黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ

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第73話

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 遅れてきたくせにヘラヘラしている彼の態度に、エリウッドも不快感を覚えているようだが、その不快感を表情に出すようなことはなく、事務的に「それほど待っていないので、お気になさらず」と言い、会食は始まった。

 オルソン聖王国の王子は、エリウッド以外には視線を向けることもなく、とりとめのない話をしながら会食は進んでいく。話の内容は、次第に交易や軍事についてのことになり、それが一段落すると、エリウッドは少しだけ厳しい声で問いかける。

「オルソン国王陛下は、今日もご欠席ですか? 大切な会談なのですから、お顔くらいは見せてもらいたいものなのですが」

 それについては、私も不思議に思っていた。

 エリウッドはまだ王子という立場だが、正当な王位継承者として、そして、国家を代表する者として、もはや満足に政務をおこなうことのできない病気の国王の代わりにこうしてやって来たのだ。オルソン聖王国も、国家を代表する者が出てくるのが筋である。

 しかし、この会食に出席しているのは、多くの近衛兵以外は、オルソン聖王国の王子ただ一人だけ。重臣たちすら同席していないのは、いくらなんでもおかしい。

 そんな疑問に、オルソン聖王国の王子はワインを一口飲んでから、つまらなそうに答えた。

「父上は、すでにお休みになっています。過度の美食で少々太りすぎたのか、それとも毎晩の酒宴が良くなかったのか、最近、どうにも体調が思わしくないようでしてね。日中もベッドで過ごすことが多くなっているのです。ふふふ、エリウッド君、あなたのお父上と同じですよ」

 その言葉に、エリウッドは露骨に眉をひそめた。

「一緒にしないでいただきたい。俺の父は、酒を飲まず、食事もつつましく、贅沢などしなかった。常に民のことを第一に考え、寝る間も惜しんで政務に励んだ結果、体を壊してしまったのです」

 オルソン聖王国の王子は、グラスを持ち上げ、軽く回し、深紅の液体を弄ぶようにしながら、冷笑と共に言う。

「ふふ、ふふふ、一生懸命頑張った結果、もともと強くない体を駄目にしてしまい、もう余命いくばくもないのなら、結局のところ、困った王様だったということになるのではないでしょうか? 息子であるあなたに、若いうちからこうして負担をかけているわけですし」

「なんだと……」

「おっと、失言でした。この話はここでやめておきましょう。別段、あなたとあなたのお父上を侮辱しようと思って、会食の場を設けたわけではありませんからね。今日は、交易や軍事よりも大切な話があるんです」
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