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第13話
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受付さんは、いつの間にか、目尻にうっすらと涙さえ受かべて、『俗物!』『破廉恥!』『社会の敵!』等々、次々と怒りの叫びを吐き出し続けている。隣で鎮座している偽ヘルハウンドの迫力もあり、気の弱い人なら、圧倒されてしまうだろう。
だが私は、言われっぱなしで黙ってるほど大人しくない。
オルソン聖王国に召喚されたばかりの時は、意味不明の状況に、さすがにパニックになり、連中のなすがままだったが、もう二度とあんな惨めな思いはごめんだ。
これから市民権を得なければならないのに、役所でトラブルを起こすのはまずいとも思ったが、よく考えたら、今の状況がすでにトラブルそのものだ。
……なら、もう我慢する必要もないか。
そう思った瞬間、頭の中で理性の糸がプツッと切れ、私は思いっきり怒鳴り返す。
「だから、嘘じゃないって言ってるでしょ!」
次の瞬間、体から例の『黒い光』が溢れだした。
その時、なんとなくだが、悟る。
……もしかしてこの『黒い光』、私の激しい怒りの感情にあわせて、出てくるのかも。
『黒い光』は、乱れ、うねり、一筋の太い収束体となって、受付さんに襲い掛かろうとする。……いやいやいや! それは駄目でしょ! いくら嘘つき呼ばわりされて頭に来たからって、人間を消滅させていいわけがない。
私は理性の力で、『私の怒りの具現化』ともいえる『黒い光』の進行方向を捻じ曲げようとした。すると、『黒い光』はバナナのようなカーブを描き、受付さんの鼻先をかすめ、偽ヘルハウンドに直撃する。
そして、偽ヘルハウンドは跡形もなく消滅した。
ふぅ、危ない危ない。
この『黒い光』はたぶん、私の怒り――というか、昂った感情が、破壊のエネルギーとなって具現化したものだから、意思の力でなんとかコントロールできるんじゃないかとは思ったけど、上手くいって良かったわ。
受付さんは、偽ヘルハウンドの消滅から数秒遅れて、ぺたんと尻もちをつく。どうやら、腰が抜けてしまったらしい。『ほら、嘘じゃなかったでしょ』と、ふんぞり返ってやるつもりだったが、白蝋のように青ざめた彼女の顔を見て、その気も失せてしまった。
私は彼女に手を差し伸べ、言う。
「大丈夫? 立てる?」
受付さんは小さく頷くと、案外素直に私の手を取り、立ち上がった。
それから、かすかに震える唇で、問いかけてくる。
「い、今の、何……? あなた、何したの……?」
だが私は、言われっぱなしで黙ってるほど大人しくない。
オルソン聖王国に召喚されたばかりの時は、意味不明の状況に、さすがにパニックになり、連中のなすがままだったが、もう二度とあんな惨めな思いはごめんだ。
これから市民権を得なければならないのに、役所でトラブルを起こすのはまずいとも思ったが、よく考えたら、今の状況がすでにトラブルそのものだ。
……なら、もう我慢する必要もないか。
そう思った瞬間、頭の中で理性の糸がプツッと切れ、私は思いっきり怒鳴り返す。
「だから、嘘じゃないって言ってるでしょ!」
次の瞬間、体から例の『黒い光』が溢れだした。
その時、なんとなくだが、悟る。
……もしかしてこの『黒い光』、私の激しい怒りの感情にあわせて、出てくるのかも。
『黒い光』は、乱れ、うねり、一筋の太い収束体となって、受付さんに襲い掛かろうとする。……いやいやいや! それは駄目でしょ! いくら嘘つき呼ばわりされて頭に来たからって、人間を消滅させていいわけがない。
私は理性の力で、『私の怒りの具現化』ともいえる『黒い光』の進行方向を捻じ曲げようとした。すると、『黒い光』はバナナのようなカーブを描き、受付さんの鼻先をかすめ、偽ヘルハウンドに直撃する。
そして、偽ヘルハウンドは跡形もなく消滅した。
ふぅ、危ない危ない。
この『黒い光』はたぶん、私の怒り――というか、昂った感情が、破壊のエネルギーとなって具現化したものだから、意思の力でなんとかコントロールできるんじゃないかとは思ったけど、上手くいって良かったわ。
受付さんは、偽ヘルハウンドの消滅から数秒遅れて、ぺたんと尻もちをつく。どうやら、腰が抜けてしまったらしい。『ほら、嘘じゃなかったでしょ』と、ふんぞり返ってやるつもりだったが、白蝋のように青ざめた彼女の顔を見て、その気も失せてしまった。
私は彼女に手を差し伸べ、言う。
「大丈夫? 立てる?」
受付さんは小さく頷くと、案外素直に私の手を取り、立ち上がった。
それから、かすかに震える唇で、問いかけてくる。
「い、今の、何……? あなた、何したの……?」
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