4 / 25
4 黛花魁の人形を作るんですよ
しおりを挟む
またも、
「数も多うて、豪華六四体だっせぇ」
横合いから庄助が口をはさんだ。
小屋に一歩入れば、いきなり『浅茅ヶ原一ツ家』の恐ろしい場面が展開する。
鬼婆が包丁を片手に、妊婦に迫る場面。
観音の化身である童子を殺めようとするのを、鬼婆の娘が必死に諫める場面が続く。
「今にもこちらを向いて、襲って来そうですな」
小日向屋も、老婆の人形の出来に、思わず溜め息をつく。
胴組みは『提灯胴』と呼ばれる、提灯のような円筒である。
着物を脱がせれば身も蓋もない、空虚な張り子、張りぼてだった。
反面、頭、手、足などは精緻に作られ、本物らしく凝った衣装を着せているので、生きているかのように見える。
「小日向屋さん。まさに、『信心と遊楽の一体を目指す』です。ご当地、浅草寺の縁起にも関わる題目なのが良いでしょう。観音さまの利生譚ですから」
喜三郎は、観音を信仰しているので、〝観音さま〟の一語に、思わず力がこもる。
市中の話題を当て込んだ出し物だった。
今年になって、人気の歌川国芳が、一ツ家の絵馬を観世音開帳に合わせて奉納し、大評判になっている。
「けど、話がちとおかしいような……。浅茅が原の鬼婆と、安達ヶ原の鬼婆が混ざってやしませんか」
小日向屋が矛盾を指摘した。
浅茅ヶ原の言い伝えでは、『娘を餌に旅人を誘い込んで殺す老婆がいたが、ある夜、娘が旅人の身代わりになって死に、悔やんだ鬼婆が姥ヶ池に身を投げて死んだ』という筋立てである。
「『妊婦の腹を割いて、胎児の生き肝を取り出す』ってーのが、安達ヶ原の鬼婆伝説なのは、じゅうじゅう存じてますがね。鬼婆の恐ろしさを増すほうが一層、でえじかと思いやしてね」
最初は間違いに気付かず、場面の想を練っていたが、途中で気付いた。
が、出し物の面白さ、扇情性を優先するために、あえて混ぜた。
「けど、喜三郎さん。これだけでは、まだ足りませんな」
小日向屋は、またも意地悪く呟いた。
いや、意地悪くというより、心配げというほうが当たっているだろう。
客の入り、金の入り具合に関しては、小日向屋と喜三郎は、一蓮托生なのだから。
思案に、場が重く沈み込んだ。
「そや。聞いてんか」
庄助が突然、頓狂な声を上げた。
「日本堤で水茶屋をしてた親父からから聞いた話やけど。あの水茶屋の婆ァ、昨日、ぽっくり死によりましてんて」
「え」
喜三郎は、絶句した。
喜三郎は、地震のおり助け起こした縁で、水茶屋の老婆と懇意になっていた。
「それは気の毒に。あの婆さんのお陰で、真に迫った人形が作れたのだがなあ」
梅干しのように皺くちゃだが、金壺眼を鋭く光らせた、老婆の顔が目に浮かんだ。
「ま、鬼気迫る、極悪非道な鬼婆の人形だから、出来上がりを見ねえほうが良かったかもしれねえな」
今回の一ツ家の生人形の主役、鬼婆の顔には、凝りに凝った。
水茶屋の姥の顔を絵に写しとり、おかげで迫真の人形が出来上がった。
老婆は、若い頃には、客を無理矢理ぐいぐい引っ張り込む噂で悪名高い、羅城門河岸の女郎をしていたという。
まさに鬼婆がこの世にいれば、かくやという絶好の素材だった。
「婆さんには悪いが……。これは使えるぞ」
名案が閃いた喜三郎は、膝を打った。
「小日向屋さん。婆さんが亡くなったことを吹聴するんですよ。で、この人形が、夜な夜な小屋の中で恐ろしい声を上ると、噂を流すんです」
怪異話は、大衆に受ける。
早々に、前宣伝のための引き札にされるだろう。
「『水茶や姥の魂入候とて大評判大入になる』っちゅうわけでんな。そうなれば、もう一度、いや、何度でも吉原に連れて行ってもらえまっせ。剛毅な小日向屋はんにー」
庄助が、間の手のように、口を挟んだ。
『一ッ家』に続いて、『為朝島廻り』『粂の仙人』『吉原仮宅』などの場面をざっと見て回った小日向屋は、
「目玉が『一ッ家』では、ちょいと弱いですな。興行前に、色刷りで引き札を刷ってもらうには無理がある。辰五郎さんに頼んで、次からは、竹田絡繰りの人形と興行をさせてもらいましょうかね。竹田の人形のほうが、よっぽど当て込みが上手い」と、渋い結論を出した。
