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第2話【完結】
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その日の夜。
私はゴードリックをサロンに呼び出した。
ゴードリックはいつも、約束した時間から三十分は遅れてやって来る。彼の頭の中には、『女は待たせて当然』という、ふざけた常識が根付いているらしい。
私はその三十分の間に、サロンに来ていた他の男性を物色した。
少し話して、多少なりともこちらに好意を持ってくれた青年と、寄り添い、恋人のように顔を近づけ、言葉を交わし合う。その時、やっとゴードリックがやって来た。ちらりと彼に目をやると、その顔は、怒りで真っ赤になっている。
男尊女卑的思想の塊であるゴードリックにとって、自らの婚約者が、他の男とべったり寄り添う姿を見せつけられるのは、たまらない屈辱なのだろう。
私は、ほくそ笑んだ。
だって、ゴードリックに屈辱を与えたくて、わざとやってるんだもの。
どう? ゴードリック。たとえ好ましく思っていない女でも、自分の婚約者が他の男に色目を使っているのって、とても不愉快でしょう? ……あなたも昔、これと同じことを私にしたのよ。わざわざ私の目の前で、他の女を口説いたりしてね。
ゴードリックは怒りで唇をかみしめながらも、何も言ってこない。
彼が強気に出られるのは、か弱い女性だけであり、今私が寄り添っているような逞しい青年には、物申すこともできないのだろう。惨めなゴードリックに見せつけるように、私はその後も、青年との熱い語らいを楽しんだ。
・
・
・
そして、最初に述べた通り、怒り心頭のゴードリックは私との婚約を破棄した。
お互いに清々した気分だが、ゴードリックは一つ忘れていることがある。
前にも言ったが、この国では、女の方から婚約を破棄することはできない。……しかし、婚約破棄できる男の方が、圧倒的に優位な立場にいるかと言えば、必ずしもそうではないのだ。
公的に決めた婚約を一方的に破棄したことは、あっという間に人々の間に広まり、『女を捨てた男』として、悪名が世間に浸透してしまう。
もちろん、女の方が不貞を働いたなどの、それ相応の理由があれば話は別だが、私はただ、遅刻の常習犯である婚約者に待ちぼうけを食わされ、小一時間ほどサロンのお客と語り合っていただけだ。それで浮気だのなんだのと言う方がどうかしてる。
案の定、ゴードリックの悪評は、もの凄いスピードで世間に広まった。
この国は、男性の立場が強い分、弱い立場の女を大切にしない男は、もう男として扱ってもらえないのだ。数ヶ月後、どんな女からも相手にされなくなったゴードリックは、私の前に手を突いて、「破棄した婚約を結びなおし、名誉を回復したい」と泣きついてきた。
……馬鹿じゃないの?
そこは嘘でも、『今になってきみの大切さがわかった』とか言うところでしょ? 『名誉を回復するために婚約を結びなおしたい』って、私はあなたの名誉回復装置じゃないのよ。
私はゴードリックを見下ろし、何の感情も込めずに言い放つ。
「婚約破棄したいって言いだしたのは、あなたのほうでしょ? 今更もう遅いわよ」
終わり
私はゴードリックをサロンに呼び出した。
ゴードリックはいつも、約束した時間から三十分は遅れてやって来る。彼の頭の中には、『女は待たせて当然』という、ふざけた常識が根付いているらしい。
私はその三十分の間に、サロンに来ていた他の男性を物色した。
少し話して、多少なりともこちらに好意を持ってくれた青年と、寄り添い、恋人のように顔を近づけ、言葉を交わし合う。その時、やっとゴードリックがやって来た。ちらりと彼に目をやると、その顔は、怒りで真っ赤になっている。
男尊女卑的思想の塊であるゴードリックにとって、自らの婚約者が、他の男とべったり寄り添う姿を見せつけられるのは、たまらない屈辱なのだろう。
私は、ほくそ笑んだ。
だって、ゴードリックに屈辱を与えたくて、わざとやってるんだもの。
どう? ゴードリック。たとえ好ましく思っていない女でも、自分の婚約者が他の男に色目を使っているのって、とても不愉快でしょう? ……あなたも昔、これと同じことを私にしたのよ。わざわざ私の目の前で、他の女を口説いたりしてね。
ゴードリックは怒りで唇をかみしめながらも、何も言ってこない。
彼が強気に出られるのは、か弱い女性だけであり、今私が寄り添っているような逞しい青年には、物申すこともできないのだろう。惨めなゴードリックに見せつけるように、私はその後も、青年との熱い語らいを楽しんだ。
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そして、最初に述べた通り、怒り心頭のゴードリックは私との婚約を破棄した。
お互いに清々した気分だが、ゴードリックは一つ忘れていることがある。
前にも言ったが、この国では、女の方から婚約を破棄することはできない。……しかし、婚約破棄できる男の方が、圧倒的に優位な立場にいるかと言えば、必ずしもそうではないのだ。
公的に決めた婚約を一方的に破棄したことは、あっという間に人々の間に広まり、『女を捨てた男』として、悪名が世間に浸透してしまう。
もちろん、女の方が不貞を働いたなどの、それ相応の理由があれば話は別だが、私はただ、遅刻の常習犯である婚約者に待ちぼうけを食わされ、小一時間ほどサロンのお客と語り合っていただけだ。それで浮気だのなんだのと言う方がどうかしてる。
案の定、ゴードリックの悪評は、もの凄いスピードで世間に広まった。
この国は、男性の立場が強い分、弱い立場の女を大切にしない男は、もう男として扱ってもらえないのだ。数ヶ月後、どんな女からも相手にされなくなったゴードリックは、私の前に手を突いて、「破棄した婚約を結びなおし、名誉を回復したい」と泣きついてきた。
……馬鹿じゃないの?
そこは嘘でも、『今になってきみの大切さがわかった』とか言うところでしょ? 『名誉を回復するために婚約を結びなおしたい』って、私はあなたの名誉回復装置じゃないのよ。
私はゴードリックを見下ろし、何の感情も込めずに言い放つ。
「婚約破棄したいって言いだしたのは、あなたのほうでしょ? 今更もう遅いわよ」
終わり
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