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第72話
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「うーん、お見事。さすが、パーミルいちの剣の達人ね」
「恐れ入ります」
「エリウッド様の乗っている馬車は大丈夫かしら?」
「殿下は、姉上と、さらに二人の手練れが警護しています。心配無用ですよ」
「それもそうね」
私たちは再び馬車に乗り込んだ。夕闇の中、ゆっくりと馬車の車輪が回り始める。その後、オルソン聖王国の正門に到着するまで、さらに2回も魔物の襲撃を受けた。
パーミル周辺はすっかり平和になったので、魔物の数が増加しているという実感はまったくなかったが、どうやら世界は、思ったよりまずい状況らしい。これでは、旅人や行商人が街道を行くことなど不可能だろう。
エリウッドから聞いた話では、パーミルの周囲にはタチの悪い国ばかりだが、それでもやはり、魔人と魔物を放っておいてはいけないのではないかと思う。だって私には、魔人たちを消し去る力があるんだから。
そんなことを考えているうちに、私たちパーミル一行は、オルソン聖王国の王宮に案内された。私とは正反対の真っ白な装束に身を包んだ侍女が、私たちを食堂らしき場所に連れて行く。
そこには、侍女と同じく、真っ白なテーブルクロスが掛けられた、長い長いダイニングテーブルが用意されていた。燭台には明かりが灯り、厳かな雰囲気である。……どうやら、会食という形で、会談をするらしい。
テーブルのこちら側に、エリウッドと私、そして、随行した二人の大臣が座る。警護役のジェロームとグラディスは立ったまま、周囲に気を配っていた。
オルソン聖王国側の王族は、まだ来ていない。
エリウッドが、苛立たしげにつぶやく。
「まったく、こちらは時間通りにやって来たというのに待ちぼうけを食わせるとはな。いつものことだが、奴らは時間を守らない。パーミルを属国か何かと思い、軽く見ている証拠だ」
そして、私たちが座席についてからだいたい十分後。
大勢の近衛兵を引き連れて、一人の青年がやってきた。
「やあやあ、お待たせして申し訳ない。公務が長引いてしまいまして」
その青年は、申し訳ないなどとは少しも思っていなさそうな軽薄な笑顔で、こちらを一瞥しながら言った。……忘れるはずもない、一ヶ月前、私のことを『どうしようもないゴミ』呼ばわりした、オルソン聖王国の王子だ。苦い記憶が脳裏によみがえり、私は自然と、歯を噛みしめていた。
「恐れ入ります」
「エリウッド様の乗っている馬車は大丈夫かしら?」
「殿下は、姉上と、さらに二人の手練れが警護しています。心配無用ですよ」
「それもそうね」
私たちは再び馬車に乗り込んだ。夕闇の中、ゆっくりと馬車の車輪が回り始める。その後、オルソン聖王国の正門に到着するまで、さらに2回も魔物の襲撃を受けた。
パーミル周辺はすっかり平和になったので、魔物の数が増加しているという実感はまったくなかったが、どうやら世界は、思ったよりまずい状況らしい。これでは、旅人や行商人が街道を行くことなど不可能だろう。
エリウッドから聞いた話では、パーミルの周囲にはタチの悪い国ばかりだが、それでもやはり、魔人と魔物を放っておいてはいけないのではないかと思う。だって私には、魔人たちを消し去る力があるんだから。
そんなことを考えているうちに、私たちパーミル一行は、オルソン聖王国の王宮に案内された。私とは正反対の真っ白な装束に身を包んだ侍女が、私たちを食堂らしき場所に連れて行く。
そこには、侍女と同じく、真っ白なテーブルクロスが掛けられた、長い長いダイニングテーブルが用意されていた。燭台には明かりが灯り、厳かな雰囲気である。……どうやら、会食という形で、会談をするらしい。
テーブルのこちら側に、エリウッドと私、そして、随行した二人の大臣が座る。警護役のジェロームとグラディスは立ったまま、周囲に気を配っていた。
オルソン聖王国側の王族は、まだ来ていない。
エリウッドが、苛立たしげにつぶやく。
「まったく、こちらは時間通りにやって来たというのに待ちぼうけを食わせるとはな。いつものことだが、奴らは時間を守らない。パーミルを属国か何かと思い、軽く見ている証拠だ」
そして、私たちが座席についてからだいたい十分後。
大勢の近衛兵を引き連れて、一人の青年がやってきた。
「やあやあ、お待たせして申し訳ない。公務が長引いてしまいまして」
その青年は、申し訳ないなどとは少しも思っていなさそうな軽薄な笑顔で、こちらを一瞥しながら言った。……忘れるはずもない、一ヶ月前、私のことを『どうしようもないゴミ』呼ばわりした、オルソン聖王国の王子だ。苦い記憶が脳裏によみがえり、私は自然と、歯を噛みしめていた。
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