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第2章
第7話『グレイツァの門の前で』
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──都市が近づくにつれ、空気が変わってきた。
荷馬車の車輪が硬い石畳に乗るたび、振動が全身に伝わる。
カイルは車窓の向こう、徐々に近づいてくる城壁を眺めていた。
それは、まるで要塞のようだった。巨大な門と高い城壁に囲まれ、何層もの防御構造を備えている。
「うわあ……やっぱり、大きいなあ」
ミリエルが感嘆の声を漏らす。
「久しぶりに見たけど、やっぱり圧倒されちゃうわね……グレイツァ」
ミリエルは王家直轄の名門貴族の出身だった。今は没落しているが、かつてはこの都市に何度も訪れていたことがある。それでも、年月の経過と共に見上げる視線には、かつての記憶とは異なる感慨があった。
「……懐かしい、ような……少し、寂しいような」
ミリエルがつぶやく。
「ここには、何度か来たことがあるんだな」
「うん。子供の頃に、父や母と一緒にね。あの頃は、何もかもが輝いて見えたの」
微笑む横顔に、カイルは一瞬だけ目を留めた。だが、それ以上は何も言わず、再び視線を門へ戻す。
やがて馬車は、門前の行列に並ぶ。
出入りする人々は、旅商人、傭兵、巡礼者──そして、浮ついた服装の貴族もちらほら混じっていた。
「にぎやかね。お祭りでもあるのかしら?」
「どうかな……この時期なら、収穫祭だろうか。商人が多いのは、その準備かもしれない」
ミリエルは目を輝かせて、行列を見渡した。
「じゃあ、美味しいものがたくさん売ってるかも!」
目を輝かせるミリエルの姿に、カイルは口元をわずかに緩める。
「お前って、ほんと元気だな」
「へへっ。生きてるだけで丸儲け、って思わない? だから私は、楽しいことには素直でいたいの!」
やがて、門番の番が回ってくる。
「身分証は?」
カイルが言葉を探す前に、同行していた商人の男が口を開いた。
「この子たちは、うちの護衛です。道中で命を救ってくれましてね」
門番は一瞬目を細めたが、商人の証書を確認し、無言で通行を許可する。
「礼を言うよ」
「いえいえ、こちらこそ助けていただきましたから」
無事、門をくぐる。
視界が一気に開けた。
石畳が整備された大通り、道の両脇には屋台や露店が軒を連ね、街路樹の緑が陽光を反射して揺れている。
子供たちの笑い声と、商人の呼び声が交錯する。
カイルは、ひとつ深呼吸した。
──新しい舞台が始まる。
「さ、行こっかカイル! まずは宿探し、でしょ?」
「ああ。できれば、あまり高くない場所を」
「まっかせて! 辺境で鍛えた値切り交渉術、見せてあげるんだから!」
元貴族でありながら、たくましく生きる彼女の後ろ姿に、カイルは少しだけ安心感を覚えていた。
自分は変わった。
体内から魔素を生む“異能”という孤独を背負いながら──それでも、誰かと共にあることで歩いていける。
グレイツァ。
それは、この物語が再び動き出す“街”だった。
《つづく》
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※ここまでお読みいただきありがとうございます!
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荷馬車の車輪が硬い石畳に乗るたび、振動が全身に伝わる。
カイルは車窓の向こう、徐々に近づいてくる城壁を眺めていた。
それは、まるで要塞のようだった。巨大な門と高い城壁に囲まれ、何層もの防御構造を備えている。
「うわあ……やっぱり、大きいなあ」
ミリエルが感嘆の声を漏らす。
「久しぶりに見たけど、やっぱり圧倒されちゃうわね……グレイツァ」
ミリエルは王家直轄の名門貴族の出身だった。今は没落しているが、かつてはこの都市に何度も訪れていたことがある。それでも、年月の経過と共に見上げる視線には、かつての記憶とは異なる感慨があった。
「……懐かしい、ような……少し、寂しいような」
ミリエルがつぶやく。
「ここには、何度か来たことがあるんだな」
「うん。子供の頃に、父や母と一緒にね。あの頃は、何もかもが輝いて見えたの」
微笑む横顔に、カイルは一瞬だけ目を留めた。だが、それ以上は何も言わず、再び視線を門へ戻す。
やがて馬車は、門前の行列に並ぶ。
出入りする人々は、旅商人、傭兵、巡礼者──そして、浮ついた服装の貴族もちらほら混じっていた。
「にぎやかね。お祭りでもあるのかしら?」
「どうかな……この時期なら、収穫祭だろうか。商人が多いのは、その準備かもしれない」
ミリエルは目を輝かせて、行列を見渡した。
「じゃあ、美味しいものがたくさん売ってるかも!」
目を輝かせるミリエルの姿に、カイルは口元をわずかに緩める。
「お前って、ほんと元気だな」
「へへっ。生きてるだけで丸儲け、って思わない? だから私は、楽しいことには素直でいたいの!」
やがて、門番の番が回ってくる。
「身分証は?」
カイルが言葉を探す前に、同行していた商人の男が口を開いた。
「この子たちは、うちの護衛です。道中で命を救ってくれましてね」
門番は一瞬目を細めたが、商人の証書を確認し、無言で通行を許可する。
「礼を言うよ」
「いえいえ、こちらこそ助けていただきましたから」
無事、門をくぐる。
視界が一気に開けた。
石畳が整備された大通り、道の両脇には屋台や露店が軒を連ね、街路樹の緑が陽光を反射して揺れている。
子供たちの笑い声と、商人の呼び声が交錯する。
カイルは、ひとつ深呼吸した。
──新しい舞台が始まる。
「さ、行こっかカイル! まずは宿探し、でしょ?」
「ああ。できれば、あまり高くない場所を」
「まっかせて! 辺境で鍛えた値切り交渉術、見せてあげるんだから!」
元貴族でありながら、たくましく生きる彼女の後ろ姿に、カイルは少しだけ安心感を覚えていた。
自分は変わった。
体内から魔素を生む“異能”という孤独を背負いながら──それでも、誰かと共にあることで歩いていける。
グレイツァ。
それは、この物語が再び動き出す“街”だった。
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