が同意して、いけないことを告白したはずのバティークは肩透かしを食らう。
「え、意味分かってくれてる?」
「あのねえ、バティーク様。ロティって本当にめちゃくちゃ可愛いのよ。セバスちゃんだってテルミアたんだってラブなのよ? 私だって大大大大大大大好きなこの世でたった一人の親友なんだから! 本当はこんな枯れたおじさんにあげたくなんかなかったわよ」
 ジェフが苦笑いでビビアンを見る。
「バティーク様だけが特別な気持ちでロティを思っている訳ないじゃない。私が男でも行くわよ!? ロティに」
「まぁビビアンはさておき。
 バティークがロティを大事に想っているのは父上も俺も勿論分かっている。兄以上の気持ちが混じっているのもな。分かっていないのはシャルロットだけだ……だけどはっきり言うが、諦め時はある。悪いが俺は二度と手離すことはない。子も産ませる」
 ハッキリと妹の夫が正しく引導を渡そうとしてくる。言ってることはこの世の地獄だ。だけど義弟の目尻の皺はどこまでも優しくて、バティークは情けなくて泣きたくなった。
「……知っていますよ」
 極上のワインが喉を滑り落ちていく。
「バティーク様、いくらアリス様があなたに最高だったとしても、曇り切った目で見ている限り、真実には辿り付けないわ。いい加減目をお覚ましなさいな。ロティにとってもあなたにとってもそれが最善の幸福よ」
 ビビアンもジェフも、憎らしいほど良い顔で、バティークを見つめている。
「~~~~~~~~あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 あ、壊れちゃった。
 言いながら、ビビアンがドボドボおかわりを注ぎ足す。手に入りにくいワインなんだから、ちょっとずつ味わってくれとジェフが注意する。
 ブランドンが別の高級ワインを手に屋敷から歩いてくる。
 バティークはぬるま湯の自分を鼓舞するかのごとく、その晩三度ほど叫んだ。
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