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第34話
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「えっと、じゃあ、エリウッド様って、お呼びしますね」
「『様』はいらん。呼び捨てにしろ。あと、敬語も使わなくていい」
「えぇー……流石にそれはちょっと……」
そこで一旦会話は切れ、私たちは無言で遊歩道を歩く。歩みを進めるうち、生け垣はしだいにまばらになり、小さな噴水が見えてきたところで、エリウッドは再び口を開いた。
「俺には、友がいない。幼き頃より王太子として教育を受け、普通の少年たちのように、無邪気に遊びまわることができなかった。最も歳の近い兄、ジェロームですら、俺に敬語を使い、よそよそしく接する。……もう一度言う。俺には、友と呼べる存在が、誰一人いないのだ」
いきなり、何の話だろう。
エリウッドの真意を測りかね、私は黙って、彼が続きを話すのを待った。
「姉上は気安く接してくれるが、それでも立場上、あまり慣れあうわけにもいかん。……一人でいいのだ。身分を忘れ、気も張らずに、リラックスして話せる相手が欲しい。」
「はぁ、なるほど……王子様って、けっこう大変なんですね」
「だから、その『王子様』と敬語をやめろと言っているだろう。今までの話を聞いていなかったのか? マリヤ、お前に、俺の友人になってほしいと言っているんだ」
「ええっ!? なんでいきなり、そうなるんです!? 王子様が友達を欲しがってるのは分かりましたけど、今日あったばかりの、それも、異世界人の私なんかじゃ……」
慌てる私を見て、エリウッドは笑った。
「何を言う。『今日あったばかりの、異世界人』だから、良いのではないか。先程から話していて分かったが、マリヤ、お前、元の世界では、王侯貴族と接したことなどないだろう?」
あるはずがない。
私が元の世界で接したことのある最も偉い人と言ったら、大学の教授くらいだろう。私が「はい」と頷くと、エリウッドもまた、満足げに頷く。
「だからなのだな。礼法も言葉遣いも、そこら辺の子供以下で、まるでなっちゃいないが、それ故に気安く、話しやすい」
「そこら辺の子供以下で悪かったですね。しょーがないでしょ。王族との接し方なんて、習ったことないんだから」
「ふふふ、それそれ。そう言うところだ。それがいいんだよ。物怖じしない、率直な言葉で話されると、実に気分が良い」
「そういうもんですか?」
「そういうものだ。『王太子様』『殿下』『次期国王陛下』などと、上辺だけは敬意に溢れているが、いちいち持って回ったような言い方をして、腹の底では何を考えているか分からん連中と話すのはとても疲れるんだ。こんな、気苦労ばかりの王子を哀れに思うなら、これからも友として、話し相手になってくれ」
「『様』はいらん。呼び捨てにしろ。あと、敬語も使わなくていい」
「えぇー……流石にそれはちょっと……」
そこで一旦会話は切れ、私たちは無言で遊歩道を歩く。歩みを進めるうち、生け垣はしだいにまばらになり、小さな噴水が見えてきたところで、エリウッドは再び口を開いた。
「俺には、友がいない。幼き頃より王太子として教育を受け、普通の少年たちのように、無邪気に遊びまわることができなかった。最も歳の近い兄、ジェロームですら、俺に敬語を使い、よそよそしく接する。……もう一度言う。俺には、友と呼べる存在が、誰一人いないのだ」
いきなり、何の話だろう。
エリウッドの真意を測りかね、私は黙って、彼が続きを話すのを待った。
「姉上は気安く接してくれるが、それでも立場上、あまり慣れあうわけにもいかん。……一人でいいのだ。身分を忘れ、気も張らずに、リラックスして話せる相手が欲しい。」
「はぁ、なるほど……王子様って、けっこう大変なんですね」
「だから、その『王子様』と敬語をやめろと言っているだろう。今までの話を聞いていなかったのか? マリヤ、お前に、俺の友人になってほしいと言っているんだ」
「ええっ!? なんでいきなり、そうなるんです!? 王子様が友達を欲しがってるのは分かりましたけど、今日あったばかりの、それも、異世界人の私なんかじゃ……」
慌てる私を見て、エリウッドは笑った。
「何を言う。『今日あったばかりの、異世界人』だから、良いのではないか。先程から話していて分かったが、マリヤ、お前、元の世界では、王侯貴族と接したことなどないだろう?」
あるはずがない。
私が元の世界で接したことのある最も偉い人と言ったら、大学の教授くらいだろう。私が「はい」と頷くと、エリウッドもまた、満足げに頷く。
「だからなのだな。礼法も言葉遣いも、そこら辺の子供以下で、まるでなっちゃいないが、それ故に気安く、話しやすい」
「そこら辺の子供以下で悪かったですね。しょーがないでしょ。王族との接し方なんて、習ったことないんだから」
「ふふふ、それそれ。そう言うところだ。それがいいんだよ。物怖じしない、率直な言葉で話されると、実に気分が良い」
「そういうもんですか?」
「そういうものだ。『王太子様』『殿下』『次期国王陛下』などと、上辺だけは敬意に溢れているが、いちいち持って回ったような言い方をして、腹の底では何を考えているか分からん連中と話すのはとても疲れるんだ。こんな、気苦労ばかりの王子を哀れに思うなら、これからも友として、話し相手になってくれ」
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