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第13話

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「うん。今まで食べたことない感じの肉だったけど、ちょっと鶏肉っぽい味で、凄く美味かった。……さっきはごめん。腹減ってイライラしてたから、『あんなの食べられるわけない』なんて言っちゃって」

「いいわよ、そんなこと。それより、とりあえずお腹が膨れたなら、急いで町に行く必要はなくなったわよね。さっきは私のことを聞かせたんだから、今度はあんたのこと、聞かせてよ」

 ルイーズはそう言うと、俺のすぐ隣に腰を下ろした。

 距離が近い。
 本当に近い。

 どれくらい近いか具体的に言うと、肩が触れ合うほどである。ルイーズの見た目は、まあ、その、一般的価値観で判断するならばかなりの美少女だと思うので、ちょっとドキッとしてしまう。

 ……それにしても、なんかグイグイ来るなこの子。『凄い人見知り』で、『できれば知らない人と口なんてききたくない』んじゃないの?

 そんな思いが、ほとんどそのまま口から出た。

「なあ、ルイーズ。さっき、知らない人とはあんまり口をききたくないみたいなこと、言ってなかったっけ?」

 ルイーズは、きょとんして小首をかしげる。
 そして、『今さら何言ってるの?』とでも言いたげに言葉を紡いでいく。

「何言ってるの? あんたはもう『知らない人』じゃないでしょ? 本当ならエルフの里出身者にしか話しちゃいけない『私の旅する理由』を聞いた以上、あんたはもう私の旅の仲間よ。これからは二人で苦労を分け合っていきましょうね」

 えっ、何それ怖い……
 話を聞いただけで、旅の仲間にされてる……

 どうしよう。ルイーズからこの世界のことを色々と教わりたいから、友好関係を築きたいとは思ってたけど、彼女に付き合って命がけの旅をしたいとまでは思っていない。

 ルイーズは仲間ができて嬉しいのか、妙にはしゃいでるけど、正直言って俺は旅なんてしたくない。ルイーズからある程度この世界のことを教わったら、適当な街で仕事を見つけて、平和に暮らしたい。生きてさえいれば、何かのきっかけで元の世界に戻れるかもしれないし……

 どうしよう。
 どうしよう。

 いや、どうしようもこうしようもない。
 こうなったら、素直に俺の気持ちを話すだけだ。

 基本的には親切な子だし、事情を話せばわかってくれるだろう。
 そう思い、慎重に言葉を選んで話を始めようとする俺。

 そんな俺を、ルイーズは正面から見つめてくる。

 宝石のような、青く美しい瞳。
 それでいて、射貫くような力強い視線。

 俺は、思わず目をそらしてしまう。
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