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第31話
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……なんとグラディスは、片膝をついたまま、緩やかに頭を上下させ、うたた寝をしていた。私とほとんど同時にそれに気がついたエリウッドが、おかしそうに笑い、言う。
「ふふ、ふふふっ、この状況で、よくうたた寝ができる。……姉上、ジェロームと共に、もう席を外してもらって構いませんよ。警護の者は、隣室にも大勢いますから」
エリウッドにポンと肩を叩かれ、グラディスは「んぁ?」と目を覚ました。よだれでも出ていたのか、彼女は口元を手で拭い、照れ笑いをする。
「いや、失敬失敬。昨日、寝るのが少し遅かったものでな。おっといかん、殿下には敬語を使わないと……」
「構いませんよ、他の者の目がないところであれば。姉上に敬語を使われると、なんだか気持ち悪いですし」
「こいつ、気持ち悪いとはなんだ。それを言うなら、私だって弟に敬語を使うなんて、気持ち悪いんだぞ」
「はいはい、それは失礼いたしました」
とても王子と近衛騎士のやり取りとは思えない、気安い会話だ。
会話の内容から察するに、エリウッドとグラディスは、姉弟……ということになる。そして、グラディスとジェロームも姉弟だ。それはつまり、エリウッドとジェロームも兄弟という理屈になる。
さっき、『王様が政治権限を三人の実子に譲った』って言ってたけど、その『三人の実子』っていうのが、エリウッドとグラディス、そしてジェロームなのだろうか。
ならばなぜ、エリウッドだけが玉座に座り、グラディスとジェロームはその警護をする立場である近衛騎士なのだろう。気になったけど、またジェロームの前でぶしつけな質問をすると睨まれそうなので、とりあえず私は黙っておくことにした。
しかしこれで、グラディスとジェロームが顔を隠していた理由が分かった気がする。二人の王族が、朝っぱらから町をウロチョロしていたら、目だって仕方ないもんね。
私は今思った通りのことを、グラディスに言う。
「グラディスさんとジェロームさんが顔を隠してたのは、王族だったからなんですね」
グラディスは立ち上がり、笑う。
「まあ、そういうことだ。私は別に、隠す必要などないと思うのだがな。だいたい王族と言っても、私たちは……」
のほほんとした様子で言葉を続けようとするグラディスを、ジェロームは片膝をついたまま見上げ、鋭い声で「姉上」と言い、制止した。
「姉上、私たち姉弟は今、非常に微妙な立場にいるのです。発言には、細心の注意を……」
「ふふ、ふふふっ、この状況で、よくうたた寝ができる。……姉上、ジェロームと共に、もう席を外してもらって構いませんよ。警護の者は、隣室にも大勢いますから」
エリウッドにポンと肩を叩かれ、グラディスは「んぁ?」と目を覚ました。よだれでも出ていたのか、彼女は口元を手で拭い、照れ笑いをする。
「いや、失敬失敬。昨日、寝るのが少し遅かったものでな。おっといかん、殿下には敬語を使わないと……」
「構いませんよ、他の者の目がないところであれば。姉上に敬語を使われると、なんだか気持ち悪いですし」
「こいつ、気持ち悪いとはなんだ。それを言うなら、私だって弟に敬語を使うなんて、気持ち悪いんだぞ」
「はいはい、それは失礼いたしました」
とても王子と近衛騎士のやり取りとは思えない、気安い会話だ。
会話の内容から察するに、エリウッドとグラディスは、姉弟……ということになる。そして、グラディスとジェロームも姉弟だ。それはつまり、エリウッドとジェロームも兄弟という理屈になる。
さっき、『王様が政治権限を三人の実子に譲った』って言ってたけど、その『三人の実子』っていうのが、エリウッドとグラディス、そしてジェロームなのだろうか。
ならばなぜ、エリウッドだけが玉座に座り、グラディスとジェロームはその警護をする立場である近衛騎士なのだろう。気になったけど、またジェロームの前でぶしつけな質問をすると睨まれそうなので、とりあえず私は黙っておくことにした。
しかしこれで、グラディスとジェロームが顔を隠していた理由が分かった気がする。二人の王族が、朝っぱらから町をウロチョロしていたら、目だって仕方ないもんね。
私は今思った通りのことを、グラディスに言う。
「グラディスさんとジェロームさんが顔を隠してたのは、王族だったからなんですね」
グラディスは立ち上がり、笑う。
「まあ、そういうことだ。私は別に、隠す必要などないと思うのだがな。だいたい王族と言っても、私たちは……」
のほほんとした様子で言葉を続けようとするグラディスを、ジェロームは片膝をついたまま見上げ、鋭い声で「姉上」と言い、制止した。
「姉上、私たち姉弟は今、非常に微妙な立場にいるのです。発言には、細心の注意を……」
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