またも竹田縫之助の肩を持つ小日向屋の言葉に、喜三郎の堪忍袋の緒が切れた。
「あんなつまらねえ木偶のほうが勝ってるたあ、どういう了見だよ。いくら金主さまだからって、言って良いことと悪いことがあるんだよ」
〝破談〟覚悟で、小日向屋の分厚い胸ぐらを掴み、四角い顔を見下ろした。
「こちらは、既に三百両注ぎ込んでますからね。喜三郎さんは〝当て込み〟が弱い。弱いんですよ。わたしは本当のことを言っているだけですよ。それを力尽くでとは無体な」
恰幅の良い小日向屋が、太短い腕を目一杯に伸ばす。
痩躯の喜三郎の胸ぐらを掴み返して、揉み合いになった。
両者の剣幕に、小日向屋の若衆や丁稚がおろおろする。
「まあまあ。今になって喧嘩はあらしまへんで。どちらはんも、興行間近の今ここで手ぇ引いたら、大損ですがな」
庄助が猿顔をさらに紅くにして、間に割って入った。
「中に立ってもろた、辰五郎親分の顔もありまっせ。辰五郎親分の機嫌を損ねたら、兄ぃは、この先、江戸で興行できまへんで。それにや。小日向屋さんかて、火事のとき、〝を〟組はんに、あんじょう、火ぃ消しに来てもらえんようになりまっせ」
庄助は飛び上がらんばかりになりながら、短い腕を振り回す。
珍妙なさまに、喜三郎も小日向屋も、可笑しくなった。
憑き物が落ちたように冷静になり、お互いの手を離した。
「ところで、黛花魁のことでっけどなぁ」
庄助は、絶好の間合いを見逃さない。
「え。黛がどうかしたのかい」
黛の名を聞いただけで、先程の怒りはどこへやら、小日向屋は、相好を崩した。
苦虫を噛み潰したような顔が、恵比寿顔に豹変する。
「北町奉行の井戸対馬守様から、ご褒美を賜ったて、読売(瓦版)に書いてありましたがな。たいした評判ですなあ」
「ほお。庄助さんも知ってたのかい。そんなに評判なのかね」
小日向屋は、ますます目尻を下げた。
細い目がなくなってしまう。
「黛はん自身も大きな被害を被らはったのに、大枚金三十両もはたかはって、御救小屋へ炊き出しの鍋を、仰山、贈らはったそうでんなぁ。みんな、黛はんの善行に感謝するやら、感心するやら。小日向屋はんは、大店の奥ででんと座ってはるから、下々の噂に疎いかも知れまへんけどなぁ。町中、黛はんの噂で、そらもう、ほんまに持ちきりでっせぇ」
庄助は、さすがに舌先三寸で生きている口上である。
たちまち小日向屋の機嫌をとることに成功した。
「黛は、世情を救済する観音さんというわけだな」
小日向屋は、少し白髪の混じった鬢の当たりを、得意げに撫でた。
喜三郎は〝観音〟という一語に、頭に血が上った。
どうせ、売名のためだろう。
金は小日向屋にねだったか、でなきゃ、他の馴染みに出させたに違いねえ。
こざかしい真似が人々の賞賛を受けていることに、むかっ腹が立った。
遊び女の話題に、篤く信仰する観音さまの御名が出るなど、汚らわしいにもほどがある。
そうだ。
腹立ち紛れに、黛を利用することを思いついた。
黛を、助兵衛な客どもが大喜びするような人形に仕立ててやろう。
客受けと、ささやかな意趣返しが、一挙にできる。
「小日向屋さん。良い案が思いつきましたぜ」
喜三郎は、黒い笑いを隠し、満面の笑みを作った。
「黛花魁の人形を作るんです。この度の興行では、吉原仮宅で、遊女が化粧やら髪結いやら、身仕舞い(身ごしらえ)する、〝内証〟の場を作ったんですがね。それだけじゃ、趣向が足りないと苦慮してたんでさあ」
「おお。そりゃいい。まさに本当の〝当て込み〟ですな」
案の定、小日向は、芒で切ったように細い目を輝かせ、身を乗り出した。
「黛さんを人形に写すにゃ、もう一度、間近でじっくりと見てえんです。特に、肌の色を確認してえんですが……」
「合点承知の助ですよ。わたしを誰だと思ってるのですか。それに、今の吉原は、仮宅での営業ですからね。なおさら融通も利く。早速、明日にでも、手筈を整えますからね」
小日向は、裏口の木戸をくぐり、さっさと大小屋の外に出ていく。
まだ子供じみた顔立ちの若衆と、縞木綿に前掛けの丁稚が、大慌てで後を追った。
