懸命に働いた結果、無実の罪で魔王への生贄にされた聖女。でも、その『氷華の魔王』様に溺愛され、誰よりも幸福な人生を手に入れました。

小平ニコ

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第19話

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 調度品の数も少なく、家具らしい家具は眠るためのベッドと、アンティークの小さな文机、そしてレオナールの長身を受け止めるには頼りなさすら感じる小さな椅子だけである。二人でゆったりと過ごすソファなどはないので、並んで腰かけられる場所は自然とベッドの上ということになる。

 なので二人は、毎夜ベッドの上に隣り合って座り、これまで通りに日常の些細な喜びや感動を語り合った。愛する二人が寝所を共にしているというのに、恥じらいも、燃え盛るような熱情もなかった。

 生まれついて超常的な力を持ち、短命の運命を背負うレオナールと、聖女として非凡な力を持ち、長い時間オルムスト聖王国への献身のみに生きたマリエラ。二人の人生はあまりにも『普通』とは違いすぎた。そのため、二人の精神性は普通の男女とは大きく異なり、何事にも達観しすぎているのかもしれない。

 俗人同士の情欲にまみれた戯れとはまるで違う、清らかで無垢に語らう二人の姿は、さながら神話の彫像のようであった。

 それでも、ベッドの上で隣り合い、冷たいながらもレオナールの体温を感じながら話をすると、マリエラの胸は確かに高鳴った。レオナールも、命を蝕むように冷え切った体に、確かな熱が巡るのを感じていた。二人は決して恋やときめきを忘れた無機質な彫像ではなかった。

 レオナールとて男。愛する女に何の情熱も抱かぬわけがない。しかし、触れ合う程度ならともかく、強く彼女を抱きしめれば、レオナールの命を削る冷気は、マリエラの体をも侵食していくだろう。だから、何もしない。

 マリエラはレオナールが望むのであれば、この身などいくら傷ついても構わないと思っているが、マリエラが傷つけばレオナールが苦しむことを誰よりも理解しているので、何かをするように求めることはなかった。

 互いを思いやる愛情ゆえの、もどかしい夜がずっと続いている。しかし、そのもどかしさすらも、愛しい人と過ごす喜びのひとつだとマリエラは思っていた。

 せつない――もどかしい――そういう気持ちを感じるのも、レオナールが生きていればこそだ。彼がいなくなれば、せつなさももどかしさもなくなり、あるのは寒々とした孤独だけ。その孤独を想像すると、心の底から身震いがした。

 今から8年か9年……長くて10年。『レオナール様がいなくなった後の長い孤独に、私は耐えられるだろうか?』マリエラは常に自問している。そのたびにでる答えは、決まって『無理に決まっている』というものだった。

 愛を知らなかった頃なら、どんな苦痛にも耐えられた。でも、知ってしまったら愛のない人生で正気を保てるとは思えなかった。それに、聖女のように高い魔力を持つ人間の寿命は長い。マリエラの魔力であれば、恐らく300年は生きられる――いや、生きねばならない。
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