秘密の多い令嬢は幸せになりたい

完菜

文字の大きさ
103 / 105
第四章 幸せにつながる道

4-13

しおりを挟む
 キャスティナは、アルヴィンの兄であるクリフォードと会場に入る扉の前で待機していた。今日のお披露目はクリフォードのたっての希望で、エスコートしてもらう事になっている。何でも折角可愛い妹が出来たのに、一度もエスコートしないまま嫁に行くなんて許せないと言う事らしい。昨日初めてお会いしたのに、キャスティナの事を幼児と勘違いしているが如く可愛がられた。キャスティナは、優しい兄が沢山出来て嬉しかった。

「緊張してる?」

 クリフォードが、キャスティナの顔を覗き込む。緊張はしていたが、クリフォードを始め家族のみんなが何かあったら頼りなさいと言ってくれたのでいい具合に力が抜けた。今日は、お披露目だけあって親族関係の招待客が多い。頑張って顔と名前を、覚えなければと気合を入れる。

「クリフォードお兄様を始め、みんながいてくれるから大丈夫です。頑張ります」

 気になる事が無いと言えば嘘になる。実は今日は、エジャートン家の両親が来ている。養子になるにあたり、特にもめる事もなかったと聞いているので接触してくる事はないと思っている。気にし始めるときりがないし、考えない様にしていた。

 会場内では、シェラード公爵家に新しい娘が出来たと説明が行われている。理由としては、シャルリーヌがどうしても娘が欲しいと言う我儘でいくと言われた。もちろん貴族的な、オブラートに包んだ言い回しで説明されているが。なぜキャスティナなのかは、偶々縁があったで押し通すらしい。キャスティナは驚いたが、それが一番角が立たないと言う事でしぶしぶ納得した。

 扉が開き、クリフォードのエスコートでキャスティナは入場する。招待客の視線が降り注ぐ。今までの淑女教育を思い出し、視線に臆する事無くキャスティナは入場した。

 入場してからは、シェラード公爵夫妻と共にひたすら挨拶に回った。あらかた挨拶周りが終わり、一息つこうとクリフォードが提案する。エヴァンの元に連れて行くと言ってくれた。エヴァンを探すと、今いる位置からホールの反対側にいて人の波を縫って歩く事になる。

 ホールを移動していると、何人かの令嬢とぶつかりそうになり、すれすれですれ違う。すれ違う度に、扇子で口元を隠しキャスティナにしか聞こえない声で呟かれた。

「エヴァン様の腕の中を知ってるのは、貴方だけではなくてよ」

「エヴァンって、キスが上手なのよね」

「エヴァンって、甘え上手ではなくて?」

 キャスティナが、驚いて振り返ると扇子から覗く目が笑っている。その目を向けた後は、進行方向に向き直り人ごみの中に紛れて行った。一瞬の出来事だった。キャスティナの怒りが湧く。立て続けに三人の令嬢に、言葉をぶつけられた。地味な嫌がらせだが、後に残らず敵ながらなかなかだなと思う心もあった。

 三人とも確認したが。顔良し、スタイル良し、性格悪しだった。

 キャスティナは、眉間に皺が寄る。どんどんイライラが募っていく。淑女たるもの、如何なる時も笑顔を忘れてはいけないと言われている。これではいけないとわかっているのに、イライラが吹っ切れない。

「キャスティナ、どうかした?」

 クリフォードが、一度止まりキャスティナの顔を覗き込む。表情に出たままで、クリフォードお兄様に気づかれてしまった。一瞬、お兄様に相談する?と考えが過るがこれは違うよねと考え直す。

「大丈夫です。ちょっと疲れただけです」

 そう言っても、クリフォードは不思議そうにしている。焦れてキャスティナは、早く行こうと頼んだ。その後は、何事もなくエヴァンの元にたどり着けた。

「キャスティナ、挨拶回り終わったんだね。お疲れ様」

 エヴァンが、キャスティナを引き寄せてクリフォードからエスコートを代わってくれる。キャスティナは、エヴァンの手を取り複雑な表情をする。その表情を見て、おやとエヴァンは何かを感じ取る。

「クリフォード様、すみません。少しキャスティナと庭園に出てきます」

 クリフォードも何か察する事があったのか、黙って頷いてくれた。エヴァンが、キャスティナの手を取り歩き出す。キャスティナも黙って付いて行った。

 庭園に出ると、薔薇がライトアップされていて綺麗だ。昼間は、だいぶ温かくなってきたが夜はまだまだ冷え込む。少し寒いかなと思っていると、エヴァンが自分の上着をキャスティナに掛けてくれた。庭園の道を歩いて行くと、奥まった所にベンチがありそこに腰をかけた。エヴァンが隙間を空けずに座って来たので、キャスティナは咄嗟にベンチの端に座り直す。二人きりになり、イライラがまた再燃してしまった。

