黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ

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第26話

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 パーミルはそれほど大きな国ではないので、お城につくまでそんなに時間はかからなかった。正門から中に入り、エントランスホールに達すると、グラディスは『やっと脱げる』と言った感じで、真っ黒なローブを脱ぎ捨てる。

「ふう、やれやれだ。すっかり蒸れてしまった。だいたい、そろそろ初夏だというのに、あんな格好で歩いている方がよっぽど人目を引いてしまう気がするのだがな」

 露になったグラディスの全身は、美しく、気品に溢れており、近衛騎士団長というより、お姫様のようだ。彼女に倣う形で、ジェロームもローブを脱ぎながら、やや呆れたように言う。

「姉上、人目を引くかどうかは、大した問題ではありません。公務でもないのに、我々が揃って町を歩いていることが問題なのです。だから、姿を隠さなければならないんですよ」

 ジェロームの全身もまた美麗で、一般人とは一線を画した高貴さを感じる。この姉弟はたぶん、ご立派な家柄の出身なのだろう。グラディスはジェロームに窘められ、苦笑した。

「わかっているよ。さて、今はそんなことより、マリヤを殿下の元に連れて行かなければな。さあ行くぞ、マリヤ。あの扉の向こう、謁見の間で、王太子殿下がお前をお待ちだ」

 謁見の間?
 王太子殿下?

 いったい、どういうことだろう。

 私をこのお城に連れてきたのは、あの謎の破壊の力――『黒い光』の調査をするためでしょ? なんで、この国の王子様と謁見しなきゃならないわけ?

 そんな思いがありありと顔に出ていたのか、グラディスは軽く微笑んで、言う。

「ふふ、ここまで来たのだ。もう話しても構わんだろう。……マリヤ、お前の謎の力――『黒い光』に強い関心を示し、詳しい調査を希望しているのは、何を隠そう、このパーミル王国の王太子、エリウッド殿下なのだ。それも、できれば内々に調べたいとのことで、殿下が最も信頼する私とジェロームが、お前を迎えに行ったというわけだ」

 むむむ。メリンダの話から、私の力の調査をしたがっているのは、相当に偉い人だとは想像していたけど、まさか王太子とは。

 そこで、不意に嫌な記憶がフラッシュバックする。

 王太子かぁ……
 あのオルソン聖王国の王太子は、最悪だった。

 彼に浴びせられた酷い言葉のせいで、私はちょっとばかり、王族という存在に良くない印象を持っている。しかし、ここまで来て帰るというわけにもいかないだろう。
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