黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
112 / 121

第112話

しおりを挟む




 その日の夜。

 王宮で最も高い見張り台に、私はジェロームを呼び出した。

 二人きりで話がしたい。

 そう言って。

 ジェロームは警護もつけず、鎧すら身に着けず、現れた。

 私のことを、少しも疑っていないからだ。

「マリヤ様、お話とは?」

 いつも冷静なその表情が、やや高揚しているように見える。

 ……私から『二人きりになりたい』などと言うのは初めてなので、もしかしたら、ロマンチックな展開を期待しているのかもしれない。

 いや、違うかな。

 ジェロームの表情は、『高揚』と呼ぶには少々固い。
 私と同じく、何かを覚悟しているように見える。

 そんなジェロームに、私は単刀直入な問いをぶつけた。

「ジェローム。あなた、本当にクーデターを起こす気なの?」

 持って回った駆け引きをするつもりはなかった。小細工を嫌うジェロームなら、私のまっすぐな問いに、まっすぐ答えてくれると信じている。そして彼の答えが、私の迷いを打ち消すようなものであったなら、その時は――

 ジェロームは、しばし黙った。

 月のない夜。
 雲の多い夜。

 風が冷たい。

 しかし、寒さは感じなかった。
 緊張しているからだろう。

 やがて、ジェロームは口を開いた。

「はい。決行は三日後。私は軍部の半分を掌握しました。現王政派との力は五分と五分。恐らく、壮絶な戦いとなるでしょう」

 三日後――

 良かった。
 もう少し迷っていたら、手遅れになるところだった。

 私は乾いた唇を、ゆっくりと動かしていく。

「その『壮絶な戦い』の結果、多くの人が死ぬことは、当然わかっているわよね?」

「はい」

「戦闘員だけではなく、民間人もよ。絶対に巻き込まれる人が出る、そうよね?」

「はい」

「それでもやるの?」

「はい」

「どうして? あなたは、エリウッド様より自分の方が王にふさわしいと思っているの?」

「…………」

 お返事人形のように『はい』『はい』と答えていたジェロームが、黙った。

 私は、なおも畳みかける。不思議と、心は落ち着いていた。こんなことなら、あれこれ悩むより、最初からジェロームと直接話をすべきだったのかもしれない。

「あなたは、今の立場に不満があるの?」

「…………」

「それとも、お母さんの宿願を叶えるために、王座に就きたいの?」

「…………」

「あなたはエリウッド様を……そして、リザベルト様を、憎んでいるの?」



――――――――――――――――――――――――――――――――

 本日から新作『ゾンビのいない世界で俺に与えられたスキルは『ゾンビ殺し』だった。役立たずとして追放される俺。でもあと少しで世界はゾンビだらけになるんだけどね』を投稿しております。よろしければ、見てもらえると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...