俺の静かなスローライフは終わった:モフモフを癒してただけなのに、盲目令嬢の呪いを鎮めたら「一生鎮め続けて」と溺愛ロックオンされた(胃痛)

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第02話:スローライフ崩壊、そして胃痛学園へ

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「あなたが、私の光……!」
歓喜に震える声でそう叫ぶと、少女――マリアナは、俺の首に強く抱きついてきた。

「ちょっ、待っ……!」
「お嬢様! 目が、その目が治っている!? 
まさか、不治の病と言われた『聖光の呪い』までもが!?』
老執事が腰を抜かさんばかりに叫んでいる。

(聖光の呪い? 不治の病? ちょっと待て、俺は擦り傷を治そうとしただけだぞ!?)

想定外すぎる事態に、俺の冷あせが止まらない。
こんな大事(おおごと)を起こして、スローライフなんて送れるわけがない。

「(ヤバい、ヤバいヤバい! 目立ちすぎる!)」
俺は混乱するマリアナと執事を残し、その場から全力で逃走した。
Fランク冒険者の全力ダッシュで。

……はずだった。

「確保いたしました、お嬢様」
「ありがとうございます、セバスチャン。さあ、カズマ様。お屋敷へ参りましょう」

路地を三本曲がった先。そこには先回りしていた老執事(セバスチャンと呼ばれた)と、なぜか王都騎士団の装備に身を包んだ屈強な男たちが、
そして満面の笑みを浮かべたマリアナが待ち構えていた。
……なんで執事が俺より足速いんだよ。



俺は、公爵家の馬車に「丁重に」押し込まれ、
有無を言わさずお屋敷に強制連行された。
通された応接室は、俺の安アパートが何百個も入る広さだ。

「カズマ様。改めて、私(わたくし)の人生を救ってくださり、
ありがとうございます」

目の前に座るマリアナは、先ほどの薄汚れた姿とは打って変わって、
完璧な公爵令嬢の姿をしている。
そのエメラルドグリーンの瞳が、俺だけを映している。

いや、違う。

獲物を見つけた肉食獣のように(比喩ではない)、
ギラギラとした光で俺を『捉えて』いた。まるで、
もう二度と逃がさないとでもいうように。

「いや、俺は別に……その、人違いじゃ……」
「とぼけないでくださいまし」
ピシャリ、と俺の言葉が遮られる。

「このマリアナ=フォン=アークライトが、私の世界に光を与えてくださった
恩人の顔を、見間違えるはずがありませんでしょう?」

彼女の瞳は、もう俺から一瞬も逸らされない。
物理的に「見えている」という以上に、何かに縫い付けられているかのようだ。

(ヤバい。これは「盲目的に溺愛」ってやつだ……
物理的に盲目じゃなくなった途端に、精神的に盲目になられても……)

「で、だ。カズマ君。君のその力だが」
マリアナの父であるアークライト公爵が、重々しく口を開いた。

「正直に言おう。君の力は、あまりにも危険すぎる」
「(それな!)」 俺も全力で頷きたかった。

「俺もそう思います。だから、もう二度と使いません。
静かに暮らしますんで、見逃してください」

「それは無理な相談だ」 
公爵は首を振る。

「君は、娘の『聖光の呪い』を解いた。……いや、
正確には『鎮めた』と言うべきか」

「はあ……?」

「娘の呪いは、アークライト家に伝わる強すぎる『聖魔力』の暴走。
光の魔力が強すぎて、自らの視界を内側から焼き、その存在だけで
周囲の(特に魔力に敏感な)動物を衰弱させる、厄介極まりないものだ」

(アルゴスが弱っていたのは、こいつのせいか!)

公爵は続ける。

「だが、君の魔法は、その暴走する聖魔力を『慈愛』の力で包み込み、
鎮圧した。……前代未聞だ。そんな力、制御できなければ、
次は何を『鎮め』てしまうかわからん。あるいは、何を『暴走』させるか」

(癒しの暴走で破壊って何だよ……怖すぎるだろ……)

俺が押し黙っていると、マリアナが待ってましたとばかりに口を開いた。

「カズマ様。あなたのその力を安全に制御し、そしてあなたの望む
『平穏』を守るために必要な知識が、王都の魔法学園にありますわ」

「学園? Fランク冒険者の俺が?」

「はい。特待生として、わたくしが手配済みです」
(仕事が早すぎる!)

俺は当然断ろうとした。貴族だらけの学園なんて、スローライフの対極だ。
だが、マリアナは決定的な一言を放った。

「それに……王立魔法学園の『モンスターテイマー課』には、それはそれは
愛らしく、珍しい世界中のモンスターがたくさん保護されていますのよ? 
もちろん、カズマ様の『動物特攻ヒール』の実験も兼ねてモフモフし放題ですわ」

「……(ゴクリ)」
かわいい、モンスター。モフモフ。
タロを失った俺の心に、その単語は深く、深く突き刺さった。

マリアナは俺の反応を見逃さず、畳み掛ける。
「力を制御できるようになれば、将来の平穏は確実なものになりますし。授業料も公爵家でご負担いたします。……悪いお話では、ありませんでしょう?」

(……確かに、このままじゃ公爵家に監視されてスローライフどころじゃない。
力を制御できれば、解放される……かもしれない)

「……わかった。行けばいいんだろ、学園」
俺が頷いた瞬間、マリアナの笑顔が花開く。

「まあ! では、わたくしの隣の席も用意させませんと!」
「えっ、君も来るの?」

「当たり前ですわ。私の『呪い(聖魔力)』、まだ不安定ですもの。カズマ様の『慈愛(魔力)』がそばにないと、いつまた暴走するか……」

彼女はそう言うと、俺の腕にそっと自分の手を絡ませた。
「ね? だから、ずっとそばにいて、『鎮め』続けてくださいましね?」

純粋な笑顔。しかし、その瞳の奥には「絶対に逃がさない」という強い意志。
そして、腕に伝わる彼女の魔力(聖魔力)が、俺の魔力に反応して嬉しそうに
脈打っているのがわかってしまった。

こうして、俺の静かなスローライフ計画は音を立てて崩壊した。

最強のチート能力(動物特攻&聖魔力鎮圧)を隠し、
盲目的に溺愛してくる公爵令嬢(呪い再発防止という大義名分持ち)から
逃げ(逃げられない)、平穏を取り戻すため(とモフモフのため)に学園へ通う。

カズマの「論理的な胃痛学園ラブコメ生活」が、今、始まる。

(いったん完結)
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【作者より】
もし、この作品を面白いと感じ、続きを読んでみたいと思っていただけたなら、
ぜひ応援や感想のコメントをいただけると嬉しいです!
読者の皆様からの熱い反応次第で、続きの連載を真剣に検討させていただきます。

【この後のプロット】
胃痛学園ラブコメ生活やモフモフ系の可愛い動物たちとの交流を描いた、
のんびりスローライフ系の作品にする予定です。
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