ハーフ!〜wonderland with glasses

リヒト

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(28/47)これがその証拠だっ!

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「おかえりなさい」
 夕方、宿屋に帰るとシャーロットの声がいつものように迎え入れてくれた。
「どうでした?メッキーさんは」
「シャーロットありがとう!師匠最高だったよ!」
「師匠?」
「ああ、メッキーさんのことだよ。いつのまにか師匠って呼んでたな俺」
「そうでしたか。きっと良いことがたくさんあったのですね」
「ああ。シャーロットのおかげだよ、ありがとう!」
 そう言いながら、俺は店内を見渡した。
 店内はいつもより賑わっている。
 なかなかセクシーな女性の客もいたりして。
 チャイナドレスですかあ。良いですなあ。
 ……違う違う。
 お。いたいた。
 俺はリタとチィが食事をしているテーブルに行き腰を下ろす。
「あれ?痛めつけられてないんだね?」
「くっくっくっ。何を言っているのだね、リタ君?」
「何その笑い。コトンボにやられて自暴自棄?」
 何かの骨付きの肉を頬張りながらチィが返す。
「はっはっはっは。見くびられたもんだな俺も。君も何言ってるんだ、チィ君?」
 チィが俺を無視しリタを見る。
「ねえ、リタ。カイってコトンボに脳みそを食べられられたんじゃない?」
「ボクもそう思うんだよ。かわいそうに」
 まあ言わせてくさ。事実を知ったら驚くのはそっちなんだからな。
「くっくっくっく。かわいそうなのは君たちだよ。何を言ってるんだ小娘ちゃんたち。ちゃんと朗報があるんだぜ」
 リタとチィが顔を見合わせた。
「朗報?ひょっとして!ボクたちの為にメッキーから良いお魚でももらったの?」
 リタは顔を輝かせて両手を叩いた。
「いいわね。お魚も食べたいし。お肉も飽きてきたし」
 チィはそう言いながら新たな骨付き肉に手を伸ばす。
「お前らの朗報ってのは魚が食えることなのか!?」
「そうよ。魚なんて高くて。ボクにはなかなか買えないんだよ」
「そうなのか?」
「だって凶暴で捕るのが大変じゃない。そりゃ値段も高くなるんだよ?」
 そのリタの言葉をチィは不思議そうに聞いている。
 チィこいつお嬢さま育ちがいいだからそういうのは知らないんだろうな。
「デズリーではメッキーくらいしか魚屋なんてできないわよ。気まぐれでたまに凄く安く売ってたりするけど」
「そういえば、今日はインマグロを捕っていたな」
「やったー!ボク、インマグロ大好き!」
 リタが両手を挙げた。
「ちっちっち。俺の朗報というのは残念だけど違うんですー」
「マグロ……マグロね。うん。悪くないわ」
 チィは肉を頬張るのを続けながら話す。
「だーかーらー!違うっつーの!」
 リタとチィの動きが止まる。
「じゃあ、カイは何しに魚屋に行ってきたんだよ?」
「別に魚をもらいに行ってきたわけじゃないぞ?」
「あんた、ばかぁ?やっぱりコトンボ未満なわけ?」
「だーかーら!コトンボの依頼を片付けるために行ってきたに決まっているだろ!」
「いつも通り無理だったんだよね?」
「いつも通り失敗したんでしょ?」
 二人が秒差でしかも限りなく似た言葉で返した。
 ちなみに前者がリタで後者がチィだ。
 本当にどっちでもいいことだけど。
 まあ落ち着け、俺。今、俺の心には余裕があるだろう?
「何をばかげたことを言ってるんだね、君たち」
「何その笑い。コトンボにやられて自暴自棄?」
「おい、リタ。ループになりそうだから同じセリフはやめろ」
「この言葉をさっき言ったのはチィなんだよ?」
「そういうことを言ってるんじゃねえよ。コトンボの依頼は完了したって話だよ」
 二人は俺の言葉に反応せず、黙々と食事を再開し始めた。
「何無反応なんだよ。だからコトンボの依頼は完了したんだってば」
 ぐびっ。
 リタはキエールを飲む。
 がぶっ。
 チィは骨つき肉にかぶりつく。
「おいっ!」
「嘘つかなくてもいいんだよ?」
 リタが何やら慈愛に満ちた目で俺を見た。
「そうじゃなくて!本当なんだってば!」
「はいはい。チィはわかったわ。完了といってもコトンボ足らずのカイができるわけないし、その賢者にして最強の魚屋さんが片付けたんでしょ?」
「あ、チィ。頭良い!そういうことなんだよ!」
 そして二人はハイタッチを交わすと乾杯して笑い合っている。
「ちーがーうーっ!!」
 ……こいつら。
「良いか!」
 俺は思わず立ち上がった。
 はずみで椅子が倒れる。
「良く聞け!」
 じゃれあっていた二人の視線がようやく俺へと向けられる。
「そして良く見ろ!」
 俺は胸から依頼書を取り出す。
「これがその証拠だっ!」
 と、依頼書を拡げ俺の名が浮き上がった部分を指した。
 リタとチィが顔を近づけ食い入るように見た後、お互いの顔を見合う。
 そして依頼書をもう一度見た。
「「えええーーーっ!!!」」
 二人同時に叫び、次に各々で声をあげる。
「カ、カイの名前なんだよ!?」
「コトンボ未満がコトンボを倒すなんて」
 リタとチィはわなわなと頭を抱えた。
「どうだ!」
 俺はここぞとばかりに胸をはった。
「カイさん!おめでとうございます!」
 振り返るとシャーロットが後ろに立っていた。
 本当に温かみのある表情をしてくれている。
「カイ、やるじゃない!」
 リタが隣にやってきた。
「これで何かおごってもらえるんだね?おめでとう」
 とウインクをしたが嫌な気は全然しなかった。
「コトンボに勝つなんて下克上ね」
 そう言いながらチィも近づいてきた。
「でも、凄くなんかないんだからねっ。……でも、まあ悪くもないわ。おめでとう」
 と、言い終わりになるにつれ小さな声で祝福してくれた。
「へへっ。ありがとう!」
 俺は三人を見回しながら応えた。
「良かったな!カイ!」
 遠くのテーブルからも声をもらう。
「初めての依頼完了おめでとう!」
「良くやった、カイ!」
「ウエイターは卒業だな!」
 次々と大きな歓声があがる。
 ……良いところだなあデスリーこの町は。
「よっしゃ!今宵はカイに乾杯だ!」
「だな!」
 飯場全体に熱が伝播し湧き上がった。
「みんな!」
 俺も大声を出した。
 続けて力一杯振り絞った。
「みんな!ありがとう!」
 層飯場が一層活気づく。
「じゃあ?」
「ということは?」
「お決まりの?」
 方々で何やら期待を込めた声があがった。
 ……あれ?これ、知ってる。全員におごるとかそういう流れじゃない?
 いやいやいや。自分で言うのもなんだけど、たかがコトンボだよ?コトンボの依頼じゃそんなに稼げないよ?
 と、その時だった。
「カーッ、カッカッ!」
 爺さんの派手な笑い声が壁に天井に響き渡った。
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