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第00話:プロローグ:社畜、死して平穏を願う
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チカチカと明滅する視界の端で、
タイムカードのデジタル表示が『26:45』を示しているのが見えた。
(あ、これ、死んだな)
それが、俺――カズマ――の前世の最後の記憶だった。
次に目を開けた時、俺は真っ白な空間で、やけにノリの軽い「神」と名自称する存在の前にいた。
「いやー、お疲れ! 君、過労死ね。ブラック企業乙!」
「……はあ。で、俺は地獄行きですか? それとも天国でノンビリできます?」
「んー、どっちもアリだけど、ボーナスステージとして異世界転生どう?
チート能力マシマシで無双ハーレム!」
神の提案に、俺は間髪入れずに首を横に振った。
「いえ、結構です。もう働きたくない」
「えっ」
「出世も名声もいらない。無双とか、強敵との戦いとか、魔王討伐とか、
全部お断りします。俺はただ、静かに暮らしたい」
前世で失ったすべて。睡眠時間、プライベート、そして――。
「……ひとつだけ、心残りがあります。俺が飼ってた、愛犬のタロ……あいつを一人(一匹)残して死んだことだけが……」
俺の孤独な社畜生活を、唯一癒してくれた存在。俺が倒れた部屋で、主人の帰りを(俺のせいで)待たせてしまった。
「ああ、タロ君ね」 神はパチンと指を鳴らした。「心配ご無用! あの子、寿命を全うした後、こっちで俺が直々に保護してるよ」
「……本当、ですか?」
「マジマジ。あの子、ただの犬じゃないね。すごく忠義深い魂だ。
君が過労で倒れる直前、あの子も寿命が近かったけど、
君への想いだけで耐えてたフシがある。君の魂と強く結ばれすぎてるんだ」
神の言葉に、俺は心の底から安堵すると同時に、胸が張り裂けそうになった。
「……だからさ、サービスしとくよ」
神はニヤリと笑った。「君が望む『静かに暮らす』ためのセットをあげよう。
ステータスは全部平均値! 魔法も、護身用に最低限のやつだけね」
神は俺に【初級回復魔法(ヒール)】を授けてくれた。
「ただし、君の魂は『タロ』……つまり『動物』との絆が強すぎる。
たぶん、このヒール、人間に使うより動物に使ったほうが効果がデカい
『特別仕様』になっちゃったかも。まあ、ポーション代わりになるだろ」
「タロのこと、ありがとうございます。動物専門でも静かに暮らせるなら十分です」
こうして俺は、穏やかなスローライフを求め、異世界に降り立った。
……この「特別仕様」が、俺のスローライフを粉々にする爆弾だとも知らずに。
◇
異世界でFランク冒険者カズマとしての日々は、まさに理想郷だった。
危険な依頼は受けない。薬草採りや、たまにゴブリンを木剣で殴る程度。
だが、俺には裏の顔があった。
神の言った通り、俺の【ヒール】は動物にだけ絶大な効果を発揮した。
瀕死の野良猫がピンピンし、痩せた小鳥が羽ばたいていく。
タロへの贖罪のように、俺は傷ついた動物たちを人目を忍んで癒やし続けた。
今日も今日とて、路地裏で翼の折れた雛鳥にヒールをかけていると、
不意に背後から小さな気配がした。
「……あの」
振り返ると、そこにいた。陽光を浴びてもなお、その瞳に光を宿さない少女。
そして、その傍らで、少女を健気に支える一匹の老犬が。
それが、俺の静かな日常(スローライフ)の「終わり」を告げる鐘の音だった。
タイムカードのデジタル表示が『26:45』を示しているのが見えた。
(あ、これ、死んだな)
それが、俺――カズマ――の前世の最後の記憶だった。
次に目を開けた時、俺は真っ白な空間で、やけにノリの軽い「神」と名自称する存在の前にいた。
「いやー、お疲れ! 君、過労死ね。ブラック企業乙!」
「……はあ。で、俺は地獄行きですか? それとも天国でノンビリできます?」
「んー、どっちもアリだけど、ボーナスステージとして異世界転生どう?
チート能力マシマシで無双ハーレム!」
神の提案に、俺は間髪入れずに首を横に振った。
「いえ、結構です。もう働きたくない」
「えっ」
「出世も名声もいらない。無双とか、強敵との戦いとか、魔王討伐とか、
全部お断りします。俺はただ、静かに暮らしたい」
前世で失ったすべて。睡眠時間、プライベート、そして――。
「……ひとつだけ、心残りがあります。俺が飼ってた、愛犬のタロ……あいつを一人(一匹)残して死んだことだけが……」
俺の孤独な社畜生活を、唯一癒してくれた存在。俺が倒れた部屋で、主人の帰りを(俺のせいで)待たせてしまった。
「ああ、タロ君ね」 神はパチンと指を鳴らした。「心配ご無用! あの子、寿命を全うした後、こっちで俺が直々に保護してるよ」
「……本当、ですか?」
「マジマジ。あの子、ただの犬じゃないね。すごく忠義深い魂だ。
君が過労で倒れる直前、あの子も寿命が近かったけど、
君への想いだけで耐えてたフシがある。君の魂と強く結ばれすぎてるんだ」
神の言葉に、俺は心の底から安堵すると同時に、胸が張り裂けそうになった。
「……だからさ、サービスしとくよ」
神はニヤリと笑った。「君が望む『静かに暮らす』ためのセットをあげよう。
ステータスは全部平均値! 魔法も、護身用に最低限のやつだけね」
神は俺に【初級回復魔法(ヒール)】を授けてくれた。
「ただし、君の魂は『タロ』……つまり『動物』との絆が強すぎる。
たぶん、このヒール、人間に使うより動物に使ったほうが効果がデカい
『特別仕様』になっちゃったかも。まあ、ポーション代わりになるだろ」
「タロのこと、ありがとうございます。動物専門でも静かに暮らせるなら十分です」
こうして俺は、穏やかなスローライフを求め、異世界に降り立った。
……この「特別仕様」が、俺のスローライフを粉々にする爆弾だとも知らずに。
◇
異世界でFランク冒険者カズマとしての日々は、まさに理想郷だった。
危険な依頼は受けない。薬草採りや、たまにゴブリンを木剣で殴る程度。
だが、俺には裏の顔があった。
神の言った通り、俺の【ヒール】は動物にだけ絶大な効果を発揮した。
瀕死の野良猫がピンピンし、痩せた小鳥が羽ばたいていく。
タロへの贖罪のように、俺は傷ついた動物たちを人目を忍んで癒やし続けた。
今日も今日とて、路地裏で翼の折れた雛鳥にヒールをかけていると、
不意に背後から小さな気配がした。
「……あの」
振り返ると、そこにいた。陽光を浴びてもなお、その瞳に光を宿さない少女。
そして、その傍らで、少女を健気に支える一匹の老犬が。
それが、俺の静かな日常(スローライフ)の「終わり」を告げる鐘の音だった。
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