「数も多うて、豪華六四体だっせぇ」
横合いから庄助が口をはさんだ。
小屋に一歩入れば、いきなり『浅茅ヶ原一ツ家』の恐ろしい場面が展開する。
鬼婆が包丁を片手に、妊婦に迫る場面。
観音の化身である童子を殺めようとするのを、鬼婆の娘が必死に諫める場面が続く。
「今にもこちらを向いて、襲って来そうですな」
小日向屋も、老婆の人形の出来に、思わず溜め息をつく。
胴組みは『提灯胴』と呼ばれる、提灯のような円筒である。
着物を脱がせれば身も蓋もない、空虚な張り子、張りぼてだった。
反面、頭、手、足などは精緻に作られ、本物らしく凝った衣装を着せているので、生きているかのように見える。
「小日向屋さん。まさに、『信心と遊楽の一体を目指す』です。ご当地、浅草寺の縁起にも関わる題目なのが良いでしょう。観音さまの利生譚ですから」
喜三郎は、観音を信仰しているので、〝観音さま〟の一語に、思わず力がこもる。
市中の話題を当て込んだ出し物だった。
今年になって、人気の歌川国芳が、一ツ家の絵馬を観世音開帳に合わせて奉納し、大評判になっている。
「けど、話がちとおかしいような……。浅茅が原の鬼婆と、安達ヶ原の鬼婆が混ざってやしませんか」
小日向屋が矛盾を指摘した。
浅茅ヶ原の言い伝えでは、『娘を餌に旅人を誘い込んで殺す老婆がいたが、ある夜、娘が旅人の身代わりになって死に、悔やんだ鬼婆が姥ヶ池に身を投げて死んだ』という筋立てである。
「『妊婦の腹を割いて、胎児の生き肝を取り出す』ってーのが、安達ヶ原の鬼婆伝説なのは、じゅうじゅう存じてますがね。鬼婆の恐ろしさを増すほうが一層、でえじかと思いやしてね」
最初は間違いに気付かず、場面の想を練っていたが、途中で気付いた。
が、出し物の面白さ、扇情性を優先するために、あえて混ぜた。
「けど、喜三郎さん。これだけでは、まだ足りませんな」
小日向屋は、またも意地悪く呟いた。
いや、意地悪くというより、心配げというほうが当たっているだろう。
客の入り、金の入り具合に関しては、小日向屋と喜三郎は、一蓮托生なのだから。
思案に、場が重く沈み込んだ。
「そや。聞いてんか」
庄助が突然、頓狂な声を上げた。
「日本堤で水茶屋をしてた親父からから聞いた話やけど。あの水茶屋の婆ァ、昨日、ぽっくり死によりましてんて」
「え」
喜三郎は、絶句した。
喜三郎は、地震のおり助け起こした縁で、水茶屋の老婆と懇意になっていた。
「それは気の毒に。あの婆さんのお陰で、真に迫った人形が作れたのだがなあ」
梅干しのように皺くちゃだが、金壺眼を鋭く光らせた、老婆の顔が目に浮かんだ。
「ま、鬼気迫る、極悪非道な鬼婆の人形だから、出来上がりを見ねえほうが良かったかもしれねえな」
今回の一ツ家の生人形の主役、鬼婆の顔には、凝りに凝った。
水茶屋の姥の顔を絵に写しとり、おかげで迫真の人形が出来上がった。
老婆は、若い頃には、客を無理矢理ぐいぐい引っ張り込む噂で悪名高い、羅城門河岸の女郎をしていたという。
まさに鬼婆がこの世にいれば、かくやという絶好の素材だった。
「婆さんには悪いが……。これは使えるぞ」
名案が閃いた喜三郎は、膝を打った。
「小日向屋さん。婆さんが亡くなったことを吹聴するんですよ。で、この人形が、夜な夜な小屋の中で恐ろしい声を上ると、噂を流すんです」
怪異話は、大衆に受ける。
早々に、前宣伝のための引き札にされるだろう。
「『水茶や姥の魂入候とて大評判大入になる』っちゅうわけでんな。そうなれば、もう一度、いや、何度でも吉原に連れて行ってもらえまっせ。剛毅な小日向屋はんにー」
庄助が、間の手のように、口を挟んだ。
『一ッ家』に続いて、『為朝島廻り』『粂の仙人』『吉原仮宅』などの場面をざっと見て回った小日向屋は、
「目玉が『一ッ家』では、ちょいと弱いですな。興行前に、色刷りで引き札を刷ってもらうには無理がある。辰五郎さんに頼んで、次からは、竹田絡繰りの人形と興行をさせてもらいましょうかね。竹田の人形のほうが、よっぽど当て込みが上手い」と、渋い結論を出した。
またも竹田縫之助の肩を持つ小日向屋の言葉に、喜三郎の堪忍袋の緒が切れた。
