転生した武術家の生き様

一章

その男、目覚めると

「懐かしい夢を見た。」

かつて東京で闘った記憶。
そこでは数多くの敵兵をこの手で葬り去った。
また東京だけでなく日本各地でも同じく上陸してきた敵兵を自衛隊だけでなく、自分のような一癖も二癖もある連中が戦線に加わって追い払ったという。
この戦争は日本戦役と呼ばれ、のちに第三次世界大戦へと発展、最終的に終戦まで10年かかった。
それから30年ほどが経った。
身体を病に蝕まれ最期は弟子に看取られながら死んだ。
死の間際、涙に濡れた弟子の顔を覚えている。

そう、そこまでは覚えている。

それからどれ程経ったのか分からないが、気が付くと何故か3歳の少年だった。
名前は「アルト=エーテリオン」という。
ごく普通の家庭に産まれた。両親も優しく、何も不自由はない。
だが、個人的に驚いたことがある。


アルトは目を覚まし、ムクリと上体を起こした。
窓に目を向けると閉めた戸から光が漏れていた。
ベッドから出て、窓を開ける。
太陽の光が眩しく目を細めた。次第に目が慣れてきて街の姿が見えてきた。
そこには中世ヨーロッパのような建物が立ち並ぶ。
さらには髪の色が金髪や赤色など様々な髪色の人や動物の耳やしっぽが生えている人が通りを歩いていた。
一目で日本ではないことがわかる。
ここは自分の記憶している地球のどの場所でもなかったのだ。
言うなれば異世界だった。

「どうすっかなぁ」

まさかこれが転生というものかと驚いたが、自分が転生できるほどいい行いを前世でやっていたかと問われると疑問があった。
前世のアルトは、武術家として世界各地を旅をし、ときには紛争地帯に行き武装勢力テロリスト相手にかなりヤンチャをしていた。
それこそ人を殺めたこともある。
自分の技を磨くために、それを実戦で試してきたのだ。
そんな自分は地獄で閻魔に裁かれるだろうなと考えていたが、どうやらそうならなかったらしい。

(もしかしたら裁かれた後かもしれないが。)

何故転生したのかを考えても仕方がない。アルトは今後の自分の生き方を考えた。
もちろん、普通の三歳児はそんなことを考えたりしないだろう。

「まずは身体を鍛えないとな。
早死にしたら、洒落にならない。」

自分が導きだした答えがこれだった。
それから三年。毎日、鍛練を行ってきた。
初めこそ庭で拳立て、ぶら下がり腹筋、懸垂などをしているところを母親に見つかり卒倒され、父親には医者のもとに連れていかれて。
そんなこともあり、アルトは家族にバレないようにこそこそ隠れて鍛練を行っていた。
アルトがいつもの鍛練用の服に着替えをしていると母親の呼ぶ声が聞こえてくる。

「よし、朝食を食べてから日課の稽古だな」

精神は大人でも身体は子供。
腹が減っては戦はできないのだ。
アルトは部屋を出て母親と朝食が待つリビングへと駆け出した。