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第5話【完結】
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……おや?
穴の底から、何か声がします。
キュリック様が、何か言っているようです。
「たの……頼む……頼む……助け……助けを……呼んできてくれ……こ、このままじゃ……僕は……死んでしまう……色々、酷いことを言って……悪かった……謝る……心から、謝るよ……だから頼む……見捨て……ないで……」
ううん……
何を言っているか、良く聞こえません。
私は困ったように首を傾げ、言いました。
「ごめんなさい、キュリック様。もう少し大きな声で話してもらってもいいですか? なんたって私、あなたのおうちの使用人のお婆さんより、耳が遠いものですから」
キュリック様は、何かを必死に伝えようとしていますが、その声は段々と小さくなっていきます。恐らく、先程の哀訴で、残った体力のすべてを使い切ってしまったのでしょう。
私は肩をすくめ、言いました。
「あの、キュリック様。申し訳ありませんが、何を言ってるのか聞き取れないんで、私、帰りますね。あっ、そうそう。婚約破棄の件、まだハッキリ、お返事をしていませんでしたね。あなたが私を叩いたから、お返事、できませんでしたものね。ああ痛い。切れた口の中が、まだ痛みます。まあ、もういいですけど」
そこで一度言葉を切り、私は立ち上がると、穴に背を向けながら、話を続けます。
「婚約破棄、確かに承知いたしました。あなたのおっしゃった通り、私たちは今日限りのお付き合いです。私はもう、あなたに対して、何の干渉も致しません。どうぞ、愛する彼女さんと、添い遂げてくださいね……ぷっ、くくっ、できるものなら」
穴から、呻きとも嘆きともつかぬ声が、響いてくる。
それを聞きながら、私は軽やかな足取りで帰路についた。
さて、帰ったらティータイムにしましょうか。
運動をしたから、お腹がすいたわ。
メイドに頼んで、軽食でも用意してもらおうかしら。
終わり
――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです』を投稿しております。
聖女に選ばれた姉を逆恨みした妹が、計略を用いて聖女の座を奪うのですが、実力不足で自業自得の結末を迎えるざまぁ系の物語です。あんまり重苦しい展開のないお話ですので、気楽に見てもらえると嬉しいです!
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ううん……
何を言っているか、良く聞こえません。
私は困ったように首を傾げ、言いました。
「ごめんなさい、キュリック様。もう少し大きな声で話してもらってもいいですか? なんたって私、あなたのおうちの使用人のお婆さんより、耳が遠いものですから」
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そこで一度言葉を切り、私は立ち上がると、穴に背を向けながら、話を続けます。
「婚約破棄、確かに承知いたしました。あなたのおっしゃった通り、私たちは今日限りのお付き合いです。私はもう、あなたに対して、何の干渉も致しません。どうぞ、愛する彼女さんと、添い遂げてくださいね……ぷっ、くくっ、できるものなら」
穴から、呻きとも嘆きともつかぬ声が、響いてくる。
それを聞きながら、私は軽やかな足取りで帰路についた。
さて、帰ったらティータイムにしましょうか。
運動をしたから、お腹がすいたわ。
メイドに頼んで、軽食でも用意してもらおうかしら。
終わり
――――――――――――――――――――――――――――――――
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