転生した武術家の生き様

小牟田あぎと

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一章

異世界の教え

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「まさか、ミスティさんのお兄さんが」
「はい。まぁ、兄様は騎士団長になれるだけの実力がありましたから。」

 アルトはミスティの兄が、レムリア王国最強と言われている人物であることに驚いた。

「ミスティのお兄ちゃんはすごいんだよ!」

 レイナが自分のことのように自慢する。
 自慢したがる気持ちは分からなくもないが。

「そんなに有名な兄がいるのに、何でミスティはこんな辺境に?」

 この質問にミスティは顔を暗くする。

「兄が騎士団長になってから、色々と私の方にちょっかいを出してくる輩が増えましてね。
辟易していたところに、奥様から娘の専属メイドとして働かないかと誘われて今に至ります。」

 アルトは彼女の身のこなしがただ者ではないなと感じていた。

(身内が身内ならその者もまた強者か。)

「そう言えば、アルト様?」
「うん?」
「随分と話し込みましたが、アルト様はここに鍛練に来たのでは?」

 ミスティの指摘で思い出した。

「あー。そう言えば忘れていた。」
「そうだったよ!アルト君、教えてよ!」

 知らないなかではなくなった二人に技を教えても良いとアルトは思っていた。
 だが、アルトからしてみればどこまで教えるか悩みどころだった。

「教えても良いが、何がいいのやら」
「何でもいいよ!ねっ!?ミスティ!」
「はぁ。お嬢様、危険なことなら私が止めますよ。
とは言ったものの私も少し気にはなっていました。」

(俺の技は危険だし、そもそも使えないだろう。なら彼女達に教えて使える技となるとやはり。)

 少しの間考え、アルトは発言した。

「なら合気かな」
「「あいき?」」



 合気道。
 現在、護身術として知られているが、もともとは柔道の前身である柔術から派生している武道である。
 アルトは前世で知り合った使い手に、基本的な技を少しだけ学んでいた。なので教えること自体は問題なかった。

「合気。まぁ合気道ってのは、簡単に言えば護身で使える技だな。」

 アルトは二人に説明しながら合気道の技、とくにすぐに使えるであろう技を教えていた。

(小手返し、一教、二教。他にもあるがすぐに出来るのはこのぐらいだろう。)

 この三つの技に言えるのは、刃物を持つ相手に対して有効だ。
 ましてや異世界。銃ではなく剣であるのなら使えるのでは?とアルトは考えた。

「成る程、この技はなかなか興味深いですね。
これならばお嬢様でも出来ますし、危険も少ないでしょう。」

    ミスティからお墨付きを得て指導を行った。


 教え始めて数時間後。

「えい!」

 レイナは覚えた技をアルトにかけていた。
 アルトは数時間でスムーズに動けているレイナに対して内心驚いていた。

(凄いな。重心、体捌き、力の入れ方、教えたことをすぐに出来るとはな。)

    アルトは投げられ受け身をとる。

「どう!?できてた!?」
「ああ。完璧だな。」
「やったー!」
「流石です。お嬢様。」

    ミスティは拍手してレイナを褒め称えた。
    アルトは受け身をとった際に付いた砂を払いつつレイナのもとに歩み寄る。

「後は反復練習を続けることだな」
「うん!」
「ところでアルト様。これなら街中で道場を開けるのでは?」

 ミスティはこの技で金儲けができるのではないかと思っていた。
 この世界、この時代において、剣術や礼儀作法でもその技法を学ぶにはそれなりの対価が必要になる。それだけの価値があるのだ。
 しかし、アルトはそれを笑って一蹴した。

「これにそんな価値はないですよ。
いい機会ですし、俺の持つ技・・・というか必殺技の一つをお見せします。」

 そう言うと、その辺りに生えてある木々に近づいて行った。そのうちの一本の前に立ち止まり、構えを取る。
 右足を後ろに引く。そして左手を前に、右手は拳を作り腰に置く。
 呼吸を整える。腹の底の空気を口から吐き、へその下、丹田と呼ばれるところで力を練る。
 レイナとミスティは、アルトの一挙手一投足を見ていた。アルトは何気ないいつも通りの動きなのだが、その洗練された動きに、二人は目を離せなくなっていた。

「ふんっ!!」

 ドンッ!!!
 そして放たれた右拳が木に当たる。その直後に木の幹が破裂し、後ろに倒れた。
 あまりの光景に、二人は開いた口が塞がらなかった。

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