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第112話
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その日の夜。
王宮で最も高い見張り台に、私はジェロームを呼び出した。
二人きりで話がしたい。
そう言って。
ジェロームは警護もつけず、鎧すら身に着けず、現れた。
私のことを、少しも疑っていないからだ。
「マリヤ様、お話とは?」
いつも冷静なその表情が、やや高揚しているように見える。
……私から『二人きりになりたい』などと言うのは初めてなので、もしかしたら、ロマンチックな展開を期待しているのかもしれない。
いや、違うかな。
ジェロームの表情は、『高揚』と呼ぶには少々固い。
私と同じく、何かを覚悟しているように見える。
そんなジェロームに、私は単刀直入な問いをぶつけた。
「ジェローム。あなた、本当にクーデターを起こす気なの?」
持って回った駆け引きをするつもりはなかった。小細工を嫌うジェロームなら、私のまっすぐな問いに、まっすぐ答えてくれると信じている。そして彼の答えが、私の迷いを打ち消すようなものであったなら、その時は――
ジェロームは、しばし黙った。
月のない夜。
雲の多い夜。
風が冷たい。
しかし、寒さは感じなかった。
緊張しているからだろう。
やがて、ジェロームは口を開いた。
「はい。決行は三日後。私は軍部の半分を掌握しました。現王政派との力は五分と五分。恐らく、壮絶な戦いとなるでしょう」
三日後――
良かった。
もう少し迷っていたら、手遅れになるところだった。
私は乾いた唇を、ゆっくりと動かしていく。
「その『壮絶な戦い』の結果、多くの人が死ぬことは、当然わかっているわよね?」
「はい」
「戦闘員だけではなく、民間人もよ。絶対に巻き込まれる人が出る、そうよね?」
「はい」
「それでもやるの?」
「はい」
「どうして? あなたは、エリウッド様より自分の方が王にふさわしいと思っているの?」
「…………」
お返事人形のように『はい』『はい』と答えていたジェロームが、黙った。
私は、なおも畳みかける。不思議と、心は落ち着いていた。こんなことなら、あれこれ悩むより、最初からジェロームと直接話をすべきだったのかもしれない。
「あなたは、今の立場に不満があるの?」
「…………」
「それとも、お母さんの宿願を叶えるために、王座に就きたいの?」
「…………」
「あなたはエリウッド様を……そして、リザベルト様を、憎んでいるの?」
――――――――――――――――――――――――――――――――
本日から新作『ゾンビのいない世界で俺に与えられたスキルは『ゾンビ殺し』だった。役立たずとして追放される俺。でもあと少しで世界はゾンビだらけになるんだけどね』を投稿しております。よろしければ、見てもらえると嬉しいです。
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その日の夜。
王宮で最も高い見張り台に、私はジェロームを呼び出した。
二人きりで話がしたい。
そう言って。
ジェロームは警護もつけず、鎧すら身に着けず、現れた。
私のことを、少しも疑っていないからだ。
「マリヤ様、お話とは?」
いつも冷静なその表情が、やや高揚しているように見える。
……私から『二人きりになりたい』などと言うのは初めてなので、もしかしたら、ロマンチックな展開を期待しているのかもしれない。
いや、違うかな。
ジェロームの表情は、『高揚』と呼ぶには少々固い。
私と同じく、何かを覚悟しているように見える。
そんなジェロームに、私は単刀直入な問いをぶつけた。
「ジェローム。あなた、本当にクーデターを起こす気なの?」
持って回った駆け引きをするつもりはなかった。小細工を嫌うジェロームなら、私のまっすぐな問いに、まっすぐ答えてくれると信じている。そして彼の答えが、私の迷いを打ち消すようなものであったなら、その時は――
ジェロームは、しばし黙った。
月のない夜。
雲の多い夜。
風が冷たい。
しかし、寒さは感じなかった。
緊張しているからだろう。
やがて、ジェロームは口を開いた。
「はい。決行は三日後。私は軍部の半分を掌握しました。現王政派との力は五分と五分。恐らく、壮絶な戦いとなるでしょう」
三日後――
良かった。
もう少し迷っていたら、手遅れになるところだった。
私は乾いた唇を、ゆっくりと動かしていく。
「その『壮絶な戦い』の結果、多くの人が死ぬことは、当然わかっているわよね?」
「はい」
「戦闘員だけではなく、民間人もよ。絶対に巻き込まれる人が出る、そうよね?」
「はい」
「それでもやるの?」
「はい」
「どうして? あなたは、エリウッド様より自分の方が王にふさわしいと思っているの?」
「…………」
お返事人形のように『はい』『はい』と答えていたジェロームが、黙った。
私は、なおも畳みかける。不思議と、心は落ち着いていた。こんなことなら、あれこれ悩むより、最初からジェロームと直接話をすべきだったのかもしれない。
「あなたは、今の立場に不満があるの?」
「…………」
「それとも、お母さんの宿願を叶えるために、王座に就きたいの?」
「…………」
「あなたはエリウッド様を……そして、リザベルト様を、憎んでいるの?」
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本日から新作『ゾンビのいない世界で俺に与えられたスキルは『ゾンビ殺し』だった。役立たずとして追放される俺。でもあと少しで世界はゾンビだらけになるんだけどね』を投稿しております。よろしければ、見てもらえると嬉しいです。
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