16 / 50
第16話
しおりを挟む
レオナールも、自らの存在が冷気のようなものを発していることを理解しているのか、マリエラに直接触れることは稀だった。今夜もテーブルを挟み、節度ある距離を保ちながら二人は談笑する。成人した男女の寝室の逢瀬にしては、あまりにも奥ゆかしく、初心で、可愛らしい夜であった。
それでも、心の通じ合う相手とする『他愛のない会話』というのは、なんと楽しいのだろう。あれこれ聞こうと思っていたマリエラだが、しばらくはそれを忘れ、レオナールとの会話に夢中になる。大半は魔王としての執務の話で、専門的な内容については詳しくわかるはずもないのだが、それでも楽しかった。
きっと、大切な相手とする会話、大切な相手と過ごす時間に、内容など関係ないのだろう。大事なのは『何をするか』じゃない。『誰と過ごすか』だ。誰とも過ごすことのなかった聖王国での自分は、なんと孤独だったのだろう。そんな想いが、ほとんどそのまま口から出る。
「こうしてレオナール様と過ごす時間は、すごく楽しいです。不思議ですね。お互いに冗談を飛ばし合っているわけでもないのに」
「そうだな。それに楽しいだけではなく、とても心が安らぐよ。願わくば、こんな時間がずっと続いてほしいものだ……」
それは、わずかながら影を含んだ言葉だった。まるで『こんな時間がずっと続きはしない』ことを分かっているから、悲しいほど懸命に『続いてほしい』と願いをかけているような、そんな儚い言葉……
マリエラは首を傾げ、問う。
「レオナール様は、こんな時間はそう長くは続かないとお考えなのですか?」
そこで、レオナールは『しまった』というような顔になる。余計なことを言って、この場の温かな空気に水を差してしまったことを、心の底から後悔している表情だった。同時に、愛しいレオナールにそんな顔をさせてしまったことを、マリエラも後悔した。
だが今の表情の変化で、『こんな時間がずっと続いてほしい』というレオナールの想いが、会話の中で出た単なる願いとは違う、もっと切実なものであることをマリエラは理解した。単なる願いなら、これほど深刻な表情になることはない。『いつまでも続くさ。当然のことだ』と話を結べばいいだけのことだ。
そして、レオナールもマリエラが疑念を抱いたことに気づいていた。この二人は、あまりにも直感力に優れていた。だから互いに、適当なごまかしで場を濁すことなどできなかった。濁せば濁すほど、その澱が心の奥底に沈殿、浸透し、不安を色濃くしていくことが分かっているから。
レオナールは小さくため息を漏らし、意を決したように言う。
「マリエラ。この地でのきみの暮らしが、もう少し落ちついてから話そうと思っていたのだが、こういう会話の流れになったのも運命の導きだろう。だから、重要なことを今から話す」
それでも、心の通じ合う相手とする『他愛のない会話』というのは、なんと楽しいのだろう。あれこれ聞こうと思っていたマリエラだが、しばらくはそれを忘れ、レオナールとの会話に夢中になる。大半は魔王としての執務の話で、専門的な内容については詳しくわかるはずもないのだが、それでも楽しかった。
きっと、大切な相手とする会話、大切な相手と過ごす時間に、内容など関係ないのだろう。大事なのは『何をするか』じゃない。『誰と過ごすか』だ。誰とも過ごすことのなかった聖王国での自分は、なんと孤独だったのだろう。そんな想いが、ほとんどそのまま口から出る。
「こうしてレオナール様と過ごす時間は、すごく楽しいです。不思議ですね。お互いに冗談を飛ばし合っているわけでもないのに」
「そうだな。それに楽しいだけではなく、とても心が安らぐよ。願わくば、こんな時間がずっと続いてほしいものだ……」
それは、わずかながら影を含んだ言葉だった。まるで『こんな時間がずっと続きはしない』ことを分かっているから、悲しいほど懸命に『続いてほしい』と願いをかけているような、そんな儚い言葉……
マリエラは首を傾げ、問う。
「レオナール様は、こんな時間はそう長くは続かないとお考えなのですか?」
そこで、レオナールは『しまった』というような顔になる。余計なことを言って、この場の温かな空気に水を差してしまったことを、心の底から後悔している表情だった。同時に、愛しいレオナールにそんな顔をさせてしまったことを、マリエラも後悔した。
だが今の表情の変化で、『こんな時間がずっと続いてほしい』というレオナールの想いが、会話の中で出た単なる願いとは違う、もっと切実なものであることをマリエラは理解した。単なる願いなら、これほど深刻な表情になることはない。『いつまでも続くさ。当然のことだ』と話を結べばいいだけのことだ。