「キャスティナ、何か怒ってるの?」

 エヴァンが、折角空けた隙間を塞ぐ。キャスティナは、体勢を変えエヴァンに対して背中を向けて座った。すると今度は、エヴァンが後ろからキャスティナを抱きしめてくる。キャスティナの肩に顔を乗せ、エヴァンが囁く。

「キャスティナ、ごめん。何があったか教えて下さい」

 キャスティナは、ぼそりと零す。

「一人目の方に、エヴァン様の腕の中を知ってるのは、貴方だけではなくてよって言われました」

「二人目の方に、エヴァンって、キスが上手なのよねって言われました」

「三人目の方に、エヴァンって、甘え上手ではなくて?って言われました」

 聞いたエヴァンは、肩に乗せていた顔を俯ける。静寂が辺りを包む。

 しばらくしてエヴァンは、肩に乗っけていた顔を背中に移動させた。

「嫌な思いをさせて、ごめんなさい。どうしたら許してくれる?」

 エヴァンが、力なく囁く。

「エヴァン様、こんなの仕方ないってわかってます。私と会う前の事なんて、わざわざ怒る事じゃないのも。でも、私イライラするんです。立て続けに、綺麗なお姉様方に言われたんですよ!私が聞きたいです。どうしたらイライラなくなりますか?」

 キャスティナは、自分の気持ちなのにどうしたらいいかわからない。こんな感情初めてで戸惑う。

「キャスティナ、こっち向いて」

 エヴァンが、抱きしめていた腕を離す。キャスティナは、しぶしぶ向きを変えエヴァンと目を合わせる。エヴァンは、すまなそうな表情だ。

「キャスティナがスッキリするなら、思い切り叩いて」

 そう言って、目を瞑って頬を差し出す。キャスティナは、頬と自分の右手の手のひらを交互に見る。小さく溜息を吐いた。キャスティナは、両手でエヴァンの頬を包み込み正面を向かせる。

 チュッと、自分の唇を重ねた。

 エヴァンが、驚いて目を開ける。目に飛び込んで来たのは、しょうがないなと笑うキャスティナの顔だった。

「キャスティナ?」

「だって仕方ないじゃないですか。これでもかってほど、反省してるし……。でも、これからのエヴァン様は全部私のです。そこは、ゆずれません!」

 キャスティナが、可愛らしく睨む。エヴァンが、キャスティナを力強く抱きしめる。

「うん。絶対約束する。キャスティナ以外に触らない」

 エヴァンは腕を離すと、キャスティナの額にコツンと自分の額を合わせる。

「許してくれなかったら、どうしようかと思った」

「エヴァン様のシュンとした顔に弱いみたいです」

「良かった」

 エヴァンが、チュッとキスする。キャスティナが笑うから、チュッチュッと何度も重ねる。

「エっ…」

 キャスティナが、名前を呼ぼうと口を開けた瞬間エヴァンに深く踏み込まれる。激しさに、キャスティナは息が続かない。

「ん…はぁ…エ…ヴァン……んんさま……」

 エヴァンが唇を離すと、キャスティナはぽーっとしていた。

「はあ。可愛い」

 エヴァンが、もう一度ギュっと抱きしめる。

「もう、さっきまで怒ってたんですからね!」

 薔薇の香りが漂う庭園で、二人は仲直りをした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

婚約破棄されたら、辺境伯とお試し結婚することになりました

ミズメ
恋愛
婚約者を妹に奪われ、悪女として断罪された公爵令嬢フィオレッタ・グラシェルは、王都を追われ、身分を隠して辺境の町で静かに暮らしていた。ある日、迷子の少女ティナと出会い、川辺で花を摘み笑い合うひとときを過ごす。そこに現れたのは、ティナを捜していた辺境の若き領主ヴェルフリート・エルグランドだった。 ティナに懐かれたフィオレッタは子育てのために契約結婚をすることに。ティナの子守りをしながら、辺境で自らの才覚を発揮していくフィオレッタに、ヴェルフリートや領地の人々も惹かれていく。 「俺は、君を幸せにしたい」 いずれ幸せになる、追放令嬢のお話。 ・感想いただけると元気もりもりになります!!

二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。 一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。 今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。 人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。 一度目の人生は何が起っていたのか。 今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...