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一章
報告
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「す、凄い!」
レイナは初めての光景に目を輝かせる。
「ふぅー。まぁ、こんなものかな。」
「これって私にもできる!?」
「いや、できないな。てか、教えるつもりがないかな。今の俺だってしばらくは痺れて腕が動かなくなる。」
痙攣している右手を二人に見せる。
アルトが先ほど放った拳は、木を内部から破壊していた。そう、この拳は相手を内部から破壊して、内臓や骨にダメージを与える。この拳こそが、前世で恐れられた所以であった。
呼吸、重心移動、スピード、力加減。これらが合わさって初めて生み出される破壊力。
レイナはシンプルに驚いていたが、ミスティは違った。
「アルト様。その技は一体?」
「言ったろ?教えるつもりがない。たとえ二人にもね。
いや、そもそも教えて何に使う?」
「それは・・・。」
「まぁ、ミスティさんの立場的に聞きたいのだろうけど。
俺は自分の手札をわざわざ教えたくないだけさ。」
「・・・。」
ミスティはそれ以上追求せず黙り込んだ。
「ミスティは何を心配しているの?」
「それは・・・。」
「それは、俺がレイナやレイナの親に牙を向けるんじゃないかと考えているのさ。
違いますか?」
「えええぇぇぇぇぇ!」
レイナが驚きの叫びを上げる。
ミスティが危険視することは当然だ。素手で木を一本へし折ったのだ。そんな子供を無視できないだろう。
「そうなの?ミスティ!?」
「ええ。そうですね。
私の立場上、無視できないですね。しかし、判断するのは領主様です。
ですが、保留ですね。すぐに報告はできないですね。」
彼女が判断するには情報が少ないのだろう。
「俺は普通の子供だし、無害だよ。」
「普通の子供はパンチで木をへし折れませんよ。」
「ごもっともで。」
その後、レイナが教えてと縋りつくなどひと悶着があったが、この日はそのまま解散となった。それからこの場所で三人は会うことになった。
領主の執務室。
一人の男性が椅子に座り、机を前に書類仕事を行っていた。
男の名は『ジェームス=フォル=クラーク』、クラーク辺境伯領の領主である。年齢は20代後半、あと一、二年で三十歳になる。貴族の中では比較的若手である。結婚後に先代が病に倒れ、そのまま亡くなってしまい若くして領主になった。
しかし、彼は優秀であった。その手腕を存分に発揮して領内を豊かにしていた。現に先代の時よりも税収が上がり、治安もよくっていた。
(さて、もう寝る時間か)
最後の書類に目を通していた。すると執務室の扉がノックされる。
「入れ。」
「失礼します。」
ミスティが入室する。
「ミスティ。君が来るとは珍しいね。何かあったのかい?」
「はい、お嬢様のご友人に関してご報告を。」
「ふむ。聞こうか。」
娘のレイナに友達ができたことは知っていた。しかし、娘の口からは「凄い男の子」しか分からなかったので、ミスティに情報を集めてもらっていた。
「名前は確か、”アルト”だったか?」
「はい。
”アルト=エーテリオン”、六歳。両親はこの街の生まれ。父親は警邏隊に所属、母親は専業主婦になります。
三代前の時に移民としてこの街に住んでおります。」
「ふむ。それだけ聞くと、普通の子供ではあるな。」
「はい。しかし・・・。」
「どうした?」
ミスティの顔が曇っていた。
自分の見たものを果たして信じてもらえれるのかという思いがあったのだ。
そんな彼女の思いをジェームスは感じ取っていた。
「言いにくいのか。」
「いえ。信じられないと思いますが、パンチで木をへし折ります。」
「はっ?」
「パンチで木をへし折ります。」
「いや、二回言わなくていいよ。」
しかし、信じにくいことではあった。なのでジェームスは考えた。
「・・・。直接会ってみるか。」
「え?」
「その少年に興味がわいた。」
ジェームスは腕を組みながらそう言った。
「よろしいのですか?」
「ああ、会う時期に関してはしばらく待ってほしいが・・・。
今、少し問題が起きててな。そうだな、一ヶ月後かな。」
思案しながら伝える。
「それは問題ございません。しかし、問題ですか?」
「ああ。」
そう言うとジェームスはミスティにある一枚の紙を渡す。
「拝見いたします。」
彼女はその紙に書かれている文章に驚愕する。
「これは、本当ですか?」
「ああ。本当のことだよ。」
ミスティはもう一度、文章に目を通す。
ジェームスはため息とともに椅子にもたれる。
「すぐにではないが、近いうちに帝国がルトアーナ国に対して戦争を仕掛けるそうだよ。」