「あんなつまらねえ木偶のほうが勝ってるたあ、どういう了見だよ。いくら金主さまだからって、言って良いことと悪いことがあるんだよ」
〝破談〟覚悟で、小日向屋の分厚い胸ぐらを掴み、四角い顔を見下ろした。
「こちらは、既に三百両注ぎ込んでますからね。喜三郎さんは〝当て込み〟が弱い。弱いんですよ。わたしは本当のことを言っているだけですよ。それを力尽くでとは無体な」
恰幅の良い小日向屋が、太短い腕を目一杯に伸ばす。
痩躯の喜三郎の胸ぐらを掴み返して、揉み合いになった。
両者の剣幕に、小日向屋の若衆や丁稚がおろおろする。
「まあまあ。今になって喧嘩はあらしまへんで。どちらはんも、興行間近の今ここで手ぇ引いたら、大損ですがな」
庄助が猿顔をさらに紅くにして、間に割って入った。
「中に立ってもろた、辰五郎親分の顔もありまっせ。辰五郎親分の機嫌を損ねたら、兄ぃは、この先、江戸で興行できまへんで。それにや。小日向屋さんかて、火事のとき、〝を〟組はんに、あんじょう、火ぃ消しに来てもらえんようになりまっせ」
庄助は飛び上がらんばかりになりながら、短い腕を振り回す。
珍妙なさまに、喜三郎も小日向屋も、可笑しくなった。
憑き物が落ちたように冷静になり、お互いの手を離した。
「ところで、黛花魁のことでっけどなぁ」
庄助は、絶好の間合いを見逃さない。
「え。黛がどうかしたのかい」
黛の名を聞いただけで、先程の怒りはどこへやら、小日向屋は、相好を崩した。
苦虫を噛み潰したような顔が、恵比寿顔に豹変する。
「北町奉行の井戸対馬守様から、ご褒美を賜ったて、読売(瓦版)に書いてありましたがな。たいした評判ですなあ」
「ほお。庄助さんも知ってたのかい。そんなに評判なのかね」
小日向屋は、ますます目尻を下げた。
細い目がなくなってしまう。
「黛はん自身も大きな被害を被らはったのに、大枚金三十両もはたかはって、御救小屋へ炊き出しの鍋を、仰山、贈らはったそうでんなぁ。みんな、黛はんの善行に感謝するやら、感心するやら。小日向屋はんは、大店の奥ででんと座ってはるから、下々の噂に疎いかも知れまへんけどなぁ。町中、黛はんの噂で、そらもう、ほんまに持ちきりでっせぇ」
庄助は、さすがに舌先三寸で生きている口上である。
たちまち小日向屋の機嫌をとることに成功した。
「黛は、世情を救済する観音さんというわけだな」
小日向屋は、少し白髪の混じった鬢の当たりを、得意げに撫でた。
喜三郎は〝観音〟という一語に、頭に血が上った。
どうせ、売名のためだろう。
金は小日向屋にねだったか、でなきゃ、他の馴染みに出させたに違いねえ。
こざかしい真似が人々の賞賛を受けていることに、むかっ腹が立った。
遊び女の話題に、篤く信仰する観音さまの御名が出るなど、汚らわしいにもほどがある。
そうだ。
腹立ち紛れに、黛を利用することを思いついた。
黛を、助兵衛な客どもが大喜びするような人形に仕立ててやろう。
客受けと、ささやかな意趣返しが、一挙にできる。
「小日向屋さん。良い案が思いつきましたぜ」
喜三郎は、黒い笑いを隠し、満面の笑みを作った。
「黛花魁の人形を作るんです。この度の興行では、吉原仮宅で、遊女が化粧やら髪結いやら、身仕舞い(身ごしらえ)する、〝内証〟の場を作ったんですがね。それだけじゃ、趣向が足りないと苦慮してたんでさあ」
「おお。そりゃいい。まさに本当の〝当て込み〟ですな」
案の定、小日向は、芒で切ったように細い目を輝かせ、身を乗り出した。
「黛さんを人形に写すにゃ、もう一度、間近でじっくりと見てえんです。特に、肌の色を確認してえんですが……」
「合点承知の助ですよ。わたしを誰だと思ってるのですか。それに、今の吉原は、仮宅での営業ですからね。なおさら融通も利く。早速、明日にでも、手筈を整えますからね」
小日向は、裏口の木戸をくぐり、さっさと大小屋の外に出ていく。
まだ子供じみた顔立ちの若衆と、縞木綿に前掛けの丁稚が、大慌てで後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる