黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ

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第28話

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「はっ、失礼いたしました」

 それっきり、ジェロームは黙った。

 うむむ……私の意思をくみ取ってくれたのは嬉しいけど、この王子様、ちょっと強権で、俺様系っぽい感じね。いや、まあ、王子様なんだから、これが普通なのかしら?

 そんなことを考えながら突っ立っていると、エリウッドはこちらに視線を向け、涼やかながらも威厳のある声で言う。

「マリヤ、面倒な問答も礼儀も無用だ。早速調査を始めよう。お前の『黒い光』とやらを見せてくれ」

 そして、私が返事をするより前に、横を向いて「おい」と声をかけた。すると、今までずっと壁だと思っていた部分が音を立てて開き、中から銀色の甲冑に身を包んだ兵士が三名、ガシャガシャと鎧を鳴らして登場した。

 ちょっ、まさか、この人たちに『黒い光』を浴びせろって言うんじゃないでしょうね。調査のためだけに、憎くもなんともない人に、あんな危険な力を使えるわけないじゃない。私は慌てて抗議する。

「あの、もちろん調査には協力しますけど。人間相手にあの力を使うのはちょっと……」

「たわけ。我が国の大切な臣民を、未知の力の実験になど使うわけがなかろう。その甲冑兵は人間ではない。よく見ろ」

 た、たわけとは何よ。たわけとは。
 そう思いながらも、私は目を凝らし、甲冑兵をよく見る。

「あっ」

 思わず、声が出た。
 甲冑の中が、空っぽだったからだ。

 鎧だけがガシャガシャ音を立てて動くなんて、まるでホラーだわ。
 細かい原理は分からないけど、たぶん、魔法の力で操ってるのね。

 よし、相手が人間じゃないなら、遠慮は無用だわ。

 昨日二回も使ったから、なんとなく『黒い光』を発動させるコツは掴んでいる。意識すべきポイントは、『怒り』だ。攻撃対象に激しい怒りを燃やせば、自然と『黒い光』が湧き出てくるはず……!

 そう意気込んで、空っぽ甲冑兵相手に怒ろうとしたが、どうにも気合が入らない。まるで操り人形のように手足をぶらつかせ、カシャカシャ動いている姿がユーモラスで、とても敵意を向ける気にならないのだ。

 いつまでたっても何も起こらないことに焦れたのか、エリウッドが玉座のひじ掛けに身を預け、頬杖をつきながら、訝しげに言う。

「どうした。何故、何もしない。それとも、発動に時間のかかる能力なのか?」

「いや、その、空っぽの甲冑とはいえ、まったく無抵抗の相手を攻撃するのはちょっと気が咎めて……」
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