幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
1 / 30

第1話

しおりを挟む
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」

 もう何度目だろう。
 ジョセフが私とのデートをドタキャンするのは。

 私は小さく「そうですか」と言い、魔法の通信機を切った。

 以前のジョセフは、予定を取りやめる時は、ちゃんと使いの者をよこしてくれたが、最近はもっぱら、魔法の通信機を使い、そっけない言葉を述べるだけである。その声色には、もはや申し訳なさそうな様子すらない。

 ちょっと前までは、ジョセフとのデートがダメになるたび、寂しさと悲しみで胸がいっぱいになったが、今ではもう、呆れる感情の方が、ずっと大きい。

 彼はいつも、病弱な幼馴染――パメラを優先する。

『パメラが熱を出したんだ。今日の予定はキャンセルさせてくれ』
『パメラが咳をしてるんだ。今日の予定はキャンセルさせてくれ』
『パメラがだるそうなんだ。今日の予定はキャンセルさせてくれ』

 ……とまあ、いつもこんな感じである。

 何故、パメラの体調が悪いという理由で、ジョセフが彼女のもとに駆け付けなければならないのだろう? そんなに体調が悪いなら、お医者様を呼ぶべきじゃない、常識的に考えて。

 だいたい、熱や咳ならともかく、『だるそうだから』って、何よそれ、馬鹿じゃないの。

 私は何度か、今思った通りのことをジョセフに言ったが、ジョセフはいつも面倒くさそうな顔をして『パメラは医者が苦手なんだ。だから、僕が行かないと駄目なんだよ』と繰り返すだけである。

 ……『医者が苦手』か。
 それは、そうでしょうね。

 だって、パメラの病気は、仮病なんですから。
 お医者様に診てもらったら、すぐにそれがバレてしまうものね。

 もうずっと前の話だが、私はジョセフと一緒に、調子が悪いというパメラのお見舞いに行ったことがある。その時は、彼女の仮病を見抜いてやろうとか、そんな意地の悪い考えは持っておらず、ただ純粋に、婚約者の幼馴染を気遣っての行動だった。

 しかし、寝室で横になっているパメラを見て、私は小さな不信感を覚えた。彼女が、驚くほど元気そうだったからだ。

 顔色が良いからといって、必ずしも健康とは限らないが、それにしたって、パメラの顔色はあまりにも良好すぎた。少しだが、医学の心得がある私は、『体調が悪いなら、ちょっと私が診てあげる』と言い、パメラを診察した。……最初の印象通り、パメラはまったくの健康体だった。

 パメラは一瞬、私に不愉快そうな目を向けてからニッコリ笑顔になり、『フェリシティアさんのおかげで、元気になったわ、どうもありがとう』とお礼を言った。
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

処理中です...