懸命に働いた結果、無実の罪で魔王への生贄にされた聖女。でも、その『氷華の魔王』様に溺愛され、誰よりも幸福な人生を手に入れました。

小平ニコ

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第21話

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 いつも穏やかで大きな声を発することなどなかったマリエラの激烈な反応に、ディオリスも少しだけ驚いていたが、すぐに気を取り直して言葉を続けていく。

「魔王国グレスウェアの王族のみに伝わる禁術で『移命の法』というものがあります。読んで字のごとく、他者の命を移し、延命を図るのです。いにしえの邪悪な権力者たちは、この方法を使って民の命を絞り取り、長い時を生きてきました。あまりにも非人道的ゆえ、心ある名君が禁術とし、以後は使用を禁じたのです」

 そういえば、聖王国にいた時におとぎ話で聞いたことがある。『魔王は民から命を吸い取る。奴は邪悪の権化。だから我々は魔王を恐れるのだ』と。魔王国に敵意を抱かせるためのプロパガンダのようなものだと思っていたけど、一抹の真実を含んでいたのか。

「つ、つまりあなたは、レオナール様がその邪悪な禁術を使い、民の命を吸い取って長生きすればいいと言っているの? でも、そんなこと……」

 あのレオナール様が望むはずがない。『氷華の魔王』は、敵には容赦がないが、民を愛する偉大で優しい王。自らのために民を犠牲にするなんて、そんな選択を決して選びはしないだろう。

 ディオリスは力強く頷き、まっすぐマリエラの目を見て話を続ける。

「王妃様のお考えになっていること、よくわかります。魔王様が民の命を犠牲に延命を図ることなどありえません。あの方は、『移命の法』を禁じた名君ルワンデ様と肩を並べるほどの偉大な王ですから。……そんな方だからこそ、今の治世を守るためにも、長く生きていただきたいのです」

 今度はマリエラが力強く頷いた。レオナールに長く生きてほしいという気持ち――願いは、二人とも同じだった。

「王妃様はこのグレスウェアに来られて日が浅いため、まだご存じないかもしれませんが、この国も決して一枚岩ではありません。『移命の法』を禁じた名君ルワンデ様の一族であるレオナール様を快く思っていない傍系の王族が存在するのです」

「傍系の王族……」

「『氷華の魔王』レオナール様があまりにも強いので、武力を用いて反逆するようなことはありませんが、反抗心があるのは明らか。そして、連中もまた強力な魔法使いであり、有している権力、財力、発言力もかなりのもの。決して侮っていい相手ではありません」

「詳しくはないけど、噂程度には聞いているわ。レオナール様はそういう人たちを完全に権力の座から遠ざけるために手を尽くしているけど、彼らも魔王の家系に連なるものとして強い力を持つから、なかなか一筋縄ではいかないって」

「ええ。最終的には『移命の法』を解禁し、再び王族が民の命を吸い上げ、永遠の絢爛たる人生を手にしようともくろむとんでもない奴らです。魔力も権力もあり、悪知恵も回る。いかにレオナール様でも、連中を骨抜きにするためには時間がかかります。少なくともあと二十年は必要でしょう」

「でも、レオナール様にそんな時間は……」

「そうです。レオナール様が短命であることは傍系の王族たちにも知られています。だからは奴らは、口や態度で反抗するだけで、少し怒られればたちまちへりくだり、波風を立てずに従属して力を蓄えているのです。レオナール様の死後、一気に行動を起こすために」

「…………」
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