戦いの足音が近づいていた。
レイナは初めての光景に目を輝かせる。
「ふぅー。まぁ、こんなものかな。」
「これって私にもできる!?」
「いや、できないな。てか、教えるつもりがないかな。今の俺だってしばらくは痺れて腕が動かなくなる。」
痙攣している右手を二人に見せる。
アルトが先ほど放った拳は、木を内部から破壊していた。そう、この拳は相手を内部から破壊して、内臓や骨にダメージを与える。この拳こそが、前世で恐れられた所以であった。
呼吸、重心移動、スピード、力加減。これらが合わさって初めて生み出される破壊力。
レイナはシンプルに驚いていたが、ミスティは違った。
「アルト様。その技は一体?」
「言ったろ?教えるつもりがない。たとえ二人にもね。
いや、そもそも教えて何に使う?」
「それは・・・。」
「まぁ、ミスティさんの立場的に聞きたいのだろうけど。
俺は自分の手札をわざわざ教えたくないだけさ。」
「・・・。」
ミスティはそれ以上追求せず黙り込んだ。
「ミスティは何を心配しているの?」
「それは・・・。」
「それは、俺がレイナやレイナの親に牙を向けるんじゃないかと考えているのさ。
違いますか?」
「えええぇぇぇぇぇ!」
レイナが驚きの叫びを上げる。
ミスティが危険視することは当然だ。素手で木を一本へし折ったのだ。そんな子供を無視できないだろう。
「そうなの?ミスティ!?」
「ええ。そうですね。
私の立場上、無視できないですね。しかし、判断するのは領主様です。
ですが、保留ですね。すぐに報告はできないですね。」
彼女が判断するには情報が少ないのだろう。
「俺は普通の子供だし、無害だよ。」
「普通の子供はパンチで木をへし折れませんよ。」
「ごもっともで。」
その後、レイナが教えてと縋りつくなどひと悶着があったが、この日はそのまま解散となった。それからこの場所で三人は会うことになった。
領主の執務室。
一人の男性が椅子に座り、机を前に書類仕事を行っていた。
男の名は『ジェームス=フォル=クラーク』、クラーク辺境伯領の領主である。年齢は20代後半、あと一、二年で三十歳になる。貴族の中では比較的若手である。結婚後に先代が病に倒れ、そのまま亡くなってしまい若くして領主になった。
しかし、彼は優秀であった。その手腕を存分に発揮して領内を豊かにしていた。現に先代の時よりも税収が上がり、治安もよくっていた。
(さて、もう寝る時間か)
最後の書類に目を通していた。すると執務室の扉がノックされる。
「入れ。」
「失礼します。」
ミスティが入室する。
「ミスティ。君が来るとは珍しいね。何かあったのかい?」
「はい、お嬢様のご友人に関してご報告を。」
「ふむ。聞こうか。」
娘のレイナに友達ができたことは知っていた。しかし、娘の口からは「凄い男の子」しか分からなかったので、ミスティに情報を集めてもらっていた。
「名前は確か、”アルト”だったか?」
「はい。
”アルト=エーテリオン”、六歳。両親はこの街の生まれ。父親は警邏隊に所属、母親は専業主婦になります。
三代前の時に移民としてこの街に住んでおります。」
「ふむ。それだけ聞くと、普通の子供ではあるな。」
「はい。しかし・・・。」
「どうした?」
ミスティの顔が曇っていた。
自分の見たものを果たして信じてもらえれるのかという思いがあったのだ。
そんな彼女の思いをジェームスは感じ取っていた。
「言いにくいのか。」
「いえ。信じられないと思いますが、パンチで木をへし折ります。」
「はっ?」
「パンチで木をへし折ります。」
「いや、二回言わなくていいよ。」
しかし、信じにくいことではあった。なのでジェームスは考えた。
「・・・。直接会ってみるか。」
「え?」
「その少年に興味がわいた。」
ジェームスは腕を組みながらそう言った。
「よろしいのですか?」
「ああ、会う時期に関してはしばらく待ってほしいが・・・。
今、少し問題が起きててな。そうだな、一ヶ月後かな。」
思案しながら伝える。
「それは問題ございません。しかし、問題ですか?」
「ああ。」
そう言うとジェームスはミスティにある一枚の紙を渡す。
「拝見いたします。」
彼女はその紙に書かれている文章に驚愕する。
「これは、本当ですか?」
「ああ。本当のことだよ。」
ミスティはもう一度、文章に目を通す。
ジェームスはため息とともに椅子にもたれる。
「すぐにではないが、近いうちに帝国がルトアーナ国に対して戦争を仕掛けるそうだよ。」
戦いの足音が近づいていた。
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