黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ

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第108話

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「はい……」

 そして私たちは、すぐ近くにあった客間に入り、二人で大きなソファの上に腰かけた。エリウッドはゆっくりと深呼吸し、それから天井を見上げ、過去を懐かしむように語り始める。

「こうして二人きりになるのは、どれくらいぶりかな」

「どれくらいぶりでしょう。最後にお話しできたのがいつだったか、もう、忘れてしまいました。エリウッド様は王位を継いでから、内に外に大忙しでしたから。私にも何かお手伝いができれば良かったんですけど……」

「いいんだ。お前はお前で、聖女の役目を立派にこなしてくれている。これ以上望むことはない。……さっきも言いかけたが、近頃は話す時間すら作ってやれなくて、すまないと思っている。ゴタゴタがすべて片付いたら、また以前のようにゆっくりと過ごそう」

 ゴタゴタがすべて片付いたら――

 その言葉を聞いた時、私の頭によぎったのは、ジェロームのクーデターだった。

 本当のゴタゴタは、これからやって来る。
 それも、国を二分するほどの大惨事だ。

 このことを、エリウッドに話すべきだろうか。

 ……当然、話すべきだろう。ただでさえ忙しいエリウッドに、更なる難題を吹っかけるようで心苦しいが、こんな大切なことを黙っている方が問題だ。私は慎重に言葉を選び、私の知りうるすべてを、エリウッドに伝えた。

 意外にも、エリウッドは冷静だった。
 深く瞳を閉じ、「ふぅっ」と息を吐いてから、淡々と口を開く。

「俺の戴冠と時を同じくして、王宮内で大きな派閥闘争が起こった。その争いに負け、それまでいた地位を追われた重臣や将校たちに担ぎ上げられるような形で、ジェロームがおかしな動きをしているのは知っている。少し前から、その動きがさらに顕著になってきており、気を揉んでいるところだ」

「そう……ですか。あの、それで、エリウッド様は、どうするおつもりなのですか……?」

「どうもしない。今まで通り、参謀総長はジェロームに任せる」

「えっ、でも、それじゃ……」

「マリヤ。俺はジェロームを信頼している。内戦など起こせば、多くの民が犠牲になることはジェロームも重々承知のはずだ。そのような修羅の道を、彼が選ぶとは思えない。誰よりも、誠実で優しい男だからな」

「…………」

「ジェロームはもはや俺のことを信頼していないかもしれないが、彼が俺を信じなくても、俺は彼を信じる。腹違いとはいえ、俺の兄だぞ。信頼しなくてどうする。そうだろう?」
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