婚約者だった王太子に裏切られたのでその座を剥奪いたします

完菜

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019 キャロルの授業①

 それからの二週間は、修道院の生活に慣れるのに精一杯だった。修道院の朝はとても早い。日が昇る前に起きて、朝の祈りを捧げることで一日が始まる。
 朝早く起きることも新鮮だったし、毎朝決まった場所の掃除をすることが丁寧に毎日を暮らしているようで心が清々しかった。それに、この修道院の内部事情も大体把握した。

 ジンジャー修道院は、決して大きくて立派な施設ではない。王都の端にある、小さくて平民向けの施設だ。貴族の支援がないのか、施設の老朽化も激しいし食料なども豊富にある訳ではない。ギリギリの食材で、どちらかと言うと貧しい献立内容。それでもジンジャー修道院にいる女性たちは、みな笑顔で楽しそうに生活していた。

 貴族社会のように、ボス的存在がいるのかと思ったがそういった者もいなくて人間関係も良好そうに見える。ただマリーだけは、飛びぬけて孤立していた。
 誰かにいじめられていると言ったことではなく、人との壁を無意識に作っていて誰とも仲良くなろうとしていない。どうやらマリーも、この修道院に来て間もないみたいで周りも様子見をしているみたいだ。だから、孤立しているマリーに対して煩くいうような人もいない。平和に暮らせるように、お互い気をつけながら接している。
 ここで暮らす女性たちは辛い思いを経験しているから、人間不信のようになっているマリーの気持ちも分かるのだろう。

 そんな人間の集まりだから、身の上話をするのは暗黙の了解でタブー視されている。その状況を知って、キャロルはとても安堵した。自分の身の上を話す訳にはいかなかったし、嘘を重ねていくことへの罪悪感も少なからずあったから。
 だから段々と、この場所での生活がキャロルにとって居心地のいいものへと変化していった。

 そんな日々を送るキャロルは、自分の心が落ち着いてくるのを肌で感じていた。悪女のカロリーナの心も凪いでいる。
 だけど、ディルクのことだけはどうしても許すことができないようで、ちょっとでも彼のことを思い出すと苦しい程の怒りが胸を埋め尽くす。この思いだけは、何をやっても払拭できそうになかった。

 ある日、修道院長に呼ばれて彼女の執務室に招かれる。扉をノックして中に入ると、五人の修道女と修道院長が待っていた。
 五人の中には、マリーもいる。彼女たちを見て、計算を教えて欲しいと名乗り出てくれた人たちだろうと瞬時に察した。

「キャロル、こちらにどうぞ」

 修道院長がキャロルを見て、自分の横に来るように指し示す。キャロルは、言われた通り修道院長の隣に歩いて行った。
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