そして、レオナールもマリエラが疑念を抱いたことに気づいていた。この二人は、あまりにも直感力に優れていた。だから互いに、適当なごまかしで場を濁すことなどできなかった。濁せば濁すほど、その澱が心の奥底に沈殿、浸透し、不安を色濃くしていくことが分かっているから。
レオナールは小さくため息を漏らし、意を決したように言う。
「マリエラ。この地でのきみの暮らしが、もう少し落ちついてから話そうと思っていたのだが、こういう会話の流れになったのも運命の導きだろう。だから、重要なことを今から話す」
37
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする
藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。
そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。
派手な魔法も、奇跡も起こさない。
彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、
魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。
代わりはいくらでもいる。
そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。
魔法は暴走し、結界は歪み、
国は自分たちが何に守られていたのかを知る。
これは、
魔法を使わなかった魔術師が、
最後まで何もせずに証明した話。
※主人公は一切振り返りません。
私を陥れたつもりのようですが、責任を取らされるのは上司である聖女様ですよ。本当に大丈夫なんですか?
木山楽斗
恋愛
平民であるため、類稀なる魔法の才を持つアルエリアは聖女になれなかった。
しかしその実力は多くの者達に伝わっており、聖女の部下となってからも一目置かれていた。
その事実は、聖女に選ばれた伯爵令嬢エムリーナにとって気に入らないものだった。
彼女は、アルエリアを排除する計画を立てた。王都を守る結界をアルエリアが崩壊させるように仕向けたのだ。
だが、エムリーナは理解していなかった。
部下であるアルエリアの失敗の責任を取るのは、自分自身であるということを。
ある時、アルエリアはエムリーナにそれを指摘した。
それに彼女は、ただただ狼狽えるのだった。
さらにエムリーナの計画は、第二王子ゼルフォンに見抜かれていた。
こうして彼女の歪んだ計画は、打ち砕かれたのである。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
婚約者を奪われ魔物討伐部隊に入れられた私ですが、騎士団長に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のクレアは、婚約者の侯爵令息サミュエルとの結婚を間近に控え、幸せいっぱいの日々を過ごしていた。そんなある日、この国の第三王女でもあるエミリアとサミュエルが恋仲である事が発覚する。
第三王女の強い希望により、サミュエルとの婚約は一方的に解消させられてしまった。さらに第三王女から、魔王討伐部隊に入る様命じられてしまう。
王女命令に逆らう事が出来ず、仕方なく魔王討伐部隊に参加する事になったクレア。そんなクレアを待ち構えていたのは、容姿は物凄く美しいが、物凄く恐ろしい騎士団長、ウィリアムだった。
毎日ウィリアムに怒鳴られまくるクレア。それでも必死に努力するクレアを見てウィリアムは…
どん底から必死に這い上がろうとする伯爵令嬢クレアと、大の女嫌いウィリアムの恋のお話です。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?
春夜夢
恋愛
処刑台に立たされた公爵令嬢エリス・アルメリア。
無実の罪で婚約破棄され、王都中から「悪女」と罵られた彼女の最期――
……になるはずだった。
『この者、神に選ばれし者なり――新たなる聖女である』
処刑の瞬間、突如として神託が下り、国中が凍りついた。
死ぬはずだった“元・悪女”は一転、「聖女様」として崇められる立場に。
だが――
「誰が聖女? 好き勝手に人を貶めておいて、今さら許されるとでも?」
冷笑とともに立ち上がったエリスは、
“神の力”を使い、元婚約者である王太子を皮切りに、裏切った者すべてに裁きを下していく。
そして――
「……次は、お前の番よ。愛してるふりをして私を売った、親友さん?」
清く正しい聖女? いいえ、これは徹底的に「やり返す」聖女の物語。
ざまぁあり、無双あり、そして……本当の愛も、ここから始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる